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*seyb- [soap/साबुन]

石鹸まわりの単語。シャボン玉の「シャボン」と石鹸の「ソープ」は同語源。

ソープ
←現代英語 soap
←古英語 sāpe
←西ゲルマン祖語 *saipā
←ゲルマン祖語 *saipǭ
←印欧祖語 *seyb-, *seyp-

シャボン
←ポルトガル語 sabão
←ラテン語 sāpōnem
←ゲルマン祖語 *saipǭ
←印欧祖語 *seyb-

*seyb- には “to pour out, drip, trickle, strain” の原義があるようだ。ラテン語にはゲルマン語から入って来たのが興味深い。ギリシャ・ローマでは石鹸は使っていなくて、ゴール人が毛を赤く染めるのに使っていた薬がゲルマン人に広まって、それがさらにローマ人に取り入れられた流れがあるらしい。

フランス語はゲルマン語化したイタリック語だと言われるが、他にもゲルマン語から入ったラテン語の語彙を収集してみるのも面白いかもしれない。ポルトガル語から世界に広まったので、シャボンやサーブンという単語を使う言語も多いかもしれない。ヒンディー語ではसाबुन(sābun)。

シャンプーも音が似ているので関連があるかと思いきや、こちらはヒンディー語から英語に入ってきた単語だ。

Shampoo
←ヒンディー語 चाँपो (cā̃po)  
 चाँपना (cā̃pnā) 「押す・つねる・こねる・もむ」の命令形
←サンスクリット चपयति (capayati)
←語根 चप् (cap) は恐らくムンダ語。すりつぶすことに関連のある単語だが、和らげることが原義にあるかもしれない。

命令形が語源と言うのも面白い。ヒンディー語文法書で最初の語形が命令形という教本も珍しくない。語形が簡単でまず使いやすいということもあるが、植民地時代に実用的だったからだ。「マッサージしろ・揉め」が「洗髪剤」という意味に様変わりしたのも面白可笑しい。

「注ぐ」と「揉む」の関連から、massageは アラビア語 massa+フランス語-ageなので、頭に油を注ぐ「Messaiah」と関連がありそうな気がしたが、アラビア語massaの語根は (m-s-s) で触れるという意味、一方油注がれた者 mashíakh の語根は (m-s-h) (もしくは m-š-ḥ) で、関係はなかった。

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