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類似作品ないんです。この先に生まれるんです。~永谷敬之インタビュー~

プロデュースとプロデューサー

――永谷さんは「プロデューサー」ではなく、「プロデュース」という名義で見かけます。それは具体的にどのようなことをされているんですか?

永谷 大前提として、プロデューサーとプロデュースっていうクレジットに大きな意味の違いは無いと考えています。しかし、自分がやっている作品のプロデューサーのクレジットに入っている方々っていうのは製作委員会の人々が名を連ねています。ただうちの会社スタイルとしては基本的に出資はしません。たまに出資しているものもあるんですけど、多くの作品ではしていないので立場の差別化を図るために設立当初からプロデュースという立場をとっています。
 ハリウッドとかだと、プロデュースやプロデューサーに入っている人たちってフィルムを切る、つまり編集する権利さえ持っている。いわゆる監督とプロデューサーでいうと、案外立場はプロデューサーの方が上っていう可能性があるんですよね。日本の場合は文化が違っていて、監督あってのプロデューサー陣っていうふうになります。
 僕がクレジットにプロデュースと入れているのは、広く作品を統括したいためです。もっと言っちゃうとプロデューサー陣の多くはこの作品のために集まって、この作品の放送時期が終わったら散り散りになっていく。ただクレジットから時期とともに、(名前は)消えることはありません。(それなのに)作品に寄り添う人は減っていくんですよね。うちで言うと10年前の『花咲くいろは』というアニメ作品のために今でも一生懸命何かできるかということが、大きな会社であればあるほど難しくなっていきます。そのようなことに対し、自分をプロデュースという立ち位置に入れることで、長く作品に寄り添っていきましょうという立場を明らかにするために、プロデュースという言葉を使っています。なのでこの質問のように(プロデュースって)何をされているんでしょうかと訊かれると、製作委員会のみんなが一丸となってアニメに取り組んでいる期間の前後も自分だけはこの作品の近い距離にいて、より良く作品を運用することを主眼にした仕事ということと考えています。みなさん作品を好きでいてくれますが、自信の立場を変えることで自分の役割りを明らかにしています。

――プロデューサーは作品を作ってる間だけのものなのでしょうか?

永谷 えっと、そこまで断言してしまうと語弊がありますね。と言うのも、作ったあともBOXを作るときにはメーカーさんが仕事しているわけなので。ただし、おそらく大きな会社であればあるほど、折を見ていかなきゃならないと思うんですよね。
 例えば年間に2,3本一人のプロデューサーが作品をもつとします。5年やっても15本の作品を毎日考えることはできません。週に5日間しか勤務していないので、3週間に1日ぐらいしか考える時間が回ってきません。それに対してうちみたいなところが年間の本数を減らしているのは、他の人たちがやりたくてもできない時期にやるためです。
 (プロデューサー)陣はやりたくなくて散っていくのではありません。作品のことが好きで常に物事を考えているのですが、通常の業務の中ではできないことがたくさんあります。そのような部分をうちがフォローしますよというニュアンスで捉えていただくとよいと思います。

とにかく動いてアニメ業界へ!

――なぜアニメという表現を選択しているのですか?

永谷 それは好きだからとしか……。

――(笑)

永谷 実はもともと僕はゲーム畑の人だったんですよ。と言ってもアニメを見ていなかったわけではなくて、小学校のときはアニメを見ていました。小学生から中学生の頃に世間的にストリートファイター2ブームというのがあり、ゲームセンターに通っていました。そのときゲームセンター友達が毎週水曜日来なかったんですよ。なぜかって言うと、当時『エヴァンゲリオン』が水曜日にやっていたためです。そいつからエヴァンゲリオンってすごい面白いからお前も見ろよって言われました。でも今と違って、見ようと思ってもソフトもネット配信もなくて、とりあえず最新話だけ見るよって言って見たのですがもう17話くらいでした(笑)。もうわからん、と。家に帰ってきて6時15分頃Bパートを見たのですが、ロボットアニメって聞いていましたがロボットは出てこないし何だろうこれって思ったわけですよ。

