白猫である僕を全国旅に連れていってくれたジュンタは僕のベストフレンド!第8話「病魔」

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2019年10月11日、僕はジュンに連れられて苦手な病院へ行き治療を受けた。

 治療は僕の口を消毒して直ぐに終わったけども、ここの医者は僕の本当の病魔のことなんて知らずに適当な治療をしていた。

 本当の病魔に襲われているからこそ、僕は悟っていたんだと思う。

 もう、僕の命は長くはない……と。元々、僕は高齢だからね、その覚悟はしていたけども、寿命より先に僕の命を日に日に削る病魔に侵されてしまったのが悲しいよ。

 自分の体のことは自分自身が1番良く分かっているからね。そう遠くない未来、僕の小さな心臓は鼓動を止めるだろう。僕を心配して病院へと連れていくジュンの慌てた声と悲しい表情を見て、僕はこんな顔をジュンにさせたくないと思ったんだ。

 だから、僕は4日後に外に行きたいとアピールをしたんだ。僕がほとんど何も食わず飲まずで元気がないのを心配していたから、外には出さないかもと覚悟していたけども、ジュンは心配そうな顔をしながらも僕を外へと出してくれたんだ。

 ありがとね、ジュン。

 玄関の外に出た僕にジュンは「遅くなるまでに帰ってこいよ」と声をかけた。いつもの僕なら後ろを振り返りジュンに「うん!」と言葉を返すけども、この日の僕が後ろを振り返ることはなかった。

 だって、僕はもう二度とこの家に戻る気がなかった……いや、ヨメやジュンと永遠(とわ)の別れを決めていたのだから……

 それから3日間、僕はジュンの家から離れた場所を彷徨い続けていた。最後の死地を探す為に……ね。

 今頃はジュンがいなくなった僕を心配して必死に探しているのだろう――

 でもね、こうして僕がまだ動けるうちに、僕の命が残り少ない事を知らないうちにお互いに別れた方が、きっといいんだと思う。僕は、僕を幸せにしてくれた君達の悲しい顔なんて見たくないし、させたくないのだから。

 だから、ごめんね。

 そう小さく呟き、僕は眠りについた。いつもとは異なる妙に現実感のある夢の中は、深い闇の中だった。深い闇の中、一筋の微かな光が僕の目に映った。

 気が付けば、僕はその一筋の光に吸い寄せられるように、その光の場所へと向かい歩いていた。

 ああ、この光の先が死後の世界なのだろうか? もう、僕は死んじゃうんだ……でも、それでいいのかもしれない。もう、僕は沢山の幸せをジュン達と出会えたことにより得られたのだから―― 

 「それは、君自身とジュンタ夫妻がここまで君と過ごしてきた幸せに対する冒涜(ぼうとく)だね」

 直前に映る光の先へと、あと一歩で届く時に誰かが言った。

 「誰?」

 「俺が誰だかなんて今はどうでもいい。それよりもフア、君はこのままジュン達が心配するまま死ぬつもりかい? もし、あと一歩、君がその先を進めば君はこの世からいなくなる。つまり死ぬことになるけど、君は本当にそれでいいのか?」

 「……いいんだ、僕は充分に幸せを得たから。それに、僕の為にジュン達が悲しい顔をするなんて、僕はもう見たくないんだよ。だから、僕はジュン達にサヨナラを交わさない選択肢をしたのだから」

 「はぁ……だからさ、それが全てを冒涜しているんだよね。君はさ、自分のせいでジュンタ夫妻に悲しい顔をさせたくないと言うけれど、きっとジュンタ夫妻はそんなことは思っていないよ? 君の命が残り僅かであるのは確かだし、それは逆らうことの出来ない宿命だから仕方ないし、悲しい顔をさせたくないのも分かるよ? だからといって、君にとって最高の友達ジュンタに対し、最後に友達へ対して何1つの言葉も交わさずに君は逝くつもりなのかい? それで、君は本当に後悔しないのかい?」

 「後悔は……するかもしれない――」

 「なら、今すぐにジュンタ夫妻のもとへと戻ればいい。彼、彼女は、君の苦しむ姿を見て悲しむし、そう遠くない未来で君が命を落とした時に涙を流し悲しむことだろう。でも、彼らは君と最後まで一緒にいれたことに対して心の底から良かったと思うだろう。そんなことは、俺よりも君自身の方が分かっているはずだよね?」

