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ずっと悪夢の中を彷徨っている

 ずっと悪夢の中を彷徨っている。10年以上ずっと。
 知らない町の知らないモールの閉店時間、家には帰れない。帰るのが怖い。行くあてもない。ただただ夜ごと知らない町をいくつも渡り歩くしかない。学校に行かなきゃいけないのに。働きに行かなきゃいけないのに。帰れなくて、だから学校にも働きにも行けずに知らない町を彷徨っている。
 ずっと同じような夢ばかり見ているから町ごとの位置関係も分かっている。どの辺りに家があるかも、どの辺りに学校があるかも、どの辺りに職場があるかも分かっているのに行けない。ずっと逃げている。どうして逃げなきゃいけないのかも分からない。

 分かる訳がない。元になった現実が訳が分からない理由で家を抜け出して、訳が分からない理由でずっと彷徨っていて、訳が分からない理由で帰れずにいたのだから。
 
 他にも軟禁状態から隙を見て今の家に帰ろうと四足歩行で坂を走り上がってバスに乗るけどバスの行き先が想定と違うとか、何故か自宅の前の歩道に布団を敷いて寝なければいけないとかそういう悪夢を繰り返し見ている。

 最近はそれらの原因を作り出したババアを殺しても死なない夢を頻繁に見ている。どれだけタンスの角で頭蓋骨を割っても死なない。どれだけ重いハンマーで顔面をぐしゃぐしゃに潰しても死なない。終わりがない。

 夢は現実を咀嚼するためのものだと言うけれど、咀嚼出来ない現実を吐き出せないガムみたいにずっと噛み続ける苦痛でしかない。どうして解放されたはずの過去に囚われて苦しまなきゃいけないのか理解できない。
 多分、ババアが死んだのを確認出来れば悪夢は形が変わるのだろう。悪夢を見なくなるとは思えないけど。

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