 昔のコミュニティの中で録画を持ってる人を探して見せてもらったら、面白いねとなりました。なんか自分が思っていたロボットアニメと違ったというか……。その同時期ぐらいに『天空のエスカフローネ』というアニメがあり、CGを上手く使っていたためアニメってこんなのこともできるんだとか思ったわけです。ゲームはやることとして楽しんでいたんだけど、作りたいと思っていたかというとそこらへんは謎で、アニメってなんかいろんなことができて面白そうだなと思っていました。
 そんなときいろいろなアニメを見ていたら大月 俊倫さんって名前が出てきて、この人と仕事してみたいな、スターチャイルドってところに入りたいな、っていう感じでアニメ業界を目指しました。アニメイトに入れば行けるんじゃないかと思い、アニメイトでバイト始めましたが全然関係ありませんでしたね。

――(笑)

永谷 今と違って昔って、その職業に就きたいと思っても google 先生が教えてくれないんですよ。
 例えばアニメ映画とか見るとフライングロゴといういろんな企業のロゴが出るじゃないですか。90年代のエヴァンゲリオンの映画とかの場合、ムービックっていうのが入っているんですよ。これがアニメイトさんのグループなのですが、アニメイトの店舗はムービックで作ったものを売っていると思っていたので、アニメイトで頑張ったらムービックに行けると思いました。当時はね。

――なるほど

永谷 今は調べたらわかりますが、兄弟会社だけど資本は別というのは当時分かりませんでした。想像以上に現在の情報社会に比べて昔は情報ありません。なので一番近いのかもしれないと思ってバイトしていましたが、どうやら違うぞとあるとき気づきました。
 その後どうしようかなと思い、いろんなことを考えましたが、まぁ結果から言えばアニメやりたいなと思ったからいろんな人脈をつくろうと動いて今に至るんですけどね。

――本当にどうやったら関われるのかととにかく動いてみた結果、アニメ業界に入ることができたと

永谷 そう。とにかく動いてみた結果というか、(当時は)何をすればいいのかさえ分からなかったですし、変な話一生懸命勉強してまっとうな人生をそれまで歩んでいたかと言うとそうではありませんでした。例えばアニメにまつわる大きな会社はたくさんありますが、そこに普通に求人がかかっていても受かる気がしませんでした。
 独自のバイタリティーでカバーできるような、新しい就職口の探し方ができないかなと思い努力したことで、結果的にはまだユーザーの時代に『逮捕しちゃうぞ』というアニメの公式イベントをユーザー主体でやるっていうことをやらせてもらったことがありました。キャストの方とか監督とかにも来てもらい、権利元にも許諾を貰ってアニメ業界の中を少し見るチャンスがあったわけですよ。
 わりとその(アニメ制作が)どういう流れになっているかというのがイベントに取り組む中で見えてきて、ここをせめるといいんだなというのが発見できました。なので闇雲に動いてきたというよりかは、分からなかった部分や手をこまねいてきた部分はありましたが、それもなんとなくまずアクティブに動くことで解消出来ていたということかと思っています。

――永谷さんにとってのアニメとはなんですか?

永谷 悩みますが……多くのプロデューサーにとってはビジネスツールだと思うんですよ。でも僕が自分で独立して会社をつくろうと思った理由はそのビジネスツールであることを否定するためではなく、自分がファーストユーザーになりたいと思ったからですね。誰よりも、極論を言うとアニメが世に出てみんなに見てもらう前にプロデューサーの特権として先に見れるとかですね。

――(笑)

永谷 僕にとってのアニメはやっぱり未だにファンの目線で見るものですし、そのような意味では嗜好品です。今でも。で、嗜好品であるという気持ちがあるからこそ、さっき言ったように10年前の作品にも時間を割きます。好きだったものを時と共に風化させるのではなく、好きだったものをずっと愛で続ける。こういうことをやりたいから、アニメってなんですかということを単語でほしいんだったらやっぱり「子ども」なんだろうなと思います。
 自分がある程度時間をかけて自分のイズムだったり思考だったり、いろんなものを盛り込んだものが作品になっているはずです。自分が好きだったものに近い物ができていると考えると、すごく距離感の近いもの、それでみんなが分かる言葉で言えば「子ども」なのかなと思います。

類似作品ないんです。この先に生まれるんです。

――永谷さんがプロデュースされている作品には、ジャンルにとらわれず様々なものがありますね。この人はどこを目指しているのだろうと思うときがあるのですがどのように考えていますか?

