(仮)猫である僕を日本全国の旅に連れていってくれてありがとう第5話「君の香り」

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なんだかさ、ぼくらの周りが異常に騒がしいんだよね。というか、多くの人達がぼくらの周りに集まっているんだけど? 

 一体どうしてこうなったんだっけ? 

 話は少し遡るんだけどね、ぼく達が岡山県に来てから湯郷温泉という場所に向かったんだよね。到着して外に出た瞬間、ぼくの目に映ったのはとても壮大な大自然の風景だった。

 感動したよね! こんなに素晴らしい大自然と美味しい空気は初めて体験したから。なんでも、ヨメとジュンの会話だと「湯郷温泉街は、悠々と流れる吉野川、遠くには岡山県最高峰の後山、那岐山、早朝には見事な雲海が広がるらしい」だってさ。

 おんせん? というのが何なのかは分からないけど、ぼくは猫だから体験することは出来ないみたい。それは、ちょっとだけ残念だけどね。

 そうそう、それでその温泉の前でジュンの膝に乗ってたら、いきなり見知らぬ人間がジュンに何か話しかけてきたんだ。なんだかお互いに楽しそうに話しているなぁ~って思った時にそれは起きたんだ。

 またまた見知らぬ人が1人、また1人とぼくらの近くに増えてきてさ、気が付けば多くの人達が集まっていたんだ。ぼくらの姿を見て、物珍しそうに眺めたり、話しかけてきたり、ぼくを優しく撫でてくれたりしてくれたんだよね。

 ぼくの姿が魅力的なのか、それともジュンがカッコいいのか、ヨメが美人からなのかは知らないけどさ、ぼくらはこの時、見知らぬ多くの人達から人気を得ていたんだ。

 これには、ぼくも驚いたけど、楽しかったなぁ~。

 「フア、面白い場所へ連れていってやるわ」

 その後、岡山県を離れる時にジュンがぼくにそう言ったんだ。ぼくは、どんな面白い場所に連れて行ってくれるのだろうかって、ずっと車の中でワクワクしてたんだ。楽しい事を考えてると、時間なんてあっという間だよね。

 「フア、着いたぞ?」

 気が付けば、目的地に到着してたぐらいだからね。ジュンに抱っこされて、車から降りたぼくは目の前に広がる見たこともない丘状に目が点になったよ。

 ジュン曰く、ここは鳥取県の鳥取砂丘という場所らしい。

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こんなの見たことないよ! なんなの、ここは? 全部が砂なの?

 なるほど、これがジュンの言ってた面白い場所なのね。分かるよ、ジュン。

 ここは、本当に面白いよ? 

 ぼくは直接この砂丘を歩いてみたくて、ジュンの肩から降りて歩いてみた。

 歩く度に手足に伝わってくる普通の砂とは異なる不思議な感触、そして、どこまでも続く砂丘にぼくは夢中になった。

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 あれ? 何、この匂いは? どこかで??

 夢中になって遊んでたから最初は気が付かなかったのだけど、ぼくの鼻に風と共に流れてくる懐かしい香り……この正体が知りたくて、ぼくは匂いの方向へと向かったんだ。

 匂いが強くなってくるけど、ぼくの目からは砂丘しか見えない。だから、ぼくは俯瞰(ふかん)出来る近場の丘を探したんだ。

※俯瞰(ふかん)の意=高いところから見渡すこと。

 丘に上がって、匂いのする方向を見てぼくはビックリした。目の前に広がる光景、それはとても広大な水の塊だったんだもの。

 ただの水とは違い、それは時折キラキラ輝きを見せる青い綺麗な水の塊だった。どこまでも、永遠ともいえる程に先が見えない水の塊。そこから、微かに漂ってくる懐かしい香り、それはまるで母親のような懐かしい香りに感じた。

 ぼくには母親の記憶はないけれども、もしも、母親がいたら……きっと、同じような匂いがしたのだろうか?

 「フア、あれは日本海や。海って言ってな、俺もヨメもフアにとっても生命の源でもあるんや」

 いつの間にかぼくの後ろに立っていたジュンが、ぼくに水の塊について教えてくれた。

 生命の源、だからなのかなぁ? 一度も見たことがない、今日初めて見る海なのに匂いだけは、どこかで嗅いだ記憶がするのは……

 その後は、ジュンとヨメと一緒に沢山遊んだんだ。とっても面白かったから、途中で遊び疲れてしまうぐらいにね。

 そんな疲れきったぼくをジュンは抱っこして車まで運んでくれた。疲れきったせいで、ぼくはジュンの腕の中でウトウトしているとね、海の匂いがジュンの腕と胸から感じられたんだ。

 でもね、少しだけ違ったんだよね。海から匂う懐かしい香りとは同じようで同じじゃない、でも、それに似た懐かしくて優しい香りと特別な香り。

 ああ、そうか……ぼくにとって海や見知らぬ母親と同じように懐かしく、また優しい香りがするのはジュンも一緒だったんだね?

 暖かい温もりと、大好きな香り、いつもジュンから漂う特別な香りに包まれながら、ぼくはジュンの腕の中で眠りについた……。

 特別な香りってなんなんだろ?……うん、これはきっと友達の香りなんだよね?

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