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竹酔月に咲く華

いよいよ、秋の始まりの9月である。各月に日本古来からの異名があり、と9月といえば長月ばかりが知られるが、異名は他にもある。

菊の月


彩月、紅葉月のような木の葉の色づきを思わせる名や、菊月、菊開月の名や9月9日の菊の節句もあるように菊の旬が来る月だ。

菊は国花であり、皇家の紋章のモチーフともなる。
花言葉は高貴、高潔、高尚。

菊の和歌といえば「このごろの しぐれの雨に 菊の花 散りぞしぬべき あたらその香を」が知られる。桓武天皇が詠んだと類聚国史にある。

菊は本来は日本にはない植物であり、遣隋使か或いは遣唐使によって持ち込まれた。貴族の間で愛でられたがゆえに、高貴の花として定着したか。そのような経緯ゆえに、まだ伝わってきていない可能性の高い時代に編まれた万葉集の和歌では詠まれていないのが定説とされる。

仏教といい、菊といい。本来は日本のものではなかった渡来のものが、今ではまるで日本人の意識の中であって当たり前のものとなった。取り込んで、取り入れて、和の物としていく。

夜長の肌感覚

秋の夜長を思わせる名も多い。

長月はもちろん(これも諸説あるが)、夜が長いので夜の間に起きてしまう寝覚月、夜が長いので歌でも詠みそうな詠月なんかもある。洋式概念である「時計」に時刻を縛られてしまった現代と違い、太陽の日の出と日の入りが時刻であった時代を感じさせる肌感覚は実に興味深い。

太陽と親しみ、夜と戯れる。とても健康的だ。

来る秋の空

青女月なんて言葉もあり、冬の女神が来る月なんていうが、所謂旧暦との季節の差を感じる。雨が続いて冷え込みはしているが、ぶり返しの熱気が来ないことを祈りたい。

だが近年は秋をあまり見かけない。気づけば冬が来る。夏も居残る。過ごしやすい日々は長ければ長いほどいい。できれば秋には存在感を出してもらいたい。

竹の酒を想う

ぼくが好きなのは竹酔月。飲兵衛は嬉しくなっちゃう呼び名である。竹酔日なるものが中国にあり、それは竹を植える最適日だという。しかしそれは5月の話だ。

竹の水筒に酒でもいれて飲んでたのだろうか。それもまた風流な話である。秋の季語には「竹の春」があり、9月は竹の見時だ。竹の花も咲く。

青竹を酒器とするのもいい。調べてみると豊澤の『ふしぎな竹酒』なる竹に詰められた酒もあれば、天然の竹酒もあるそう。そうした酒を味わうのも一興だろう。

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