 「それは……でも、ジュンやヨメを悲しませるのは……辛いよ」

 「辛いのは分かる。それでも、猫である君と人間である彼らは種族さえ異なるものの、もう切っても切り離せない程に強い絆で結ばれている最高の友達じゃないか? それを互いに理解し合っている君達ならば、何があっても必ず大丈夫だと俺は確信しているけどね。君はそれでもこのまま最高の友達を置き去りにしたまま逝く選択肢をまだ選択するつもりなのかい?」

 僕がここで生から逃げてしまえば彼らを置き去りにすることになる。そうすれば僕の最後も知らないことで、ずっと彼らの思い出の中で僕は良くも悪くも、僕も彼らもそれを望まないまま残り続ける。

 それで、本当にいいのだろうか? 

 いや、それでは、きっとダメなんだと思う。こんな簡単なこと、本当は最初から分かっていたはずなのにね。

 「僕はジュン達に悲しい顔をさせ、悲しい気持ちにさせるかもしれない、それでも僕と友達になってくれたジュンやヨメと最後の最後まで一緒にいたい! それが、僕の最後の願いだ!」

 「やれやれ、ようやく本心が出たようだね。ならば、戻るといいさ、君の友達が待つ家へとね」

 「誰だか知らないけどありがとう。心の底では、最後の最後までジュン達と一緒に居たい気持ちがあったのに、僕は僕自身の勝手なエゴで僕自身の気持ちにさえ嘘をついていたんだと思う。ジュン達に心配させたり悲しい顔をさせちゃうのは辛いけども、僕は最後の最後までジュン達の側にいるよ。だって、彼らは僕にとって最高の友達だから嬉しいことも悲しいことも全てを受けいれてくれるはずだから!」

 ずっと隠していた本心を叫んだ瞬間、僕は夢から覚めていた。

 そして、僕は4日ぶりにジュンの家へと戻った。戻った時、ジュンが凄く心配した声で僕の名を呼んだけど、僕はそれに応えるだけの力が既になかった。

 それから病院へと連れていかれるも、僕の容体は良くなることはなかった為、別の病院へと連れてかれて、僕はそこで「腎不全」という病魔に侵されていることを知った。

 そのまま、僕は入院する為に病院に置いてかれてしまった。

 22日の朝、治療のおかげか僕の体は不思議と軽くて、久々に食欲すらも戻っていた。無我夢中で食事をしている時にジュンが病院へと様子を見に来てくれた。

 ジュンが僕を呼ぶ声に対して、僕はわざと意地悪そうにそっぽ向いたんだ。本当は素直に嬉しい反応をしたかったんだけど、まだ僕の中に迷いがあったのだろう――。

 あれだけ僕はあの夢の中で決心したというのに……ね。

 それから2日経過した24日、予想以上に僕の体調は嘘のように良くなっていた。体だけじゃなくて、沈んでいた心までもが晴れていたんだ。

 この日、またジュンが会いに来てくれた。僕は、前回わざとそっぽ向いた事を謝る意味と同時に心から甘えたくてジュンの膝に顔をスリスリした。それを見て、喜ぶジュンの顔を見て僕は確信したんだ。

 ああ、あの時に僕は最後の最後までジュン達と過ごす道を選択して正解だったんだと。もしも、あの時、ジュンのもとへと戻らない選択肢のままならば、今目の前に映るジュンの笑顔も見れなかっただろう。

 翌日の25日、僕は病院を退院した。

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 腎不全という病魔が完治したわけじゃないし、僕の命の灯(ともしび)が少し伸びただけに過ぎないのは僕自身が1番分かっているんだ。いずれ来る運命から逃れられないことさえも……。

 それでも、僕はいずれ来る運命の日よりも1日でも長く生きていく事を決意したんだ。ジュン達には悲しい日々を送らせるかもしれないけど、ジュン達がいつまでも僕と一緒にいたいと願う気持ちに僕は応えたいし、僕自身も同じだのだから。

 例え、それが両者にとってどんなに辛くても――

 それでも……僕は、やがて訪れる逃れることの出来ない運命を変えてみせたい!

 最高のベストフレンドと1日でも長く一緒に過ごしていきたい!

 だから、僕は生まれ変わった気持ちでもう一度やりなおそうと思う。最高のベストフレンドに「フア、お前は最高のベストフレンドや!」と、いつか思ってもらう為に――。

 

 

    

 

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