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【タスマニア劇場③】

【タスマニア劇場】マガジン

 ホバートでの地獄のファスティングから解放されて数日後、本来の目的地であるリンゴ農園に向かうため、ローカル路線のバスに乗り、ホバートからさらに南へ。ハッキリとした地名が思い出せないためGoogleマップで調べてみたんだけど、たぶんhuonvilleってとこらへんだったと思う。なんかGoogleマップではハオンビルって表示されていたんだけど、ヒューオンビルって響きに覚えがある。
 パースからずっと大切にしてきたペラペラの冊子はファームステイの情報誌で、そこには働けるファームの位置と収穫の季節が書いてあったから、それを頼りにここまできたわけだ。もちろん確認作業はしていない。そんなの基本だよ。
 パースのポストオフィスで買ったプリペイド携帯でファームに電話してみたら、OKよ、川沿いの〜まで〜時にピックアップしに行くから〜ら辺にいて!と言われたので、指示通りそれっぽいところで待っていた。
 3時間ぐらい待ってたかな。2時間ぐらい前にそれっぽい車が遠くのスーパーマーケットの駐車場に現れて、しばらく停車してから山の上に消えていった以外にそれっぽい車は通らなかった。あぁ、アレだったのか。
 やっと諦めて、なんせ電話は電波が悪いのかずっと繋がらないし、70Lのバックパックを背負ったままそれっぽい車が消えていった山の方に歩き出した。鬱蒼と茂る森。登れる気はしなかったけど登る他に道はなし。道路はあるし行けるだろって信じるしかなかったよね。
 しばらく歩いたよ。趣味で登山してる人たちに八つ当たりしたくなるぐらい過酷だったよ。70Lのバックパックといっても70kgあるわけではないけど、全部捨てても良いかなってちょっと本気で思ったもの。
 もう限界だって諦める一歩手前の二歩後、そんな時だった。後ろから走ってきたバンにクラクションを鳴らされたのは。
 おまえは本当にラッキーだなって、歯の抜けた笑顔で運転席のおじさんはそう言った。後部座席は荷物を積むために取っ払われていて、フロントガラスには飛び石でできたヒビがはいっていた。デッカい犬も乗ってたから、助手席は犬の特等席。荷物と一緒に無理矢理詰め込まれた状態で狭いし臭いし不安だしで心が折れそうだったけど、精一杯の笑顔で返したよ、そうだな俺はラッキーだ。

 ファームには15分ぐらいで辿り着いた。定かではないけど、そのくらいだったと思う。もしもの時は犬とおじさんどっちを先に倒そうとか考えていたけど、おじさんは実はすごい良い人で、またさっきと同じ笑顔でgood luckとか言って去っていった。
 そんなこんなでやっと目的地に到着。ファームステイの受付を探していたら、アジア人の女の子を見つけて、その子の案内でスタッフのいる事務所まで連れていってもらい、ようやく迎えに来るはずだったオーストラリア人のおばさんにも対面できた。
 電話したんだけど繋がらなかったから、必死の思いでここまで来たよって一応のアピール、そしたらその恰幅の良いオーストラリア人女性はこう言ったんだ。

 「あらあなた、言ったじゃない、川沿いの〜に〜時ねって」
 そうそうそうか、そうですが、電話じゃなくても全く聞き取れんかったわ。
 ちなみに案内してくれたアジア人の女の子とずっと英語で話していたけど、お互い日本人だったってのはよくある話で。

 もちろんまだまだ続く

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