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携帯代大解剖②アメリカで「2年縛り」が無くなったワケ

2ヶ月ぶりの携帯トークです。

この数ヶ月で携帯電話各社がahamoやpovoなどのオンライン専門プランを立ち上げるなど、携帯電話業界も大きく変わりつつあります。

今回のテーマは「2年縛り」。携帯=2年縛りというイメージがある方も多いかと思います。ご存じない方のためにざっくり説明すると、2年間の継続利用を前提としてプランや携帯端末の代金を割引き、2年間の継続利用がなされない場合に違約金を請求するというものです。

みんなに見てもらいたいのでお金を取るつもりは全くございません(笑)

日本の2年縛り

実はこの「2年縛り」、日本ではすでに(ほぼ)存在していないのです。2019年の10月に総務省からのガイドラインとして、違約金を1000円までに抑える指針が策定されたためです。もちろん古いプランなどで違約金が1000円を超えるものも現存していますが、基本的にはプランを変更すれば違約金が1000円、ソフトバンクの場合では無料となります。楽天モバイルなどはそもそも2年契約がありません。

さらに、他社乗り換えを潤滑にする目的として、他社乗り換えの手数料の無料化も進んでおり、官主導での改革が行われています。

アメリカの「2年縛り」

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実はこの2年縛り、アメリカにも過去に存在していましたが、日本と同じようになくなりました。上の画像はiPhone 5cの発売時のプレゼン資料なのですが、確かに、「Two-year contract」の文字がありますね。

しかし、日本のように政府が主導となって撤廃されたというわけではなく、アメリカではある会社が2年縛りを撤廃し、他社がそれに追随した結果、2年縛りが無くなったのです。

今回はそんなアメリカで2年縛りが撤廃されるまでをご紹介したいと思います。

Un-Carrier

アメリカで2年縛りを先導して撤廃した会社は「T-Mobile」です。

少し前の話にはなりますが、ソフトバンクの子会社だったSprintと合併したことでも知られていますね。

このT-Mobile、実はアメリカの4つある大手携帯電話会社の中で万年最下位でした。

というのも、所有していた電波が特殊なものだったため、携帯電話の機種が少なかったり、電波塔を立てるのに他社と比べて高い費用がかかるため電波のエリアが狭い、iPhoneを最後まで取り扱えなかった、などの問題がありました。

明らかに不利な条件で戦う必要があったT-Mobileはある戦略を立てます。

それが「Un-Carrier」です。日本語に直すと脱キャリア。「これまでの携帯電話会社ではない存在になる」という戦略です。

ちなみに、この「Un-Carrier」をマネしたのが楽天モバイルの「UN-LIMIT」ですね。

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似すぎです(笑)

このUn-carrierですが、1~12までありますので、今回は全部紹介します。

Un-Carrier1.0

2013年にUn-carrierでまず行われたのが「2年縛り」を撤廃したことです。アメリカの2年縛りは基本的に携帯電話端末を購入する際に2年の継続利用を条件に割引を行う(2年以内の解約でその割引額を違約金として差し戻す)というものでした。Un-carrierではその端末割引を無くす代わりに、端末の分割購入を導入し、月額料金を下げるということを実現しました。

それと同時に行われたのは月額料金を下げるために「プランを1つにする」ということです。

月額50ドルで500MBのデータ、無制限の電話とSMSが込みというプランに1本化し、2台目は月額30ドル、3台目以降は月額10ドルと台数が増えるほど割引を大きくし、家族全員でT-Mobileを使ってもらえる仕組みを作りました。

日本でも家族割などのサービスでドコモ、au、ソフトバンク共に導入していますね。

Un-carrier2.0

Un-carrierの第二弾はJumpというプログラムです。月額10ドルの追加料金で年に2回まで携帯電話を新しいものに機種変更できるサービスです。

これも、36回or48回分割で残債を免除するサービスとしてドコモ、au、ソフトバンクで導入されていますね。

Un-carrier3.0

第三弾では、海外100カ国以上でのローミングデータ通信をプラン料金に含めました。

特に、アメリカに隣接するカナダとメキシコではアメリカ国内と同じ料金体系で通話やメールを含めて利用できるようにしました。

また、ほぼ同時にUn-carrier3.5というものも導入し、タブレットの通信料を無料とし、タブレットの本体代も同時に無料としました。

ローミング無料は、ドコモのahamoや楽天モバイルで導入されていますね。アメリカ限定ですが、ソフトバンクでもアメリカ放題というものを提供していますね。

Un-carrier4.0

第四弾はライバルに焦点を当てたものです。

他社からT-Mobileへ乗り換えをする際には、先にも述べた違約金がかかることがあります。T-Mobileに乗り換え時にその違約金をキャッシュバックするというものです。