永谷 例えばロボットアニメが好きだとか美少女アニメが好きだとか、シリアスな物が好きだとか日常ものだとかカテゴライズを自分の中にはめて、私はこのジャンルに関しては「得意です」といえる方はたくさんいると思います。
 多分、今疑問に思ってくれていることがとっても重要で、シリアスなものをやるし、人が死ぬ話からある種ハートフルな話もやります。この振り幅って何ですかということが聞きたいと思うんだけど、その疑問に思われることがエンターテーメントに必要な「?」マークなんだと思う。この人って何なんだろうということ。変な話永谷という、まぁうちが最初にやった作品が花咲くいろはだったから永谷に求めているものっていうのはそういうものですよ、と。
 例えば花咲くいろはであれば働く女の子シリーズという名前を付けていて、それの2作目が『SHIROBAKO』なのですが、この系譜をやってくれよという意見がツイッターでもたくさん寄せられます。でもそれってそんな予定調和的なものを出しちゃってまたかよという人が多いはずなんですよ。

――なるほど

永谷 だけど仮にAっていう僕がやった作品のことが好きな人がいてくれるのなら、次のB は何をやるんだろうというワクワク感がエンターテインメントの本質の根底にあると思います。例えば実写映画とかの宣伝だって特報映像を見てこんな作品なんだと思って行ってそのまんまだったらつまらないじゃないですか。だから僕に対するイメージというものが、もしも日常系とかハートフルな話とかだとしたら、それをいかにひっくり返してやろうかっていうのがプロデューサーとしての考え方なんだと思います。だから作品が多種多様化するのは何故かと言うと、「面白いから」。これしかない(笑)

――私の場合はフリップフラッパーズを永谷さんが手がけられた作品だと初めて知ったのですが、「なんだこれは」と思いました。

永谷 フリフラなんかは特に分かりやすい話で、クリエイターズフィルムを作りましょうということを第一に押し出しました。
 例えばこういう作品を今出せればこういう人達に売れますよというマーケティングは絶対必要だと思います。だけど、そのマーケティングの理論には絶対引っかからないものをやりたいってやったんです。いわゆる女の子が主人公です。少しSFも入っています。で、まぁなんかちょっと変身もします。でもじゃあこれって日常ものなの?それとも魔法少女なの?何なのSFなの?に関して、監督の独創性とそれを支えるスタッフ達がおもしろいと思えるものを送りたいというスタンスでした。そのマーケティングの理論では落ち難いわけですよ。類似作品は何ですか?類似作品ないんですこの先に生まれるんです。基本的にはフリフラを見て「なんだこれ?」と思ってくれたのなら、こっちとしては「してやったり!」という感じです。しかし実際、国内の場合はまだそういう土壌がなくて、フリフラなんかはファンレターが海外から来るんですよ。
 さっき言ったプロデューサーが日本とアメリカでちょっと違うというのに近いです。海外はクリエイターに投資するという概念がありますが、日本はその概念がありません。それが日本と海外の違いだと思っています。僕がそのクリエイターズフィルムを作ろうとしたのは、ゆくゆくの未来、監督の押山さんが海外あるいは国内でいろいろとビジネスをするときに、日本を含めた世界から、この人に投資してみたいと思わせるような映像を作りたいと思ったからです。結果的に上手くそこには乗っけられたと思っています

――そのような考えはスターチャイルド時代の大月(俊倫)さんの影響だと思いますか?

永谷 もうこれは公言しているのですが、アニメーションの作り方はスターチャイルドさんに、ビジネスの仕方はバンダイビジュアルさんで教えてもらいました。2つの組織を知る事で広く視野をもてたという事です。元々僕が大月さんのところで働きたいと言ったのもあり、大月さん流をある程度見てきたつもりです。でも僕なんかがやってきたキャリアとか時代とか全然違うように生きてるし、真似できるとは全然思いません。しかしそこは意識しながらやっているつもりです。僕もこういうインタビューを受けるときにはこの名前は絶対出ます。大月さんの名前は。

――様々なインタビューを読ませていただきましたが、大月さんの名前は多く出ていますね。大月さんの影響力というものは大きいと思いますか?

