大人気の大学ゼミが目指す「しっかりとしたプール」のような場とは?(田中悠介さんインタビュー・前編)
今回、私が母校のゼミで行っている学生向けキャリア支援の活動についてインタビューをして頂きました!
ゼミでの活動内容から、私自身の学生時代まで様々な話を聞いて頂きました。話を聞いてくれたのは、NewSchoolの同期だった竹林さんです。
以下掲載します。
皆さまの参考になれば何よりです!
田中悠介さん
1988年生まれ。2011年名城大学卒、2012年清華大学留学。現在は、自動車部品・工作機械メーカーのジェイテクト株式会社でマーケティング業務に携わる。母校の名城大学経済学部の佐土井ゼミにおいて学生のキャリア支援を行うNextonePJを主宰。100名以上の学生を指導してきた。
多くの社会人を巻き込んだビジネスアイディア作り
――:お久しぶりです。お話させて頂くのは3ヶ月ぶりぐらいですかね?
田中:お久しぶりです。よろしくお願いします。
――:本日は田中さんが、母校のゼミで行われている活動について教えて頂ければと思います。田中さんが、かなり多くの社会人の方を巻き込んで面白そうなことをやれているので、お話を聞くのを楽しみにしておりました。
田中:ありがとうございます。
私は、母校でもある名城大学佐土井ゼミにおいて、学生のキャリア支援を目的として、様々な企画の運営を行っています。現在は、SDGsに関するビジネスアイディア作りとOBとの交流の2点が主な活動ですね。
――:ビジネスアイディア作りというのは、どういうことをされているんですか?
田中:SDGsで掲げられている問題の解決を目指したビジネスのアイディアを考えて、名古屋商工会議所に所属している企業の方々にプレゼンするという企画です。これを少人数の学生グループで考え、調べ、自ら大人の前で発表までしてもらいます。
――:学生さんにとってはかなり貴重な機会ですね。でも、学生さんだけで、ビジネスのアイディアを考えるのは難しくないですか?
田中:そうですね、みんな、苦労してます。
でも、学生ならではの問題意識からビジネスのアイディアは考えられるんですよね。
例えば、ある学生は、「勉強にうまく集中できない」という悩みからアプリのアイディアを出しました。あと、海外からの留学生が、同じく海外から来る技能実習生の教育を改善するビジネスを考えたこともあります。
――:確かに、目の付け所がビジネスマンとは違う印象です。
田中:あと、SDGsをテーマにしたのも工夫の1つです。社会人も、SDGsって知っている顔はしてるけど、ちゃんとは分かってない人も多いじゃないですか(笑)
――:私も「SDGsを説明しろ」と言われると、自信がないです。
田中:SDGsは学生と社会人の知識の差が比較的すくない領域なんですよね。だから、そこと結び付けることで、学生と大人の目線を合わせやすいと思っています。
それでも、学生がいきなりビジネスアイディアをまとめあげるのは難しいので、様々な知り合いの社会人に助けてもらっています。
――:どんな活動をされているんですか?
田中:まずは、学生に向けた講義ですね。新規事業に必要な考え方や重要なポイントを指導してもらっています。アート思考の専門家の方や、パナソニックで新規事業をやられている方に話をしてもらっています。
――:さまざまな人を講師に呼んでいるんですね。
田中:New Schoolというビジネススクールで色々な分野の専門家の方と知り合えたので、その方々にお願いすることが多いですね。本当にありがたいです。
あとは、ゼミのOBがメンターをしています。6つのチームに分かれるんですが、各チームに一人づつOBが入ります。週に1度は必ず学生と議論してもらうようにしているんですよ。
――:週1回か。中々の頻度ですね。
田中:オンラインでMTGすることもあるし、テキストベースのこともあるんですけど。でも、OBと学生の距離はかなり近いと思います。その甲斐もあって、かなりいい発表が出来ているんじゃないかと思います。
――実際に発表してみると、反応はいかがですか?
田中:実は、いい発表過ぎて、聞く側が真剣になりすぎるのが問題だったりします(笑)「アイディアはいいが、このコストだとどうやって利益を出すんだ!?」とか。
――:会社でされそうなリアルなツッコミですね(笑) しかし、収益性までアイディア段階で考えるのは難しいですね。
田中:そうそう。いい意味で学生扱いされてなくて、うれしいんですけど、ちょっと難易度が高いですよね。
ちなみに、この時はゲストのシーメンスの元社長が総評のコメントとして「採算性はたしかに気になるが、それをどうビジネスとして作りあげていくのかは我々社会人の仕事ですね」とまとめてくださいました。
――:大人のコメントですね。発表した後はどうなるんですか?
