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【書評】戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則 本田哲也著

本田哲也氏の「戦略PR」。2009年に初版が発売となり、戦略PRという言葉を日本に定着させる契機となった著作。

戦略PRとは宣伝力や商品力ではない。戦略PRとは、商品が売れるためにつくり出したい空気、カジュアル世論をつくることだ。

戦略PRとは、メディア、ひいては消費者の関心を最大化できるテーマを設定し、そのテーマを広げることで商品の売上に貢献するという「シナリオ」を描き、そのシナリオを具現化させるための綿密なチャネル設計を行い、設計に基づき情報の伝播を仕掛ける、という一連の流れ

本書で提示された3つのキーワードが

  • おおやけ:社会性を担保。マスメディアの得意領域

  • ばったり:偶然性を演出。SNS/クチコミの得意領域

  • おすみつき:信頼性を確保。インフルエンサーの得意領域

戦略PRのテーマ設定のコツは、「自分が言いたいこと」をテーマにするというよりは、「世の中みんなが興味を持っていること」から引っ張ってくるというところだ。そして、「商品の強み」も、うまいことその「みんなの興味」に近いところに落とし込む。ここさえ上手にできれば、あなたのプランはすでに実行に移す前に成功が約束されたようなものだ。

「商品便益」「世の中の関心事」「生活者の関心事とメリット」この3つをカバーするストーリーを作り、発信する。

身近な人間関係でも、自慢ばっかりしてるヤツはたいがい敬遠されるけど、みんなの興味をよく把握していて、それについてイケてる話ができるヤツは人気がある。その話の続きでさりげなく自慢が入っても、まったく違和感がないどころか、むしろ自然に好感を持つであろう。

この例えはわかりやすいですね。相手(生活者)の関心事に寄り添い、世の中の関心事(社会性)も取り込んだ上で、商品便益(自慢)を伝える。

この「戦略PR」の続編にあたるのが「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」。

2017年4月発売の書籍で、ちょうどこの年の7月に私がマレーシアから帰任し、米国でのPRプロジェクトの責任者を任命された。当時、何度も読み返し使い倒した書籍です。

今回は、「おおやけ」「ばったり」「おすみつき」に、「そもそも」「しみじみ」「かけてとく」が加わり、6キーワードとなった。

  • そもそも:普遍性の視座

  • しみじみ:当事者性を醸成

  • かけてとく:機知性の発揮

そもそもとは「潜んだ普遍性」。社会であきらかになり過ぎていることではなく、かと言って誰も思いつかない斬新なことでもない。

言われれば納得する普遍的な内容であるが、日常、あまり意識することがない。従って、改めて焦点があたると新鮮に感じ、印象に残る。「よくぞ言ってくれた」を引き出す本質的な価値転換。

そもそもの事例として紹介されていたのが、ポーラ化粧品の「Call Her Name」プロジェクト。

子供ができて母親になってしまうと、家庭では一人の女性とは見られなくなる。それに対し、「ママ」ではなくファーストネームで呼ぶことで19名の被験者の内、美のホルモンと呼ばれるオキシトシンの平均濃度が15.9%増加したそうだ。

「すべての女性には、美しさという本能がある。」
それはポーラが、すべての女性におくるソーシャルアクティビティ。
今回私たちが挑戦したのは、現代社会でさまざまな役割を担って生きるすべての女性たちに宿る、「美しさという本能」を呼び覚ますこと。

注目したのは、誰もが持っている“名前(ファーストネーム)”。 日本の女性は、結婚をして母親になると、名前ではなく、「お母さん」や「ママ」などの呼称で呼ばれるようになる人が77%に上ります。 ※ポーラ社調べ

そこで私たちは、普段ファーストネームで呼ばれていない母親を、再びその名前で呼ぶことで、彼女たちに眠る「美しさという本能」を呼び覚ますことができるのではないか、という仮説を持ちました。

“Call Her Name” はすべての女性たちに宿る「美しさという本能」を呼び覚ますサイエンス実験です。

YouTube:ポーラ公式チャネル

「おおやけ」がその時点での「社会的な横の広がり」だとしたら、「そもそも」は時間の流れを見る「縦の時間軸」という説明は実にわかりやすい。

「しみじみ」とは、当事者性の醸成。自分ゴト化させ、感情に訴えるストーリーテリングとも言い換えられる。

しみじみの事例は、フィリップスの「Breathless Choir(息のできない合唱団)」

呼吸器官に障害や病気を持つ、同社の呼吸補助機器のユーザーを集め、著名な指揮者を招聘。合唱の特訓を行い、ニューヨークの伝統あるアポロシアターで公演を行うという壮大な企画。

英語の動画ですが、英語ができない人でもほぼほぼ理解できる内容と思います。

呼吸補助機器も動画にさりげなく登場していますが、それ自体の効果よりも感動のストーリーを通じて、フィリップス社への好意度があがる。コーポレートブランディングとしての効果がメイン。

「かけてとく」とは機知性の発揮。一休さんで有名なとんちをPRクリエイティブに応用すると考えるとわかりやすい。

かけてとくの事例として紹介されたのが、バーガーキングの事例。

LGBTを支持するイベント「プライド(Pride)」期間中に発売された特別仕様の「プラウドワッパー(Proud Whopper)」。

虹色のラップに包まれた謎のバーガーが突如登場。店員に尋ねても「私も良くわかっていないの」との回答。

気になって購入して食べてみると中身は通常のワッパー。そして、ラップの内側には「We are all the same inside(中身は皆同じ)」というメッセージが。

機知性の高いコミュニケーションは、受容性の向上や拡散性の強化といった本質的なPR効果を狙う大切な要素。PRプランナーの腕の見せ所。

本書最後の事例は、「片づけの魔法」で有名な近藤麻理恵(こんまり)さん。米タイム誌で「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれた同氏の事例を戦略PRのフレームワークに当てはめて解説。

こんまりさんの事例は、同書をプロデュースした土井英司さんの記事がわかりやすいのでご紹介します。

以前、土井さんのセミナーを受講した際に聞いたエピソードが印象的です。土井さんが夫婦関係で悩まれていた際、こんまりさんが「私が相談に乗るわよ。なんと言っても、私は不要なものを捨てるプロなんだから」と(笑)。

本田さんのフレームワークで言うと「おおやけ」×「かけてとく」という感じでしょうか?

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