金美齢・櫻井よしこ『女は賢く勁くあれ!』

金美齢・櫻井よしこ『女は賢く勁く(つよく)あれ!』(WAC出版)

上野千鶴子『女たちのサバイバル作戦』の読書感想文
(https://note.mu/mrn_123_mrn/n/n83bd8b2ea502?magazine_key=md674f65f725c)
で、女性の社会進出に伴うもやもやした気持ちを書いた。「いつまでこんな働き方ができるのだろう」という不安や心の負荷を少しでも軽くするために多くの協力者を見つけて自分らしい生き方・働き方を貫きたい、と書いた。

理想を曲げずに生きる為には支えてくれる人も必要だが、理想をぶれさせない自分自身の「勁さ」も必要だ。金美齢・櫻井よしこ『女は賢く勁くあれ!』は対談形式で両名の「勁さ」が語られている。日本女性の生き方・夫婦論・家族論・躾と教育論・日本国家のあり方まで展開した満腹の一冊になっている。対談は、女性解放運動家の平塚雷鳥の生き方を例に、現代の日本女性への強烈な批判からはじまる。

櫻井「今の時代は、女性にも多くの自由が与えられています。けれども、たとえば雷鳥のような「私はどんなことがあっても、自分の人生を自分で生きる」という決意が欠けているように思います。好きなところだけ自由に生きる。けれど自由と背中合わせの、自己責任とか社会の一員としての義務を応分に負担していくという気持ちが、欠落している感じがするんです。」
(18頁)

櫻井「日本の女性たちは教育もある、お金もある、時間もたっぷりある。にもかかわらず、それらを活用して、本当に自分の人生を歩む人と、そうでなくって流される人に分かれてしまい、流されるほうが圧倒的に多い。これは考えることをさせない社会、日本の戦後の社会全体が考えていないことが凝縮された結果なんでしょうね。」
金「親も学校も子供たちに考えさせないし、社会に出てからも考えさせないという感じが、ずっとしてきました。ですから、女性男性に限らず、自発的に何かに疑問を持ったり、歳相応に自分で考え、何か行動するという習慣が身についていないんですね。子供に対して、何かきちっとした責任を持たせる、考えさせるということをしないと、永遠にこのまま続いていく気がしますね。」
(38頁)

現代日本において、会社勤めをする女性が当たり前の世の中になり、理想を追う女性もどんどん増えてきたが、他人が就きたくてもできないような遣り甲斐ある仕事に取り組む女性たちであっても妊娠を理由に簡単に辞める選択をしてしまう。仕事と子育ての両立は簡単にできるものではないが、自分の理想をなげうって子供に捧げる選択をしてしまうことは非常に勿体ないと憂慮している。また、そもそも自分の理想や目標を定めずに若い時代をふわふわと過ごしてしまう日本人が多すぎると指摘し、理想を追い続けていても「家事・子育ては女性がするもの」「女性は家の中にいるもの・守られるもの」といった昔のものの考え方に流されてしまう女性が少なくないことから、日本には自立できない女性が圧倒的に多いと結論付けている。
そんな女性たちに対して、両名は夫婦論・教育論と展開しながらどんどん活を入れていく。

金「今でこそ少し違ってはきましたけれど、一度家庭に入ったら、”妻の座”って永遠に安泰という錯覚が、どこかにありますでしょう。アメリカの女性は、いつまでも女としての魅力を保っていないと、夫の気持ちをしっかり捕まえておけない、そんな危機感みたいなものを、常に抱いているわけですよね。夫婦間であっても緊張感のあるなし、その差は大きいですよね。その人の人生というか、その後の歩みといいますか、自分を磨くかどうかに、やはりかかってきますから。」
(76頁)

