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37 まんまと罠にかかる私たちの思考パターン

 前回は自分の人生であっても自分自身で全てを決めてコントロールするのは困難なので、他人の言葉に耳を傾ける事も必要だと書きました。今回は逆に、他人の言葉に振り回されてはいけないという、全く反対の事を書きます。

 とても面白い事例がありましたので紹介します。以下の記事のタイトルに多くの方々が反応していました。この記事のサムネイルだけでは読む事ができませんのでクリックして読んでみてください。

 『農林水産省有識者検討会「地方は仕事がないは嘘。年収200〜300万円の仕事は沢山ある。進学や娯楽や贅沢を諦めればやっていける」』と最上段に書かれています。

 このタイトルから想像できる内容はこんな事です。「農林水産省」が「地方にだって選ばなければ仕事はある」から生きていく事ができる。ただし「年収200〜300万円と都市部より低い」。けれども「贅沢や進学は諦めなさい」。

 まるで戦時中の宣伝文句のように読めます。贅沢は敵だ!、生きていけるだけで幸せだと思え!という感じがします。そう言われれば多くの人が反発するのは当然です。都市部に生まれた人は親の収入が多く、娯楽あり、進学ありで大学もたくさんあって選ぶ事ができるけれど、地方に生まれたら低賃金の仕事で我慢して息抜きにゲームをしたりたまにディズニーランドに行くのも諦めなさい、ですから。極端過ぎて笑ってしまいます。

 ですが、上の記事には元になった記事のリンクがあるだけで詳しい事は何も書かれていません。多くの人はこのタイトルだけ読んで元記事の中身をこのように想像して反応してしまいます。ここではとりあえずちゃんとURLをクリックして元記事を確認してみましょう。

 どうでしょうか? 最初の記事と印象は同じですか、それとも違いましたか? はい、ちょっと違ったと思います。まず、「農林水産省(なんとか検討会)が言った」という、主語が違っているのがわかります。つまり、政府が地方在住者に何か強制しようとしているように感じられたのは間違いだったという事になります。次は、「贅沢や進学を諦めろ」も無いとわかります。むしろ通信制でも安く学べるので諦める必要は無いと書かれています。なんだ、そうだったのか!、とちょっと希望が持てたような感じがしてきました。

 そこで、この記事のさらに元記事というのがあるようなので検索して読んでみましょう。

 「大嘘」が「ウソ」に変わって嘘が縮小したようなタイトルに変わりました。(良いぞ、良いぞ!) 内容をよく読んでみますと、こんな事が書かれています。

 『農水省側は、(略)支援対象として(1)自営業者や雇用されている個人(世帯員)と、(2)多角的に事業を行う企業や地域課題の解決を担う「地域運営組織」といった事業体-に分類していて、その実践者に意見を聞いた』が、その方々が言ったのは『来年から国の就農給付金(農業次世代人材投資資金)が切れても、やっていけるかなと感じている』及び『田舎は仕事がないというのはウソで、小さな仕事が多くあるのでお金には困らないし、年に200万~300万円あれば生きていける』という事。

 せっかく希望が持てたのにちょっと雲行きがおかしくなってきたようです。そもそも農水省が意見を聞いた相手は既に国のお金で支援を受けている人たちでした。私たちがポンッと田舎に行って仕事を探して生活できる事は前提にされていません。農水省は支援してその結果がどうなったかが知りたかったわけです。そうしますと最初の記事への批判も次の記事への期待も全て意味の無いものだったというわけで、あ〜あ、読んで損した、となります。


 さて、実は、ここまでが長い前置きでした。えっ、前置き? そうです。私は別にTwitterやニュース記事の種明かしをする気はありませんから。それでは何が本題かと言いますと、こんな記事に引っ掛かってしまう私たちの性質についてです。私たちはこの面において猫とそう違いはありません。猫の前に紐を垂らして揺するとそれまで大人しく座っていた猫はカッと目を見開いて爪を立てて紐に食らいつきます。反射的にそうしてしまうのです。私たちの場合は、誰かがポンッと刺激的な言葉を投げかけると猫のように自動的に反応してしまいます。その時にはいわゆる「考える」という事はできませんし、まともに「判断」する余裕も無いのです。

 今回は、(私たちをどうにかして管理しようとする)政府が、貧乏生活に耐える事を強要する「印象を与える」言葉を提示された事に対してそこに意識を集中させられてしまいました。その結果、私たちの周囲に柵が張り巡らされたのに気付かなかったというわけです。つまり、私たちの思考はそうしたものに反応するように訓練されているのです。学校で先生が問題を出したら解いて正解を出さずにはいられないですし、仕事場の上司には怒られないために逆らわず、従わなければなりません。パターンは決まっているのです。

 そんなふうにやっている間に私たちの人生の時間はどんどんと消費されて短くなっていきます。そうした事には最大限の注意を払わなければなりません。

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