永谷 影響が大きいということを何をもって言うかによるんだけど、エヴァンゲリオンという作品を世の中に送り出したという功績だけ考えれば、これはもう数字で計りきれないものです。でも大月さんに「エヴァンゲリオンを作った大月さんですよね?」と訊いたら、「エヴァンゲリオンを作ったのは庵野さんだから」って答えると思うんですよね。だからあれから20年という長い年月が経って、今の時代の大月さんを知っているかという。そう捉えたら、影響が大いかと言われると「大きかった」という過去形になってしまうかもしれない。だから僕は口にしないんですよ。
 プロデューサー影響力というものを考えたとき、作品作りの本質の部分はプロデューサーの一存で決まるのでしょうか。もっと言うと、エヴァンゲリオンの話の内容はプロデューサー陣も参加して考えたのでしょうかというと多分そうではないと思います。
 あの人が偉大なのは、売れるか分からないものを受け入れるところです。これが売れるか売れないかなんて誰もわからなんですよ。だけど、エヴァに限らずの話、プロデューサーが信じたクリエイターがやりたいといったことを疑わず、受け入れる。これやりたいんだったらなんとかしようとしてくれることがエヴァンゲリオンのヒットにつながったと思っています。うちがオリジナルを中心にやってるのもそういうことです。
 しかし、原作モノをすることを否定せず……するのですが……原作があるものって、何万部売れてるからアニメ化するという話になるわけです。それ自体は間違いではないと思いますよね。人気作品をアニメ化していきましょうというのは、全然正解だと思う。でも上からどんどんアニメ化していくとどこかしらで玉が切れるわけです。だったら原作がなくてもオリジナルでチャレンジしたい人を積極的にうちは推しましょう、ということですかね。

――そのように作品を作られているなか、10年間愛されるコンテンツをとHPに書かれていますが、その長年愛されることを考える上で最も大切にしていることは何ですか?

永谷 今さっきも言いましたが、自分が常に作品の一番のファンであることです。というのは自分が今のアニメの豊作時代において、ワンクール前の作品を全て上げてくださいと言われても無理でしょ?

――無理ですね。

永谷 その点において、おそらくビジネス的に成功したものだけが残っていく淘汰の時代なんだと思います。でも本来僕の感覚で言うなら、負けてる作品ほど手厚くするべき子どもなんですよ。勝っている作品は放っておいても勝っていくんですよ。例えば花咲くいろは。うちのビジネス的には別に負けてるわけではありません。先ほども言いましたが、自分が一番のファンです。だから僕がファンとして花咲くいろはというものを今でも好きだと言ってくれる人に対して何をしてあげると喜ぶんだろうということを考えています。それを運用し続けるのが10年だということは思っています。そこで僕らの出したひとつのアナウンサーが、「ぼんぼり祭り」を作ってしまうことでした。
 僕は10年と言っていますが、ぼんぼり祭りの実行委員は100回まで頑張ってと言っているんですよ。というのも、今僕41歳で、100年後は絶対生きていません。でも考えてみて!例えばうちの子どもとかがね、大きくなってその子どもにこのお祭りはお前のおじいちゃんが作ったんです。っていうのってカッコよくないですか?
 このやっぱり僕の中にあるファン という言い方をしている、僕自身がけっこうミーハーな部分があります。そのため、この原動力をいかにビジネスに、ファンサービスとかアニメ作りのいいところに昇華していくのかというのがうちのモチベーションなんですよ。
 みんなが喜んでくれればいいんです。結果的に喜んでくれるかもしれませんが、最初立ち上げる段階では自己満足でしかないわけですよ。自己満足を具現化したときにみんながすごく喜んでくれたっていうのは結果の話なんですよ。具現化するためには、自分がこれをやりたいというリビドー以外に自分を突き動かす何かはありません。先ほどV編室で最初に見られると言いましたが、自分が立ち上げた好きなオリジナルアニメを最初に完成した状態で見られるなんて、こんなプロデューサー冥利に尽きることはありません。その気持ちを忘れないことが、うちの10年間作品愛される作品を作るという意思表示でもあります。
 実際、10年というのは長いか短いかといったら僕はまだ短いと思います。だってエヴァンゲリオンも20年なわけですよ。ガンダムに至っては40年。そう考えたら10年だってアニメ業界の歴史からしたら――まあ実はテレビアニメはまだ1世紀も経っていんだけど――まだ何分の一なんですよ。だから10年は長いと言う人もいると思うんですけど、僕の中では最初のハードルとして10年です。でも10年経ったときって、自分は50歳になっていて、今のファン層である20代の気持ちを汲み取って動けるかと言ったらそれは分かりません。それはうちの会社か次の代の人がやらなければいけないのかもしれませんが、ユーザー目線に立てるこの10年間頑張ろうってやるところが、この言葉の意味なんです。