櫻井「健全な”個”の精神が薄らいできたと思います。みんな同じであることが良いことだとされるようになった。たとえば学校で落ちこぼれる子供がいると、「この子を落ちこぼれさせる社会や学校の仕組みが悪い」という論理になる。またはサラ金で大金を借りて返せなくなった人がいると、「悪いのはお金を貸した悪徳業者だ」ということになる。社会や学校の仕組みもサラ金業者も悪いところはあるでしょうが、彼らを責めると同時に落ちこぼれる子供にも、お金を借りる人にも、責任があるということを言わなくなりました。自己責任とか個の自立が見えてこない社会ですね。」
金「公に関して語ることを意識して避けてきた。そのツケが今まわって来たように思いますね。フワフワした社会のなかで、センチメンタリズムに惑わされ、簡単にのってしまう人たちが、つまらないことでくよくよしたり、思い悩んだりしてるのではという感じがします。もう少し腰を据えて、本当の問題点がどこにあるのかを考えるだけの思考力、これをやはり子供の頃から、親なり学校なり、日本という環境が育てていかなければならないと思いますね。」
(120頁)

櫻井「母性というのは責任を持って育てる、保護をするということの上に愛情が重なっていることなんでしょうね。(中略)
でも、今失われているのが正にそれなんですね。(中略)相手は小さな命であり、親が保護してやらなければならないのに、そうしてやらない母親が増えている。(中略)子供と大人が台頭になってしまっている。子供は小さいのだから、まだわからないんだから、教えてあげなければならない。躾もしてやらなければならない。それが母親の役割と責任だという自覚が完全に欠落しているわけです。それが母性の欠落だと専門家は言うのです。無条件に愛することは大事なことだと思うんです。でも、それは母性の必要条件であっても、十分条件ではないのかしらと思います。」
(166頁)

社会人の責任・妻の責任・母の責任…。引用部分からも見て取れるように、本書には「責任」という言葉が散見される。これらの責任の欠落と「被害者意識」を過剰にあおる現代社会の風潮が重なり合い、問題の本質まで考えずにセンチメンタリズムに流される女性が多いと指摘する。
読みながら身につまされる思いになりながらも、最終部では「賢く勁く」あるための両名のアドバイスが書かれている。

櫻井「楽天的であり続けることは、大変な強さを必要とすると思いますね。楽しんでいる人が最も強いともいえます。生きる力とか問題解決の力は、根源的には楽天主義の中から生まれてくると私は思ってます。」
(115頁)

金「女性が輝いて生きていくうえでの一番大切な基本は、自分を肯定する、すべてを受け入れるということだと思うんです。人間誰もが、いつの時代、どの国に、どういった家庭の、どういう状態で生まれるかを選べないわけですから。(中略)
結局、その結果なんです。だから一〇〇%受容するしかない。ああではない、こうではないと言っても、自分の力ではどうしようもなかったことであり、受け入れて尚かつ、自分に足りないものは何かとか、自分がやりたいことは何かを考える力をつけて、その方向へ努力していく。それが人間が輝くための基本的な道ではないかと思うんですよね。」
(184頁)

最近、「仕事に自信がついてきた!」と思う日と「まだまだ駄目だ…」と思う日の繰り返しで、情緒不安定な日々を送っているわたしにとっては、ガツンと叱られたような気分になった。
何度も引用する、わたしの大好きな四コマ漫画・瀧波ユカリ『臨死‼江古田ちゃん」のなかに「自分を守れる自分を作る!」という名言がある(夜道で変質者に襲われないように、江古田ちゃんは奇人をよそおい、見事に危険を回避したのである!)。オチまで読んでニヤッとしながらも、「自分を守れる自分を作る」という言葉にずっと引っかかるものがあった。
「自分を守れる」人とは、外敵から身を守ることができ、自分の夢や目標をどれだけ障壁が高くても追い続ける「勁さ」が備わっている人物のことだと思う。
最終部のアドバイスは、理想を追い続ける女性たちが備えるべき意識である。心が折れそうになった時には本書を開いて、自分の心を鍛えていきたい。

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