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【書籍紹介】BTSとARMY

コミュニティや推し文化を理解するには、まずはARMYから。ということで、本書を手に取りました。

私は、2020年9月~2022年6月まで米国に駐在しており、BTSが米国でいかに人気があったかを肌感覚として理解しています。

当時、日本人同僚の娘さん(中学生)がBTSの大ファンで歌詞を理解する為に韓国語を習得。米国で英語の家庭教師としてつけた米国人女性もBTSファンで、気がついたら英語を教わるはずが、娘さんがその方に韓国語を教えていたという笑い話も。

BTSのファンダムであるARMY。本書を読むと、上述のエピソードは、まだ序の口であることが理解できます。

以下、米ビルボードでランキング1位を取得した手法を一例として紹介します。

ビルボードのチャートがカウントするのは、アメリカ国内でのデジタル音源とアルバムの販売、そしてストリーミングだけだ。そのため、アメリカとプエルトリコのARMYは音源の購入とストリーミングをし、その他のグローバルのARMYたちはチャートの順位を上げるためにアメリカのラジオ局に曲をリクエストし、自分の国のチャートのためにアルバムを買い、国別の音源サイトでストリーミングとダウンロードをする。

この様にグローバルなファンダムが結束し、組織票でチャートを押し上げる。重要な役割を担うラジオエアプレイを促進する為に、地元のラジオ局を「どぶ板営業」でしらみつぶしに訪問して売り込んだARMYの事例も紹介されている。

Dynamite等、一部の曲は英語であるが、大半の曲は韓国語の為、初期の頃、米国のラジオ局でオンエアしてもらうハードルは相当高かったそうです。

一般的なK-POPのイメージは、イケメン達を集めたボーイズグループ。音楽性よりもルックスやダンスを重視。ファン層は10代、20代の女性が大半。

BTSの特徴は、国境を越えたグローバル展開だけでなく、年齢・性別も超えて広く支持されていること。単にイケメンを見て幸せというのではなく、歌詞を深く読み込み、彼らの苦悩を分かち合い、成長を応援する。BTSを深く理解する為に韓国語を覚えるというのは、先の同僚の娘さんに限らず、ARMY達の間では珍しいことではない様です。

BTSが現在のような世代や人種を超えたグローバルなファンダムを築いた背景には、もっと深い共感の力があると考える。成長する存在としてのBTSに対する共感だ。10代と20代のファンにとってはロールモデルであり、共鳴する同世代。30代と40代のファンには、通り過ぎてきた青春のもろさと不安、そして克服の象徴として。BTSという不完全な存在が、時に自分を疑いながらも歩みを止めず成長していく美しさに、すべての世代のファンが共感するのだろう。

ARMYの特徴は、単なるファンクラブにとどまらないこと。社会をよくする為に寄付を募って実行したり、時には政治に介入することすらある。BTSを核とした政治団体や宗教団体的な側面もある。

個人が幸せになるためには、個人が集まって作る社会が変わらなければならない。だから、社会に変化をもたらすことができるよう、連帯して動いていこう。かくして、ただの消費の主体として扱われてきたファンダムは、社会的な主体として生まれ変わった。

BTSが私たちを成長させてくれた。わずかながら恩を返し、世界をより良い場所にしたい。ARMYには、アイドルファンに対する偏見を乗り越える何かがある。BTSの為に少しでも善き人でありたい。そう語るARMYこそが、BTSが世に出した最高の遺産かもしれない。

「BTSを応援する」という共通の目的の元、年齢・性別・人種・国籍を超えた多くの人が集まり、団結し、共同作業を行う。さながら、ひとつの国のごとく。

この共通の価値観を軸に属性の異なる人々が集まり、サードプレイスを形成するというのは、私が関わって来たweb3コミュニティでも同様のことが起きています。それが、いかに心地良いのか。なぜ、人々は進んでコミュニティの為に無償でリソースを提供するのか。実体験として良く理解できます。

ファンとは、自分の推しに無限の愛を与える人を意味する。愛の対象は、商品のブランドや芸能人、ドラマや映画に至るまで千差万別だ。ファンダムは、このような推しを共通分母とする「推しで結ばれた共同体」だ。

BTS現象とは、弱小プロダクション発の韓国人グループが「アンダードッグ(持たざる者)」として世界制覇に挑戦する成長の物語。そこに共鳴するファンダムであるARMYとの共創により実現された。

従来のエンタメ界のスタンダードに風穴を開けたBTSの歩みは、厳密に言えば、BTSが象徴するものをARMYが受け入れ熱烈に支持することで生み出された結果とみなされるべきだ。

「深みもメッセージも成長もない音楽をするボーイズバンド」という先入観。

「英語圏のアーティストの曲だけがメジャーになれる」という米国中心的な見方。

「感情をさらけださず、ルックスは気にかけないのが本物の男」という男らしさに対する見解。

「アイドルが社会問題や自分の心の病について話すのは難しい」という考え。

これらすべてが、BTSの登場によって打ち砕かれていった。

それはARMYがBTSの追求する方向性を熱心にサポートし、彼らのアイデンティティとして承認したためだった。

この点がまさに、BTS現象の重要な要因として、ARMYにスポットライトを当てるべき理由である。

生まれた環境(血縁、地縁)や職場とは異なる、共通の価値観をベースに自らの意志で所属するコミュニティ。不確実で生きづらい時代を支えていく、心のよりどころとして、益々、重要になっていくのではないでしょうか?

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