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ボウキョウによせて3

 南葦ミトさんの小説「ボウキョウ」の感想を書いていきます。

 1話&2話の感想はこちら⇨ボウキョウによせて

 3話&4話の感想はこちら⇨ボウキョウによせて2

 今回は一気に4話分いきます。コンパクトにまとめました。

 ☆☆

ボウキョウ5話の感想

 充希は目が覚めるところから始まります。両親が今暮らしているいわきの家は、充希にとっては見慣れない家です。充希が大学に進学するために実家を出たときに震災がおこり、18年間暮らした家を失ったのです。充希は親の仕送りが無くなり、自分で学費と生活費を稼ぐ毎日になりました。(2話に書いてあります)大学卒業後は東京に来ているので、この家で生活したことが一度もないのでしょう。

 背中越しにたくさんの生活音が聞こえる。母は包丁で何かを刻んでいるし、父は新聞を開閉していて、遠くでは洗濯機が回っている――音だけなら、大熊の実家と変わらない。

 目を閉じて、実家で暮らしていた十八年間に思いを馳せた。あの家庭菜園で採れたトマトを丸かじりしたい。キュウリは味噌をつけて食べたいな。ナスは炒めるのもいいけど、味噌汁に入れてもいい。庭の水鉢の中で泳ぐ金魚を眺めて、涼しげな風鈴の音を聞いて……

 ああ、大熊の、大野のあの家に、帰りたい。

<引用:ボウキョウ第5話>

 父親が育ったオンボロの祖父母の家。私たち家族も小さいころは一緒に住んでいて、トイレがぼっとん便所で、家の中にお風呂の施設が無くて家の壁と塀の間に無理やり作られたシャワーで体を洗う作りが嫌いだったけど、あそこはまさしく思い出がぎっしり詰まった家でした。それでも、事情によって家を出ていかなきゃいけなくなって、祖父母が50年近く住んだ家から共同アパートに引っ越し、思い出の家は取り壊されてしまったことを知って漠然とショックを受けたことを思い出しました。

 充希もいつでも帰れると思ったあの家に、どうやっても帰れない悲しさや苦しさを胸に押し込めているんでしょうね。

 祖父母の家に対しては愛着があったのに、私は自分の家や両親が住む家、地元に対して執着が薄いのは、父親の引っ越し癖が大きいでしょうね。1年で家を変えまくる人だったので、落ち着いて住んだ家といえば、正直今住んでいる家が一番長いかもしれません。賃貸ですけど。

 1話でこんなに書いてたら大変なことになりますね。ちょっとスピードアップしていきます。

 5話は、4話でも少し出ていたアクアマリンふくしまに4人で来る話です。私が旅行していた時の写真を載せようと思ったんですが、ちょうど壊れたパソコンに入っているようでデータがありませんでした。アクアマリンふくしまの中の様子が本当に思い出されました。三角のトンネル。その先にあるちょっとお高い寿司屋。水槽の中を見ると美味しそうな魚の群れ。親子「おいしそうだね。食べたいね」って言っていたことを思い出し、微笑ましくなりました。


ボウキョウ6話の感想

 この回では、仮設住宅で暮らしている祖母に会いに行きます。そこで父親の兄、充希にとっては伯父夫婦に遭遇します。

 伯父夫婦は現在南相馬市原町に住んでいるようです。

ボウキョウ6-1

 わぁ!結構遠い所から会いに来ましたね。祖母は充希の両親の家から車で20分のところに住んでいるので、おそらくいわき市の仮設住宅に住んでいると思われます。

 伯父夫婦と祖母たちは震災前は同居しており、仲良く暮らしていたみたいです。

 祖母たちが住んでいたのが南相馬市小高区です。

ボウキョウ6-2

 この小高の放射線量除去が終わって暮らせるようになったから祖母はまた同じようにここで暮らしたいという思いがあり、伯父夫婦とくに嫁の麗愛がこの家で住むことを拒否して揉めていたようです。

 家族1人1人が家や土地、そして家族や子どもたちのことを思いぶつかり合い苦悩していく様が見えてきます。

 ボウキョウに出てくる人物は1人1人魅力的で、そして嫌な人が1人もいないのが安心して読めるけど、土地を守りたい祖母、子どもを守りたいレイ、その間に立たされる息子とお互いがお互いの立場で悩む姿は心が痛いです。

 この回は涙ナシには読めませんでした。


ボウキョウ7話の感想

 伯父の嫁レイが祖母に殴りかかろうとした理由から、後継ぎ問題や妊娠や出産にまつわる話がメインです。その流れで充希は自分の父親が寡黙になった理由を知ることになります。

 確かに、日本の社会では男性の姓になる人が多くて、充希の家系も従姉妹のみで男子が1人もいません。私の実家の状況と一緒です。

 私自身三姉妹で、従姉妹しかいません。父の姓を継ぐ人はおらず父の代で途絶えます。墓守りもできる人が居ないので、墓じまいをすることになっています。

 SNSの問題についても描写されていて、今の日本にある様々な問題を考えさせられる回でもあります。


ボウキョウ8話の感想

 充希が震災後一度も見に行ったことのない大熊町大野の家を見に行くことになります。今も規制のされているところですが、町民なら申請すれば入れるそうです。

ボウキョウ8-1

 福島第一原発からどのくらいの距離かなと調べたらちゃんとルートが出ました。今は一般の人が入ることできない地域だけれどもグーグルマップで調べることは可能なんですね。

 大熊町のホームページを見たら駅周辺は立ち入れるようになったみたいですね。

 調べていたら大熊町写真館を見つけました。震災前震災後と掲載されています。

 ボウキョウを読むまで大熊町を知らなかったし、こうやって少しずつ復興に向けて頑張っているんだと知れて良かったです。

 大野に入る前のスクリーニング場で大野に住んでいた時のご近所さんと遭遇しキツイあたりを受けました。震災が起こる前は仲の良かったご近所さんとも土着の人と移住組、通りのどこに住んでるかで補償金も違うようで、ギスギスした関係になっていいました。そのことを目の当たりにした父親が発した「原発がなかったら…」という言葉はとても切なかったです。

 充希は初めて見る家の惨状に気持ちがついて行けずにいました。家の処分について話し合う両親について行けず、充希は子どものようにキツイ言葉を投げつけたところで8話が終わります。


記事ヘッダー写真について

 大熊町写真館の行方不明者一斉捜索(2015年3月11日撮影)から『町内の熊川河口付近に訪れ花を手向ける大熊町消防団の代表者』をお借りしました。

☆☆


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