――私は配信サイトでアニメなどを見ることがかなり多くなっています。そうなるとリアルタイムとは違って、グッズの販売などが終わっていることもあります。そんなストレスを感じることもあるんですよね。

永谷 今自分が欲しいものがあったときに買えないストレスがあるのなら、まず見る時期を変えなければいけません。オンエアのときに見てくれなくても、1年後2年後に見てこの作品が好きだなと思ってくれるのはありがたいことではありますが、ビジネスの観点で見たときにその時期は終わってるんですよ。
 製作委員会という会が開かれているのですが、それがアニメの放送終了1年後に開かれることはまず無い。大体放送中から放送後何か月とかっていうのが基本ですね。それぐらいで結果が出るわけですよ。この作品をやって良かったのか良くなかったのか。良くなかったというケースはほとんどありませんけどね。
 たしかに、キャラクターの人気が作品を非常に牽引したものであれば、2年後3年後にフィギュアが出たりだとかそういうものもあると思います。でも例えば放送終わって2年後にツイッターのフォロワーが増えて、その人からグッズ展開してくださいって言われたとしましょう。ツイッターアカウントを動かしていた人さえコメント欄見ていないかもしれませんよね。で、次に開くときはブルーレイボックスの発売が決定しましたといった話題。だからこそ気になったものはやっぱりオンエア当時に見てほしいですね。
 ネット配信は観衆が追いかけて見れるという最大のメリットがあるのかもしれません。テレビと違って何時にテレビの前にいなきゃいけないということはありません。時間のズレがあっても自分のライフスタイルに合わせて見ることができます。それに対して僕らにとってのネット配信のメリットは、誰かがこのアニメをオンエア当時に見てくれて、このアニメを面白いんだよって言ってくれることです。そのとき広がるメディアとしてネット配信というものに大きく期待してるわけですよ。昔だったら「レンタルにも並んでないしネット配信なんか見れないよ」と言われます。今ならこの作品面白いから配信で見てって言えるじゃないですか。

――そうですね。

永谷 それをやってほしいんですよ僕らは。とりあえずこのワンクールは人生に1回しかありません。このライブ会場を楽しまないで2年後に何となくライブ会場に遅れて行って、何となく面白かったんだけど余韻しか残ってないっていう話だと寂しいじゃん!?(笑)

――それは寂しいですね(笑)

永谷 さらに言うとネット上でのコミュニティで、ある作品を見てっていったときに無料で見れるサービスがありますよね。それなら「ちょっと俺月額課金きついんだけど、トライアルで1か月見る」っていうことができる事もある。通信費のような細かいことは置いといて、映像には課金しなくてもいいわけです。ハードルとして低くなることで、今までの課題もクリアになっていきます。人によってはアニメの放送格差みたいな言い方をしているように、アニメが映らない地域と映る地域があります。それに劣等感をもっていたのが、ノータイムで見られます。昔からBSとかCSで見れるっていうのも事実なんですが、設備投資とかが大変です。そう考えたら、ネット配信は手軽なのかもしれません。
 僕はこういう時代だからこそ古い作品も掘り起こして見てほしいのですが、今これを見たいと思ったものが簡単に見られる時代だからこそ、オンエアのタイミングで見てほしいと思います。
 だからネット配信で振り返りとか仕掛けますよね?メーカー側は。