これも日本で携帯電話各社が代理店原資でやってますよね。

Un-carrier5.0

今度はT-Mobile(と新発売のiPhone5s)を1週間無料で体験できるというサービスです。

これはUQモバイルがTRYUQとしてやってますね。

Un-carrier6.0

SpotifyやAmazon musicなどの音楽配信サービスでデータ容量を消費しないカウントフリーサービスを提供開始しました。

LINEモバイルやソフトバンクなどで同様のサービスがありますね。

Un-carrier7.0

飛行機内での電話やSMSサービスを無料化しました。飛行機利用が多いアメリカならではのサービスですね。

また、同時にWiFi-CallingというWiFi経由で電話をできるサービスを提供し、世界中で通話料無料で使えるようにしました。

楽天モバイルが同様のサービスをRakuten Linkとして提供していますね。

Un-Carrier8.0

ユーザーが未使用のデータ通信量を最大1年繰越できるサービスを導入しました。

これはUQが新しく「くりこしプラン」として導入していますね。

Un-carrier9.0

ビジネス向けにもUn-carrierを導入するというものです。

最大の特徴は多くの回線数があればあるほど割引が行われるというものです。それだけではなくスモールビジネス向けにウェブサイトを提供するサービスなども実施しています。

ちなみに、私はこの回線を法人契約して個人向けに小売するビジネスをやっていました。

ビジネス向けはUQやワイモバイルで提供されていますね。

また、2015年の1年間に100万平方マイルのエリアをT-Mobileの電波エリアとする計画も同時に発表しました。

これは楽天モバイルと同じやり方ですね。

Un-carrier10.0

Un-carrier6.0と同様のサービスを動画にも拡大しました。YouTubeやNetflixなどの動画サービスでもデータ量を消費しません。

ソフトバンクが動画SNS放題として提供していますね。

Un-Carrier11.0

T-Mobile Tuesdaysという「各種クーポンを無料でプレゼントする」サービスを導入しました。

詳しくは別記事で(宣伝)

ソフトバンクのスーパーフライデーやauの三太郎の日、ドコモのハピチャンとして導入されていますね。(最近配ってくれませんが)

Un-carrier12.0

2016年にT-Mobile Oneというデータ容量無制限プランを提供開始しました。

ドコモ、au、ソフトバンクともに無制限プランを提供中ですね。

まとめ

ここまで12個の施策を紹介してみましたが、コメントしているようにほとんど全部日本の携帯電話会社がマネしてますよね。

これを見るに、Un-carrierで導入されているが、日本の携帯電話キャリアがあまり手を出していない分野だと「海外対応」「法人契約」くらいですかね?

この辺りが楽天モバイルの攻め所なのかもしれません。

Un-carrierのその後

ちなみにUn-carrierの後日談的なものですが、万年4位だったT-Mobileは他社の顧客をどんどん奪い、ついに(Softbank子会社だった)Sprintを超え全米3位の携帯電話会社になりました。

ソフトバンクはSprint買収のタイミングで、T-Mobileの買収も検討していたのですが、T-MobileがUn-carrierのような施策を打ち、大成長を遂げることはソフトバンクのプランにはなかったのかもしれません。

その結果、(結果として円安の恩恵で利益は出ましたが)ソフトバンクにとってかなり不利な条件でのT-MobileとSprintとの合併を行わざるを得なくなってしまったのかもしれません。

そして、上にあげた2016年の発表でUn-carrierはひと段落し、さらにUn-carrierの立役者であったジョン・レジャーはSprintとT-Mobileとの合併とほぼ同時に退任しました。

そんな状況下で今後も、このUn-carrier的なイノベーションが続くのか。

日本の携帯電話の未来をカンニングしたいのであれば、T-Mobileは引き続き注視すべき企業の一つです。

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