田中:私個人としては、ここで考えたアイディアを元に事業化まで持っていくのをやってみたいんですけど……。でも、発表までが大変過ぎて、そこまで行けたことはまだないです。発表で、「やりきった感」が出ちゃうんですよね。
――:学生さんも、運営する側も大変でしょうからね。気持ちは分る気がします。
田中:ありがとうございます。正直、運営している私も疲れます(笑)
様々な経験が積める佐土井ゼミ
――:あと、気になったんですが、ゼミとしては他にどんな活動をされているんですか?
いわゆる普通のゼミ活動と並行して、これだけ負担の多い活動をしていくとなると、学生さんはかなり大変かと思うんですが。
田中:元々、佐土井ゼミは下期が活動の中心だったんです。先生がアジアの大学とも交流があって、海外の大学と合同の相互発表会を行うのが一番大きな活動なんですが、これは下期です。なので、上期は元々比較的時間があった。
――:なるほど。元々空いていた時間枠に収まったんですね。
田中:はい。今は、上期は7月の発表に向けてビジネスアイディアを練る活動が中心、下期は海外の学生さんとの交流会に向けて準備していくのが主な活動になります。
――:あと、その他にもOBとの交流もされているんですよね?
田中:はい。これは2種類あります。
まずは、講義形式でのOBの仕事紹介です。これは月に一回ぐらいやっています。
それと、学生とOBがより少人数でじっくり話し合える場も設けています。複数のOBを呼んできて、学生とOBが1対3ぐらいの小グループを幾つも作ります。それで、ぐるぐるとOBが交代していく。こちらは、学生が気になっていることを少人数でぶつけられる場です。
――:かなり色々な人の話を聞ける機会になりそうですね。
田中:はい。合計すると、10人以上の社会人の話を聞けると思います。
――:貴重な機会ですね。自分の学生の頃を振り返ると、ちょっとうらやましいな。
しかし、かなり幅広い活動をされていますね。ビジネスアイディアの発表があって、下期に海外の学生さんとの交流がある。さらにOBとの頻繁な交流まである。
田中:確かに、言われてみると、そうですね。ゼミの佐土井先生自身が、元々は企業の人事部にいらっしゃって、アカデミアと企業の両方の感覚も持っているので色々な活動を許容しているのかもしれません。
――:田中さんのようなOBが企画を継続的に持ち込んでいるのも珍しい気がします。学生さんからすると、様々な経験が積めて良いですね。
「毎日連絡が来る」OBと学生の距離感
――:先ほどのビジネスアイディアの企画でもそうでしたが、OBとの距離感が本当に近いのが印象的です。
田中:ありがとうございます。まさに、OBと学生が継続的に交流するコミュニティを作ることが、目的の1つなんです。OBと学生の関係って、中々深まらないじゃないですか。OB訪問をしても一度話して、それっきりというか。
――:分かります。私も、大学時代は、一緒にゼミを受けた先輩は別として、さらに上のOBとは深い接点はなかったです。
田中:継続した接点を持つために、今はSlackでグループを作って、活発にやりとりをしてます。
――:そんなツールまで使ってるんですね。ビジネスサロンみたいだな。
でも、学生さんだと歳の離れたOBに連絡するのは、気後れしちゃいそうですね。
田中:そこは、とにかく私が目立って、「まずは、この人に相談すればいい」というのを学生さんに分かってもらえるように努力してます。
まず、ゼミにも全て顔を出して、「いつでも連絡待ってるよ」と言い続ける。そして、学生から連絡が来たら、出来るだけ早めにレスポンスする。
――:かなり積極的に田中さんから働きかけてるんですね。
田中:はい。ただそうすると、学生も「はじめて連絡するときは清水の舞台から飛び降りるような気持ちだった」って言うんですけど、すぐにどんどん連絡をしてくるようになります。
――:実際どのぐらい学生さんから連絡くるんですか?
田中:結構、多いですよ。多いときは、毎日連絡が来ます。
今は、ちょっと収まりましたけど。
――:仕事しながら対応される田中さんも大変ですね。
どんな相談が多いんですか?
田中:基本、就職活動の質問が多いですね。4-5月はやっぱり多い。
――:ああ、なるほど。就職活動は分からないことが多くて、悩みますよね。
田中:例えば、履歴書ひとつでも、どう書いたらいいか悩んでます。名城大学も公式の組織としてキャリアセンターもあるんですが、関係が出来ている僕らの方が相談がしやすいみたいですね。
――:年間のゼミを通じてこれだけの接点があると、学生さんとOBの信頼関係も強くなりそうです。
田中:ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。
実は、ビジネスアイディア作りの企画をやっている目的の1つも、OBと学生の関係づくりなんです。具体的な検討する案件があるから継続的に話し合える関係になる。
――: なるほど。確かに、普通の一度きりのOB訪問だと、仕事内容の紹介以上の話はされないですもんね。その後、また会うことも少ないし。
田中: そうなんですよ。ビジネスアイディアの発表という一つの目標を置くことで、それを通じて学生はOBのアドバイスから色んなことを学ぶことが出来ます。
――:企画の中で、OBから学生にはどのようなアドバイスをされるんですか?