――アニメの放送とはある種の祭りを作っているという感じなのですか。

永谷 これね、祭りという言い方だと炎上とかも含んでしまう気がするので気になりますが、クリエイターたちが一生懸命作っているもの、あるいは自分たちが何年かかけて仕込んできたものが、たったの3か月で終わるわけですよ。この3か月間に頑張らないでいつ頑張るだってことなのよね。だけど座って結果を待ちましょうっていう人たちもいると思います。「面白ければ響くだろうし面白くなければ響かないでしょ?だからそれは見てるしかないじゃないですか」って。だけど僕なんかは「いやいや無風だったときこそ風を起こそうよ」と思ってしまいます。だって、話題になっているのは自然に伝播していくんですから。しかし、陰で忘れられてるアニメの人たちの方が頑張んなきゃいけないんですよね。祭りを仕掛けるというよりかは、やっぱり僕なんかは訴求する努力を惜しまないということなのかなと思います。
 ただできることって3か月の間にあんまりないですよね、というのも事実ではあるんです。だからこそ、その3か月の前も3か月間に突入した今も、悔いの残らないようにやっていきましょうねっていうのがある種うちの会社の存在意義です。
 他の大きな会社さんたちが、他の業務もしながら客人にべったりやって、全部やるってのはなかなか難しいわけですよ。でもうちみたいな会社はアニメを作り、特に年間3本くらいしかやらなければ、そこに全力投球ができるってのがうちのスタンスなんです。なので他のところよりも機動力もあるし管理も投げちゃってくださいって言えます。そこがうちの会社の利点のひとつだと考えている人たちは多いんじゃないかなと思いますね。

――そんな機動力の良さがオリジナルアニメを多く手がけられてるのと関係していると思いますか?

永谷 上手く話せるかは分からないので少し誤解があると嫌なのですが、原作モノって誰かが愛した子どもなんですよ。自分が連載当時から知っていたとしても、編集さんと漫画家さん、あるいは小説家さんが生み出した子どもなんです。でも、他人の子どもを愛せないってことではないですよ。その生みの苦しみを知るか知らないかというのは、そのあとのモチベーションにとって非常に大きなことだと思っています。そして自分であーだこーだ悩んで悩んでやったものだからこそ一蓮托生で最後まで全部飲み込もうって思えるところはあります。
 だから、うちがオリジナルアニメ以外原作モノをやったのは、最近だと『citrus』というのをやりましたが、前は『はたらく魔王さま!』とかもやりました。どちらもまず原作者さんにどういう生みの苦しみがあったの?ってことを聞いたんですよね。だけどこれって彼らが伝えてくれたとしても共有しきれないことが多くあるんです。
 その苦しみを共有できる原作だったら原作モノも全然やろうということです。向こうも原作者もそれを共有するのは大変だし、あるいは僕もそれが分かるかって言ったら分からないこともあります。でもオリジナル作品だったらそれは絶対分かるんですよ。ゼロイチからやってるんだから。誰かが僕にこういうのをやりたいんだけどと言ったもので、そのままアニメになってるものって1本もないんですよね。全部何時間何年と話し合いの中で少しずつ形を変えています。でもその段階ではアニメになるかは未定なわけですよ。このような苦しみを長期間味わい共有してるからこそ、生みの苦しみの部分に取っ掛かりがしやすくなるってのは事実だと思います。
 『はたらく魔王さま!』以降いろいろやってみましたが、今後原作モノも増えると思っています。なぜかと言うと、原作者さんがうちの会社に求めるものは僕が思っていたものと違ったから。僕はさっき言ったみたいに共有して一緒に戦うことを強要していたんだと思います。
 少し前にとある原作者さんとお話しした機会がありましたが、ある種好意的だったのかもしれません。次チャンスがあれば一緒にやりましょうって言ってくれました。それが何かっていうと、多分僕が取り組んでいるスタイルをある程度評価してくれたんだと思ったんです。だけど僕はその評価を得るためには、まずそこを共有しなきゃなということを強いてたんだと思います。でも向こうが望んでることっていうのは、僕がインフィニットらしく作品に取り組みさえすればそれで満足だったんだと感じました。だからそういった意味では僕は肩の荷が少し降りましたね。でも手を抜くということではありませんよ。
 原作があるアニメで自分たちから仕掛けたものって、9年間では3本しかないのかな。『はたらく魔王さま!』、『ゼロから始める魔法の書』、『citrus』。異常な少なさだと思うよ。『D.C.III 〜ダ・カーポIII』はもち込まれた企画でしたが、それを入れても4本です。
アニメ業界で考えた場合って。

