一歌談欒 Vol.1

      「おめんとか

       具体的には日焼け止め

       へやをでることはなにかつけること」

                  (今橋愛)


「あんた、なんてことしてくれたのよ」

「なんのこと?」

「こないだの縁日でヨシオにおめん買ってやったでしょ」

「そうだよ。あいつがあんまり欲しがるもんだから」

「それから大変なのよ。出かける時はいつもあれつけてんのよ」

「はぁそうか。お姉ちゃんそれが恥ずかしんだ。いいんじゃねえの?まだ子どもなんだし」

「よく言うわねぇ。度がすぎるの!」

「今じゃ家の中でも、学校までかぶって行ってんのよ!」

「はは、子どもらしくていいんじゃねえの?」

「それがさぁ、やっぱりイジメられたらしいのよ。よってたかって」

「ああ、あんだろうな、それは」

「あんた、他人事みたいに。こっちは学校行ったり大変なんだから」

「で、学校はなんて?」

「あんなおめん被ってくる方が悪い。まあ、有り体に言えばそういうことよ」

「ははーまぁそんなとこだろうよ」

「それがさぁ、本人は何とも思ってないみたいなのよ」

「いいんじゃねえの?飽きるまでやらしといたら」

「ほんとにあんたは他人事なんだから、そもそも・・・」

「わかった。わかったって。おれからちゃんとヨシオには言っとくから」

「たのんだよ」

「あとから思えばいい思い出だよ」

「なんか言った?」

「なんにもー」


「たまんねぇなぁ」


「おい、ヨシオ。愛用してくれてるじゃねえか」

「あ、おじちゃん。アイヨーって?」

「よく使ってくれてるってことだよ」

「何を?」

「そのおめん」

「何言ってるんだよ。これ、ぼくの顔だよ?」

「あ!張り付いてんじゃねえか」

        昭和36年 縁日の思い出@浅草

「具体的には日焼け止め」サンプロテクトのように思われるがそうではないだろう。対象は紫外線だけではない。「おめん」つまりはお化粧をしなければ外に出られない女性。たしかにそういう人は多いように思う。お化粧は何のためにするのか、外見を良く見せるため、身だしなみとして、異性を惹きつけるため、要するに外の何か、誰かに対する働きかけのためにするものだろう。

一方、男性についてはどうだろう。男だってやはり「おめん」はかぶる。具体的な何かというのではなく、外に出る時は何某かの武装をしている。

この社会に暮らす人は程度の差こそあれみんな「ヨシオ」なんだ。

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