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【七転び八起きの三転び目①】

【七転び八起き】マガジン

 認識の甘さから生まれたのはつまりほろ苦くビターな経験

 思ったよりも旭川にはスペイン料理を待っていた層がいたってことにびっくりした。その辺の認識からもうすでに甘かった。
 全国的な流行りが蠢き出して3年目ぐらいだったと思うから、そういう層はきっと東京や札幌でスペイン料理を食べて、旭川にもこういう店が出来たら良いねって感じで心待ちにしていたのだろう。従来のスパニッシュイタリアン的な流れではない、スペイン料理の専門店。

 ELECTRIC SHEEPは見事にそこに刺さらなかった。いやもう見事なまでに。

 BRASS MONKEYが20代〜40代の街中に遊びに出る層に刺さったお店だったから、当然そういう顧客に向けて、ELECTRIC SHEEPもそのイメージで出店したわけで、CAVAで乾杯して高級な赤ワインをボトルで飲むような雰囲気では一切なく、そもそも高級ワインなどおいちゃいない。選曲もレゲエだったし。
 既製品を全く使わず、料理人も和食上がりで魚の取り扱いや調理技術は間違いなかったんだけど、同時期に大阪のスパニッシュバルで修行してきた先輩の出したお店が雰囲気も良く本格的ってイメージだったため、余計にニセモノのレッテルが貼られやすい状況だったってのも運が悪かった。

 真面目に良い素材を使ってちゃんと料理してるのにニセモノとか言われちゃう。これは完全に自分のマーケティングの失敗が招いた悲劇だ。
 この時に足りなかったのはスペイン料理へのである。なんとなくでダーツが当たったからスペインね、みたいなノリでスタートしたから、料理に対する姿勢は良くても、スペイン料理に対するそれには愛がなかった。
 そしてその頃の自分たちにはお金持ちたちを相手にする技量感覚も準備も全てが整っていなかったから、結果的に客足が遠のいて行ったのは至極当然、つまり必然。

 良い波が来る前にスケボー持ってニューエラ被って半端な波に乗っちゃった感じかな。ほら、例えも調子悪いだろ、つまりそんな感じだったんだ。

 軽い気持ちでスペイン料理業界に飛び込んだ自分たちは見事にボコボコにされたわけだが、そこまで料理として酷いものを出していたわけではない。
 なんならイカスミのパエリアなんてちゃんとイカを捌いて、そのイカの墨袋を使って作ってたからね。だから数量限定だったしいつでも売り切れだったし途中でメニューからなくなったりもしたけど。

 BRASS MONKEYが大躍進を遂げていたおかげでELECTRIC SHEEPが伸び悩んでいる分は経済的にもカバーできる範囲ではあった。
 しかしそれが良い循環かといえばもちろんそうではないわけで。

 そう、俺たちは早すぎたんだよ。そして甘すぎた。

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