――オリジナルの割合にはびっくりしました。永谷さんが関わっていらっしゃる作品で、放送終了後に見た作品もあるのですが、あっこんな作品があったんだ知らなかった!もったいね~!っていう感覚になりました。

永谷 そう言ってもらえるとありがたいんです。原作モノはこれをやりませんか?って誰かプロデューサーが読んだ瞬間に判断をしているわけですよ。だから僕がジャッジしなくても誰かがしてくれる可能性があります。でも何の姿かたちもない原石として転がっているオリジナル作品の企画っていうのは、日の目を見させようと思ったら誰かが労力を割かなければいけません。スタートがオリジナルアニメだったせいか、そういう会社だと思われて企画を持ち込まれることは多くありました。意図的にオリジナル作品をということでもないし原作モノをやりたくないということでもないので、原作モノも増える可能性もあると思います。ただ、オリジナル作品をやらなくなるのかって言われたらそれはありません。

――現在アニメを作る方法として製作委員会方式が広く採られています。そんな製作委員会に対する不満をもっているという記事を多く見かけますが、製作委員会は限界を迎えていると感じますか?

永谷 僕もそのような記事にふれる事はありますが、製作委員会だけが儲かっているのではないか?という話ですね。アニメの製作委員会は多種多様な物がありますので、大きく収益をあげていて諸々還元されている物もあれば、そうでないものもあるのかもしれません。そもそも赤字な作品もあるので、その作品ごとに置かれるケースはまちまちと言えます。
 これらの条件は作品発注時に決めたルールを元に契約書になりますが、あまり読まない方たちがいるのも聞く話なので、そもそも条件交渉をしていない作品もあるのかもしれません。大前提として製作委員会という長い時間が経ちました。世の中の動きと同じようにアニメ業界の中も変わったし、外からのアニメ業界を見る目も変わったので製作委員会の良し悪しというよりも成熟したマーケットになったのであれば作品ごとに権利主張やこれまでの条件の見直しは提案しても良いのかもしれません。製作委員会方式の根絶が解決では無く、仮にそれに変わって100%制作費を出資してくれる組織があったとしても、そこは100%出資する事にメリットを感じている訳なので、話し相手が変わっても行う事や交渉する事、主張する事に関しては変わらないと思います。

