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貴方の人生は何周目? ドラマ「ブラッシュアップライフ」感想

公  開:2023年
脚  本:バカリズム(升野 英知)
話  数:10話
ジャンル:地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディー
見どころ:ニジョウサバ

来世はヤギですかメ~

人生をやり直すことができたら。

生きている以上、そんなことを考えることは何度となくあるのではないでしょうか。

「ブラッシュアップライフ」は、そんな人生を何度もやり直す女性を描いた作品となっています。

実は、お笑いで有名なバカリズムの升野氏が脚本を担当しているのですが、長年お笑いの現場で活躍し、コントのみならず、ドラマの脚本なども書いていた人物の、まさに一つの到達点ともいえる「ブラッシュアップライフ」となっています。

主人公を演じるのは、今や世界的な女優ともなっている安藤サクラです。

安藤サクラは、カンヌ国際映画祭で賞を受賞した「万引き家族」や、「百円の恋」等で圧倒的な演技力を見せ、朝ドラ「まんぷく」のヒロイン役を演じる等、演技の幅の広い実力派の女優となっています。

それ以外にも、数多くの役者と、練りに練られた演出も合わさって、近年では例がないほどに面白い作品が「ブラッシュアップライフ」となっています。

本記事においては、そんな本作品の魅力について、語ってみたいと思います。

本作品は、気になって調べれば調べるほどネタバレを引き寄せることになりますのが、本記事においては、未見の人への魅力を伝えていくため、極力ネタバレはしないようになっていますので、ご安心いただければと思います。

ループもの

主人公が自分の意識だけを過去に飛ばすことができる作品といえば、いわゆるタイムリープものと呼ばれるジャンルとなっています。

有名どころでいえば、大林宣彦監督「時をかける少女」であったりしますし、過去を何度もやり直すという点については、映画「バタフライ・エフェクト」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

「バタフライ・エフェクト」は、タイムリープできる主人公が、幼馴染の女の子を救おうとして過去を変えていくのですが、物事は良いほうにばかり進まず、どんどん物語は暗くなっていく悲劇が描かれています。

カオス理論によるバタフライ効果と呼ばれる考えが根底にある作品となっておりまして、主人公のちょっとした行動が、思わぬ形で影響を与えてしまうことから、過去の出来事の変更の恐ろしさも含めて語られている作品となっています。

もし「ブラッシュアップライフ」でタイムリープものに興味がでた方については、タイムリープものの暗黒面を描いた作品として押さえておいてもいい作品となっています。

さて「ブラッシュアップライフ」のほうに戻りますが、本作品は、とにかく、1話から伏線が多く、見逃すことができない作品となっています。

ただし、会話や流れが普通に面白いため、伏線とかそういうのを一切気にする必要がなく、それでいて、後からちょっとした話の内容が伏線として生かされていることに気づいて、嬉しくなってしまうつくりのうまさがあります。

演技力のすごさ

「ブラッシュアップライフ」を見るにあたって、一つのハードルがあります。

それは、一人の人間の人生を何度も繰り返す結果、同じ場面を何度も見ることになる、という点です。

何せ、赤ん坊の時から40年近い人生をやり直す物語という性質上、人生の分岐点となる部分は複数でてきてしまいます。

かといって、そこを作品として見せないわけにはいかない、という構造上の難しさがあります。

細部が違っていて、その差異にこそ「ブラッシュアップライフ」の真髄があるのですが、場面として同じ場所を見せられることに耐えられない場合もあるかもしれません。

ただし、安藤サクラという圧倒的に演技力の高い女優の存在が、その心配を吹き飛ばしてくれます。

脇を固める俳優陣も素晴らしく、「海街ダイアリー」や「ケータイ刑事 銭形零」の夏帆。

「勇者ヨシヒコ」シリーズのムラサキ役でお馴染み木南晴夏が、仲の良い友達として、自然な会話が行われます。

また、染谷将太や水川あさみ等、ありえないぐらい豪華な俳優陣が出演していることもあって、同じシーンだとしても、まったく、飽きることがありません

安藤サクラの内面を語るナレーションも良く、何周もする人生を楽しんでいるのが伝わってきます。

ちょっとした会話が伏線になっていることもそうですし、どこか違和感のあるけれど、そんなものかと流してしまいそうな会話が、後々になってぴたりとハマるシーンなどは、何度も繰り返してみたからこそ、衝撃が大きかったりするので、是非飛ばさないで見てもらいたい点でもあります。

会話劇の面白さ

本作品は会話劇の圧倒的な面白さにもあります。

我々が生きている中でも、ウィットにとんだ会話というのがうまれたりするときがあったりするのではないでしょうか。

ちょっとした仲間内や、職場でしか通じない言葉、はたまた、偶然の出来事を共通認識として、面白おかしくつかったりすることで連帯感を確かめたりと、何気ない日常のやり取りが、決め台詞のように効いて来たりすることがあったりします。

