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日本の監督といえばAkira Kurosawaではなく、Toru Muranishiという時代が来るかもしれない。Netflix「全裸監督」

8/8からNetflixで配信開始した「全裸監督
アラフィフの私にとっては大きな衝撃を与えたAV監督、村西とおるの波瀾万丈の人生と、AV女優のイメージを一新した黒木香の生い立ちが平行して描かれクライマックスで交錯していく。

これがメチャクチャ面白い!1話を観はじめたら8話まで一気に観てしまう。山田孝之扮する真面目なセールスマン、村西とおるビニ本と出会いエロが金になるという事に気付き、オリジナルの裏本を武器に札幌で一大勢力を築き上げる。そして、東京へ進出しアダルトビデオの帝王へと成り上がっていくストーリー。
この気持ち良さ、何かに似ていると思ったらドラマ「ブレイキング・バッド」を彷彿とさせるのだ。そちらの方は真面目な理科教師が自分のがん宣告を契機に覚醒剤作りへと手を染めて、麻薬の帝王まで登りつめる物語。いままで見たドラマの中で一番好きな作品だ。そう思うと、主人公の相棒の青年ピンクマン満島真之介演じるトシも重なってくる。
それもそのはず、「全裸監督」の制作序盤でパブロ・エスコバルという麻薬王をモデルにしたNetflixのヒット作「ナルコス」の脚本家を招いてワークショップを開催し世界観を作り上げたという話です。ここで村西とおるを時代のアンチヒーローとして描くというビジョンが決まったのかもしれない。個人的には「ナルコス」よりも面白い作品に仕上がってるように感じます。

ともかくトレーラーを見てほしい。山田孝之村西とおるぶりと周りを固めるキャストの豪華さに驚かされる。

このトレーラーを見ても分かる通り、日本ドラマらしからぬフィルムトーンに仕上がっている。エンドクレジットを見て驚いたのだがFotoKemの名前が連なっていた。ハリウッドのポストプロダクションで、自分も一度フィルムの現像をしてもらったことがある。そこで10日間かけて、カラーグレーディング(色調整)をしたらしい。キャスト、それに80年代の街並みを再現したセットとCG、そして撮影は巨匠山本英夫ときている。実に贅沢な制作過程だ。

ただ、やっぱりドラマシリーズとなると一人の監督で全話撮るということは叶わないらしく、3人の監督で回しているNetflixはエンドクレジット始まると同時に次の回に移行してしまうので、スタッフを確認するのには一手間かかる。第4話はそれまでに比べるとちょっと失速した印象を受けたので、ついクレジットを確認してしまった。サブキャストエキストラの動かし方ひとつで物語のリアリティがボケてくる。それと村西とおるのお金に感する考え方が如実に表れる回だったのでデリケートに作って欲しかった。案の定、総監督の武正晴の回ではなかったが、撮影技術陣は同じはずなのに全体のトーンまで変わった印象を受けてしまう事に演出家の影響の大きさを感じた。
黒木香の誕生となる第5話は持ち直して圧巻の出来でした。

ドラマとしての秀逸さもさることながら、自分も90年代を学生サークルがそのまま映像制作会社になったような20代を過ごしているから、サファイヤ映像の制作スタイルは共感できる部分が多過ぎた。
自分達の竹内芸能企画はどこかの会社の寮だったところを借りて7人くらいで共同生活しつつ、食堂などにセットを作っては撮影したりしていた。ウルフルズの「借金大王」MVも食堂にバスタブを持ち込んで札束を浮かばせトータスが服のまま入浴してるシーン撮っている。編集室もその寮の一部屋を使っていて、「全裸監督」に出てきたようなリニアの編集システムジョグダイヤルをキュルキュルやりながら編集してたのを懐かしく思い出した。第3話終盤の意味無くバスが爆発するシーンなんて、爆破がしやすいからとタイに行って、映画「Wild Zero」を撮影した当時そのまんまだ。とにかく当時は爆発すれば全てが丸く収まる的な風潮があった。打ち上げの場所まで爆発の仕掛けの謎のオヤジが画面の片隅に写ってるのが微笑ましい。
実際に村西とおるクリスタル映像が「全裸監督」のサファイヤ映像のようだったかは分からないが、竹内芸能企画がこんな感じだったという事は保証する。
80、90年代はそんな世紀末感溢れる滅茶苦茶な時代だったなぁ。

ともかく、この「全裸監督」は世界190ヶ国に向けて配信された。英語、ポルトガル語、中国語、韓国語の吹替も用意されている。プロデューサーも「日本の輸出産業はエロだ!」と鼻息荒くしてるらしいので、海外で日本の監督と言えばと聞けば「MURANISHI!」と返ってくる時代がやってくるのかもしれない。

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