プラモデルとミュージアム

 中世までのミュージアムはコレクションが主たる目的であった。神殿や教会が寄付を集める材料に、ゼウスがクロノスに食べさせた石だとか聖遺物だとかをコレクションしたり、王侯貴族が富の象徴として宝物を集めていたのである。

その後大航海時代になると、様々なモノが世界中から集まるようになる。その中には価値があるモノも、眉唾なモノもあった。支配者層はそれらの驚くべきモノや奇妙で魅力的なコレクションを集め、キャビネットや珍品の陳列室、驚異の部屋などと呼ばれる、それらをノンジャンルで集めた空間を作り出すようになる。これらが後に自然史博物館などに収蔵されることになり、今日のミュージアムの原型となっていくのである。

現代のミュージアムには近代以前よりも研究の場という色が強い。そして現代のミュージアムにはコレクションや研究以外に社会教育という側面がある。世界で最初に公開されたミュージアムはイギリスのアシュモレアンミュージアムである。それ以前は公に開かれたものとしてミュージアムは存在していなかった。体系化された展示や網羅的なキャプションを観る。キュレーターの話を聞き、体験活動をする。そういった学びの機会をいつでもだれでも、そこに行けば得ることが出来る。それがミュージアムの社会教育活動なのである。


以前からプラモデルというのはミュージアム的な部分があると思っていた。世の中にあるモノを模した造形物と箱や説明書に書いてあるそのモノの歴史や特徴。これはミュージアムの展示物とそれに付随したキャプションと同じ形式をとっている。そしてプラモデルを作るという「体験」をすることが出来る。しかし、現代的なミュージアムと一線を画すのはそれらが博物学的に価値のあるものでなくても、ましてや現実にあるものですらなくていいということである。

それはまさに近代以前のミュージアム。驚異の部屋に集められた人を驚かすための蒐集物のようであり、プラモデルを作る人々のその部屋は驚異の部屋になっているのである。

プラモデルは現代のミュージアムが持つ特徴を持ち合わせながらも、近代以前のミュージアムが持つ魅力も併せ持っている。

現実のモノを模したプラモデルはそこに実際のモノを投影している。そこで、リアリティを求めた工作や塗装をしたりすることで現代ミュージアム的な展示物として楽しむこともできる。しかし、それだけでなく、プラモデルは、全てプラスティックでできた珍品であるし、創作上のモノを模したプラモデルにリアリティを求めた工作を施したり、現実のモノを模したプラモデルに改造を施し珍品を生み出すこともできる。つまり前近代ミュージアム的な展示物としても楽しむことができる。

現代ミュージアムと前近代ミュージアムを行き来するように、モデラー(あるいはキュレーターと呼んでもいい)に対してプラモデルは自由な解釈を許してくれる。

バンダイから出たカップヌードルのプラモデルのような、プラスチックでできた珍品としても構造を学ぶための展示物としても楽しめるようなプラモデルをメーカーにはどんどん作ってほしい。そしてそれを皆さんに自由な解釈で作ってほしい。

体験を重視するのも、珍品を楽しむのも、リアリティを求めるのも、全てはモデラーでありキュレーターである皆さん次第である。

ただ、私としては、皆さんがそのコレクションをキャビネットにしまい込むのではなく、皆さんキュレーターの「ミュージアム」として見せていただけるとすごくうれしい。

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