勿論、そうではないセリフもあったりしまして、研究員をやっているときの安藤サクラが、顕微鏡の使い方について同僚と話をしているときの何気ないやり取りなんかは、知的でありながら、その瞬間・その場の人間でしかわからない面白さがうまく表現されていると思います。

また、大多数の視聴者がいるという前提でつくられるテレビ作品において、勇気あるセリフ選びも見受けられます。

ちょっとしたことですが、劇中で、ごんちゃんというキャラクターがいます。

ですが、呼び方が人によって異なるキャラクターでもありまして、「ごんちゃん」「ごんみさ」「ちゃんごん」など、変化するあだ名のキャラクターは曲者です。

普通の脚本であれば、視聴者の混乱を防ぐために、どれか一つに統一してしまいたくなるのが人情ですし、そういう指摘がどこかの段階ではいっても不思議ではありません。

にもかかわらず、そのことをネタにする会話などがあったりしながら、絶対に変えない、でも、視聴者もそのうち誰の事かわかるようになるというところに、何気ない会話が積み重なって、ブラッシュアップライフのキャラクターに厚みがでるようになっています。

物語をつくる際に、キャラクター同士のやり取りというのは、一種の取引をするものだ、という考え方もあって、進展のないような会話というのは避けられるものです。

しかし、「ブラッシュアップライフ」は、何気ない会話が面白く、そのおかげで、劇中の登場人物たちのことを深く知り、単純に好きになっていくことになるが面白いです。

人生ってそんなに簡単に変わらない

何度も人生をやり直す主人公ですが、見ていて面白いのは、なんだかんだいっても、高校ぐらいまではそんなに人生が変わらない、という点です。

2度目の人生も同じように過ごし、大学の学部こそ違っていても、小さな町の外にでるほどではない。

後になればなるほど、主人公は、人生を楽しむようになったりするのですが、凡人が2度目の人生になったとしても、いきなり超人になれるわけでもない、というところが、ファンタジーな話なのにもかかわらず、現実っぽくていい感じだったりします。

いい意味で庶民的な感覚が残っている点は、「ブラッシュアップライフ」の面白さの一つだと思います。

人生を繰り返したらすぐに無双になれるわけではない、という皮肉ともとれる演出で何度もそういうシーンがあります。

みんなが勝手に盛り上がってしまったせいで、染谷将太演じる福ちゃんが、歌手を目指してしまう、という場面があるのですが、そこを、場の雰囲気が悪くなるのも考えず、主人公が一言いう場面があります。

いくら、人生繰り返しているとしても、それは言えないだろ、とハラハラするのですが、やっぱり、それは主人公の妄想で、というシーンがあって、ある意味安心できるのです。

人生を繰り返すという異常を受け入れてもなお、自分自身の常識からなかなか出られない人間を描いてくれているのと同時に、それでも、ドラマとして、どんどん面白い方向にもっていく脚本の見事さは、他ではない点だったりします。

お仕事もの

主人公である安藤サクラは、一回目の人生では市役所の職員として働いています。

そこでは、市役所職員あるあるがでてきたりするのですが、その後には、薬剤師になってみたり、テレビ局員になってみたりと、色々な職につきます。

人生をやり直したら、今とは違う職業になるだろうな、と、誰もが当然考えるだろうことを安藤サクラ演じる主人公はやってくれており、同時に、その職業ごとにあるだろう、あるあるネタがものすごく面白いことになっています。