田中:うーん、そうですね。
学生って、発想力はすごいんですよ。でも、考えが飛躍しすぎると、聞く側が話についていけなくなる。
だから、学生に自分のアイディアを一つ一つ順を追って説明をしてもらったりしますね。そうすると、どこで飛躍したのかを指摘できる。
――:なるほど。
田中:あと、学生は目的を忘れてしまうこと多いですね。面白いアイディアが出たら、「面白いじゃん!」って暴走しちゃう。でも、最終的には企業に説明するので、元々置いた目的に沿って考えないといけない。
なので、ズレている時は、「そもそもの目的はなんだったっけ?」「今のプランはそこに繋がっているんだっけ?」と問いかけたりしています。
――:社員教育にも使えそうな指導ですね。参考になります。
学生さんも、OBとの交流から学ぶことは多そうです。
「きちんとして、めちゃめちゃ大きいプール」になりたい
――:こうしたOBと学生の関係づくりを通じて、田中さんはどういった場を目指しているんですか?
田中:学生にとって「安心できるからこそ、全力が出せる場」が作りたいんですよね。
――:安心、ですか?
田中:みんな失敗は怖いですよね。でも、社会人は経験があるから、失敗からリカバリーする方法も分かる。でも、学生はその経験がない。だから、より怖いんです。
でも、実際は、すぐに取り返せる失敗もいっぱいあるじゃないですか。リカバリーできて成長につながるなら、それは失敗じゃなくて必要なトライアルです。でも、経験がないと、何が取返しのつかない失敗なのか、見分けがつかない。
だから、経験がある社会人が一緒にいて、「それは大した失敗じゃないすぐに取り返せる」とか、「その方向性は危ないから、すこし方向転換した方が良い」とかガイドをしてあげた方が良い。そうすれば、学生は安心して全力が出せる。
――:なるほど。確かに、そういう相談が出来る先輩がいると、色々挑戦するときに安心できそうです。
田中:今って、ネットでいろんな情報が溢れてるじゃないですか。で、間違った情報を信じて進むと取り返しのつかないこともある。そういう失敗は学生にして欲しくない。
だからこそ、安心できる場と達成すべき目標を作って全力を出してもらう。そこで経験を積んで判断が出来るようになってから広い世界に挑んでもらう。
このゼミを、そういう場にしたいんです。
――:まさにビジネスアイディア企画がそういう実験の場になってるんですね。
田中:はい。
実は、学生からね、「きちんとして、めちゃめちゃ大きいプールで、自由にやらせてもらってる感じがする」と言われたことがあるんです。
――:プールですか?
田中:そう。海じゃなくてプールなんです。より、管理されていて危険が少ない場。
まずは、そこで筋力が付け、正しいフォームを覚えて、道筋の付け方も覚えてもらう。OB達は監視員兼コーチみたいなものですね。学生があまりに変な方向に行きそうだったら修正したり、フォーム自体の指導をする。そこで、まず、学生は全力かつ自由に泳いで力をつける。
そこで学んでから、本当の現場である海に出てくれればいいんです。そのための、訓練の場に佐土井ゼミがなれたらいいな、って思ってます。
――:なるほど。
これだけのことをやっていると、学生さんの満足度も高そうですしね。
田中:実は、学生から貰って、すごく嬉しかった言葉があって。
――:はい。
田中:今のゼミ長と副ゼミ長の子が、「佐土井ゼミは、名城大学でも一番だと断言できます」と言ってくれたことがあって。「他では、絶対にこれだけの経験は出来ない」って。
――:熱いコメントですね。
田中:熱い。ちょっと泣きそうになりました(笑)
――:たしかに、ゼミでこれだけ社会人と交流する場は、かなり珍しい気がします。
これだけ外に向けても活動をしていると、学内での評判はどうですか?
田中:学生が佐土井ゼミの話を同級生の友達に話すと、「羨ましい」と言われるらしいんです(笑) あと、ゼミに入る前の1年生を対象にした説明会があるんですが、佐土井ゼミの回は希望者で教室が溢れかえったとか。
――:それは、大人気ですね! 私も学生の頃にこういう講座がもしあったら、受けてみたかったもんなぁ。
田中:ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。
【後編に続く】
(取材・構成:竹林 秋人)
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