海外マネーの行方の誤解

永谷   多くの方が現在多額の海外の予算が入っていると思われていますが、この海外のお金とは2種類あると思います。出資として入るものと、販売先として海外に作品を買ってもらって得る利益です。前者の出資だとする場合、海外のビジネスチャンスを求めて作品参加されるので、利益確定は少し先になります。販売先を海外にした場合は多くの場合、放送前に決まる事が多いので恐らく世間ではこちらのケースが目立っているのだと思いますが、実際は混在しているのだと思います。どちらにもメリットもデメリットもあるのですが前に話した製作委員会の変化にも繋がる話かと思います。
 では海外のパートナーによってアニメ業界は助けられたのか?という事が気になると思いますが、これは助けられていると私は思います。ですが、海外だけで何もかもが帳尻があうとは思っていないです。自身の経験では海外だけでリクープした事が無いので当然国内でも頑張る事になりますが、これが普通だと思っています。海外の皆様が欲しいコンテンツは日本でも人気の物になるので海外だけで終了出来るのであれば、国内の放送を見送って作った物を輸出していく方が効率が良い可能性も出てきますが、現在はまだあまり聞かないかな?発想としては私も考えたりしますが、まだ私にはビジョンが見えない感じです。逆に現状は日本発の世界各地で見れる作品造りという状況になっているのは非常に魅力的に感じていますので。
その海外にも助けられている収益も含めて委員会が運用しているので、情報の伝わり方によっては聞こえが悪い事もあるのかもしれませんね。自身が取り組んだ作品では委員会の大きな理解を得られながら進められている事もあるので、救われているのかもしれませんが、委員会が変化の時期と感じている事を自身が感じているとするともう少し全体の状況を勉強してみても良いのかと思いました。同じように委員会もクリエイターも情報共有をしてお互いを理解し合う事も必要な時代なのかもしれませんね。
 ただ、製作委員会に関してはアニメの現場がプロの集まりな様に、委員会もそれぞれの権利運用のプロが集まっている認識なので、もし相互に誤解があるなら残念ですが当社の様な立場はそれらを埋める事も求められていのかもと思います。委員会の収益は次回の作品作りに少なからず影響を与えます。ヒット作が出た後はそのスタッフが人気になったりする現象は皆さんも見たことあると思います。ですが、そのヒットの手ごたえの多くは委員会の中で感じている事ですので、もっと広く共有する必要もあるのかもしれません、おそらくこの部分が多くの方に求められている事だと思いますので。
 そして最終的には予算の話に戻っていく事になりますが、現状を理解してそれぞれの立場も理解したうえで交渉しない事には的外れにもなってしまいますし、無理な要求で企画自体が無くなってしまっては元も子も無いので「今の状況が正しいのかわからない、誰かに聞きたい。」と思った時に話を聞ける人や、それらを浸透させるセミナーみたいなものを開いても良いのかなと思います。けど、すべての委員会が同じ契約書を作ってない様に足並みが全て揃うのは難しい事なのだと思います。アニメの市場規模の話も良く耳にすする時代になったのでマーケットの規模と実態がそぐわないという見立てに対しては、互いに情報を出さないと埋まらない溝なのかもしれませんが、幸い当社が組む委員会には大きな理解を頂いている中でそれらのチャレンジもしていきたいと思います。
 ただ製作委員会のすべてがダメなのかという話では先にも述べた通り違うと思うので、多様性も求めて変化の時期なのかもしれませんね。

テレビアニメと映画の違い

――テレビアニメに対して、映画は落ちるといったことがないですね。

永谷 全部ではないのだけど、テレビは何月に放送するという枠の問題はまだあるんですよ。だからここで決めちゃったものはこの期間に作らなきゃいけないから、それができなかったときに落ちるんですよ。総集編になったりしてね。それに対して映画は完成して試写会などの諸々の段取りを踏んでから公開になるので、スケジュールに関しての考え方が少し違うと思います。

公式配信サイトとの関係性

――アニメを応援するのに、配信サイトで見るのは意味があるという意見や意味がないという意見もあります。実際にはどうなのでしょうか?

永谷 たまに動画でも配信終了とかあるじゃないですか。それって契約が更新されなかったというケースもあります。配信サイトで見られることはあまりお金にならないという認識がされてるんだけど、再生数が伸びないと配信サイトの契約は切られちゃうわけです。配信サイトで見てくれることは少なからず影響はあるので、見てくれた方がいいですよ。極論言うと、今日家にいないけど、自動再生で見てくれてもいいんですよね。(笑)
 ネット配信が良いか悪いかって話はよくされるけど、あれって今までのグレーゾーンだった層が広がったと思っています。深夜起きてまでアニメを見るほどじゃないけど、やってるんだったら見るっていう人たちは一定数います。そういった層を取り込むには非常に良かったですし、今まで違法サイトで見ていた層も取り込めたと思います。
 違法サイトで見ること自体、みんながそれが「違法」だと感じていなかったと思うんですよ。変な話、親切な人が放送が終わったばかりのこの作品を公開してくれている!ってぐらいの気持ちだろうからね。でも最近は摘発されますからね。ちゃんとした配信サイトで見てくださいね。

マーケティングとアニメーション

永谷 業界内で言ったら「ウソだー」って言われると思うのですが、うちが9年間やってきたなかで、僕が立ち上げた企画でやってないのって1個もないんですよね。これなぜかって言うと、マーケティングでこれが正しいと言ってヒットするんだったら、アニメ業界もっと儲かっています。だけどマーケティングだけでは計り知れない何かがあるというのを押し通すための熱量、これが企画を通すか通さないかで問うところです。

――そういった企画を通すなかで揉めることなどはありますか?

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類似作品ないんです。この先に生まれるんです。~永谷敬之インタビュー~

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映像系クリエイターインタビュー雑誌 代表 森 たかし
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