挨拶の仕方や、服装な、出勤の仕方、自分達の知らない世界を見せてくれる、そんなお仕事ものとしても本作品は面白く見ることができます。

テレビ局は別としても、どうしてここまで、その職業の人じゃないとわからないネタを自然に盛り込めるのだろうかと不思議に思うほどです。

かなりの取材が行われたらしいのですが、そんな取材内容を脚本に練りこむことができるという点も含めて、脱帽するところです。

音楽の使い方と懐かしさ

一回目の、主人公である近藤麻美の年齢は、33歳となっています。

そんな主人公の設定もあって、今現在の30代から40代の人たちにとっては、懐かしい出来事が満載という点も、面白い点です。

シールを交換するためのシール手帳、たまごっち、放送されていたアニメ等、様々な小道具が、特定の年代からすれば大きく刺さるところだと思います。

特に、音楽については絶妙な使い方をされておりまして、レミオロメンの「粉雪」は、劇中で何度も歌われています。

ドラマ「一リットルの涙」の挿入歌として使われ、カラオケに行ったならば、絶対に一度は聞いてしまうことになる歌です。

他にも、時代ごとに特徴的な歌が使われていたり、主人公たちが友達のトラブルの時には、なんでもカラオケを使っていたりするところででてきたりと、幅広く使われています。

公式のコンピレーションアルバムも既に発売中ですので、当時の歌にはまった方は是非確認してみてもらえればと思います。

メインの曲以外にも、こんな曲があったな、と気づいたりして、別の意味でも面白いと思います。

何周目かが服でわかる

小道具も凝っている本作品ですが、衣装もものすごい凝り方をしています。

何気なく俳優たちがきている衣装が、ブランドものだったり、かなり高価なものだったりするのはいいとして、その色の使い方も面白かったりします。

第一話をみていますと、主人公たち含めて茶色の配色がメインとなっていまして、正直いって、ものすごく地味な格好をしています。

2週目以降になっていくと、主人公の着ている服の色がかわっていきます。

これが、何周目の人生かがわかる印にもなっているところが、凝っている点です。

茶色が1週目。

白が2週目。

黒が3週目といったように。

ちなみに、ブラッシュアップライフの公式において明言されていますが、周回と服の色そのものは関係はないそうです。

主人公自身の職業も変わっているため、イメージカラーとしての変化ということと、主人公の住む町である北熊谷市に住む人たちは、茶色系が多いというぐらいのイメージのようです。

何度もやり直すと好きな色もかわるのかもな、ぐらいしか思っていなかったのですが、関係ないにしても、何周目かもしれない色、と思って周りをみた方が楽しい気がするので、個人的には、周回と関係ある気分でいるようにしています。

人生の見方が変わる

本作品は、何度も生まれ変わる主人公の物語ですが、我々が普通に生きている中でも多くの示唆を与えてくれる作品ともなっています。

安藤サクラ演じる主人公は、特別な人間ではありませんでした。

いたって平凡な人物で、たまたま33歳に不運にも死んでしまった人物です。

「来世は、グァテマラのオオアリクイです」

と言われて、さすがにそれが嫌で、人生をやり直そうとします。

異世界転生ものでもなんでもいいですが、ついつい、同じ人生をやり直すとなれば、ダークサイドに落ちそうになる自分との葛藤が起こるはずです。

「ブラッシュアップライフ」は、その点を、人間に生まれ変わる為に、徳を積む、という実に抽象的な概念が、遠回しにそれに歯止めをかけることになると同時に、主人公の動機付けの一つになっています。

徳を積むことを考えなければ、前世の知識をつかってお金儲けをしたくなったりするところですが、本作品は、よこしまな点は描かず、ひたすら普通の人間の人生のありえたかもしれない人生であったり、やり直したいという人間の願望をうまく見せているところが見事です。

さて、本作品を見終わったあと、ついつい、もしも自分が生まれ変わったら?、と考えてしまうことでしょう。

人生に迷っている人や辛い思いをしている人は、「ブラッシュアップライフ」を見ることで、死という概念が少しだけ希薄になると同時に、今の人生をどうやってよりよくしていくのか、そのヒントのようなものをもらえるはずです。

あなたは、何周目? 

「ブラッシュアップライフ」をみると、反射的に考えてしまうことが発生します。

世の中にいる天才と呼ばれる人であったり、自分の周りで圧倒的にすごい人をみると、ついつい「あの人、人生何周目なんだろう」と、ブラッシュアップライフを見た人ならではの引いた視点でその人物を見ることができます。

何らかの劣等感をもっていたとしても、もしかしたら、あの人は、何周もしているかもしれない、と思うだけで気持ちの負担は軽くなるはずです。

あと、茶色をベースとした地味目な格好をしている人をみると、ついつい「あの人は、一週目」とか、青い色の格好をみると「4週目かも」なんて、思ってしまって、日常の見え方が少しだけ変わってくれることも本作品の思わぬ副作用といったところではないでしょうか。

総評として

長々と書いてしまいましたが、近年のドラマの中でも、圧倒的な面白さを誇るのは間違いのない作品となっています。

人生をやり直す云々のドラマでいえば「プロポーズ大作戦」を思い出す人もいるでしょうし、会話劇のテンポのよさや、コントのような面白さという点においては、アニメ「オッドタクシー」は是非オススメしたいところです。

また、嫌みな男が何度も何度も同じ日をやり直しながらいい人になっていくビル・マーレイ主演「恋はデジャヴ」や、タイムリープしながら、島で起きる悲劇を回避しようとする「サマータイム・レンダ」も面白いです。

あと、「ブラッシュアップライフ」でよい点として、ループものであったり、タイムトラベルもののある意味で欠点となる部分を、よくも悪くも自覚しながら主人公が生きている点もよい感じです。

それは何かといいますと、主人公が存在することで、助かる人もいれば、不幸になる人もいる、という点です。

主人公がよかれと思って都合のいい行動を起こせば、一方で、不幸になる人もいるかもしれません。

不倫で悲しむ友達を事前に防いだり、失われる命を救ったりする一方で、不幸になることで強くなったり、そこで生まれる命を否定しないでいる点を主人公がちゃんと自覚している点です。

自分だけ幸福になればいい、という考えではなく、知らないフリをしているわけでもない。

「ブラッシュアップライフ」は、ドラマとして圧倒的に面白いだけではなく、人生の過ごし方や、考え方を改めて教えてくれる作品としても、非常に優れた作品となっています。

そう、アイラブユーが世界を救うことを教えてくれる、そんな作品なのです。

以上、貴方の人生は何周目? ドラマ「ブラッシュアップライフ」感想でした!


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