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村で死ぬか、生き抜くか。ズリ山に咲く映画「フラガール」

公  開:2007年
監  督:李相日
上映時間:120分
ジャンル:ドラマ
見どころ:ストーブを借りるところ

腰のフリと身体の動きが難しいのメ~

蒼井優や、南海キャンディーズの静ちゃんがでていたりと、個性的なメンバーがでていることで知られている「フラガール」。

福島県常磐という、田舎町を舞台に、ハワイアンセンターを立ち上げ、観光客を呼び込もうとするやり取りを描いたものとして、有名過ぎて見たことのない人も多いのではないでしょうか。

本作品は、たしかに、さびれつつある田舎でフラダンスをやる、という点で、よくあるやつでしょう、と思いがちですが、期待以上に面白い作品となっていますので、極々簡単に紹介してみたいと思います。

スパリゾート

実在するスパリゾートハワイアンズ(旧名 常磐ハワイアンセンター)。

本作品は、実際に福島県いわき市常磐にあるレジャー施設が、どのような背景と苦悩の上にできあがっていったかがわかる作品となっています。

輸入石炭や、石油による安い燃料の台頭によって次々と閉鎖に追い込まれていった炭鉱。

かつて、日本の基幹産業であり、黒いダイヤと言われていた石炭業界も斜陽となってしまいつつある福島県の村で、このままでは村がなくなってしまうという危機感から、村にハワイアンセンターをつくる、という突拍子もない計画が打ち出されます。

本作品が面白いのは、この作品が実話ベースであること、また、この手の背景や人間の感情的な対立を、説明的ではなく描いているところにあります。

時代

鉄道屋(ぽっぽや)なんかでもそうですが、職業に対しての誇りであるとか、先祖代々行っていたことへの想いであるとかは非常に重要だと思います。

一方で、時代の流れというのは訪れるものであり、かつて正解だったものが、現代においても、正解であるとは限らないの現代社会となっています。

「フラガール」は、1950年代の日本において、南国の風習とはいえ、素肌をさらしながら踊るということ自体が抵抗のある時代です。

命がけで石炭をとりにいく人たちにとっては、踊ってお金をもらうというのが不思議であると同時に、何か後ろめたいことのように思うでしょう。

かといって、衰退するのがわかっている炭鉱業界にしがみついている人たちをみる人たちとの間で、精神的な対立が起こってしまうのも無理らしからぬことでしょう。

役者の存在感

古い因習にとらわれた町とかではなく、炭鉱以外に特産物がない町がどのように生き残るのか、というところと、石炭で黒く汚れた人たちと、赤くきらびやかな衣装に身を包んだフラガールたちの頑張りが印象的です。

もちろん、お話的に、ハワイアンセンターをもりあげていく方向になっていくわけですが、なかなか一筋縄にはいきません。

感情的な問題もさることながら、経済的な問題もからんでおり、ダンスがしたいからダンスをする、というわけにもいかな現状などもあり、現代社会に生きる我々にも通じる、がんじらがらめの中で、どうもがいていくのか、ということが示されているところに、何度も泣けるポイントが発生します。

県庁の星ではないけど

松雪泰子演じる平山まどかは、実際に、フラダンスの先生として実在している人物です。

都会で活躍したものの、とある事情で田舎町のダンス講師となってしまった平山は、物語序盤において、典型的な田舎を見下した都会の人間として描かれます。

このキャラクターの心が少しずつ解きほぐされていく話なんでしょ、と思うでしょうが、まさにその通り。ですが、その気持ちの動きが丁寧に描かれているので、決して不快にはなりません。

都会から離れて、田舎をバカにしながらも、その田舎ですら満足に居場所がない

そんな人が、生徒たちにフラダンスを教えながら、成長し、変わっていく

本作品における主人公は、間違いなく蒼井優演じる紀美子ではあるのですが、本作品には、何人もの登場人物が主人公となっており、そのどれもがきっちり描かれています。

脚本の出来栄え

とにかく本作品は、脚本がいいです。

冴えない人たちが、力を合わせてすごいことをする、というのは一時期の日本映画におけるある種の定型のようであり、実際に面白い作品が数多くあったりします。

有名どころですと「ウォーターボーイズ」であるとか、「しこふんじゃった」でも「シャルウィーダンス?」でもいいですし、同じようにダンスものでいえば「チア☆ダン」なんかも、つくりでいえば似たようなものでしょうか。

でこぼこな人たちが、一つの目標に向かって努力して、勝利をつかむ、というのは王道です。

ただ、「フラガール」は、歴史的な背景がきっちりと描かれた中で、まったく無理なくその事情を描きながら、炭鉱町を救うための方法としてダンスを踊る姿は、より一層感動を誘います。

「なんで炭鉱の娘じゃなきゃダメなわけ。炭鉱東京から経験者ひっぱってくればいいじゃない」

「そういうわけにはいきません。ハワイアンセンターの理念は、炭鉱の、炭鉱人による、炭鉱人の為の」

本作品は、たしかに、田舎にハワイアンセンターをつくるという、日本と全然関係ない、突拍子もないところからはじまっている話ではあります。

一応、当時の日本人のハワイへの謎の憧れというものはあるにしても、平山氏からすれば、ハワイそのものが借り物なのだから、踊り手だって借り物でかまわないじゃないか、というのはもっともな意見だと思います。

ただ、本作品は、観光資源のない、もう何もなくなりつつある街を復興させるための、一世一代の大プロジェクトであり、単なる町の飾りにするわけにはいかないという切実な事情もあるのです。

そして、それぞれが成長し、炭鉱の娘ではなく、お客を楽しませるプロのダンサーへと成長していく姿は、多くの人の感動を巻き起こすこと間違いなしです。

ちなみに、本作品は、何度となく舞台化もされており、脚本の強度が高いことがわかる作品でもあります。

以上、村で死ぬか、生き抜くか。ズリ山に咲く映画「フラガール」でした!


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