【1日1曲】Nick Hakim - Cold KEIGO SADAKANE 2016年8月28日 14:06 Nick Hakimのルーツである音楽のエッセンスを律儀に盛り込んだ曲だ。そのルーツとはジャズ、ソウル、そしてゴスペル。しかし全体の音飾的な味付けは極めて今っぽく、ゼロ年代以降の音楽をたくさん通過してきたことがわかる。楽曲は、BPM60台半ばのゆったりとしたテンポで進む。裏拍に重きをおいたレイドバックしたリズムを刻みながら、Dナチュラル・マイナースケールのメロディを7thを多用したジャジーなコードが支える。ヴァースはサブ・ドミナントからドミナントにもトニックにも帰らず、フラフラした調性感を漂わせる。それはまるでもう二度と戻ってこないあの子への未練を断ち切れない歌詞のよう。続くコーラスはFから始まることで視界が開けたかのような明るさを一瞬見せる。そう、まるで去ってしまった彼女への想いを断ち切るかのように。でも結局断ち切ることなど出来はしない。なし崩しな自分を半音ずつ4回も下っていくコーラスの終盤でで表現する。ここでもDm7には回帰せず、サブ・ドミナントで曖昧なトーンを残す終わり方。そもそもこの曲はロマン派的なまでにサブ・ドミナントが多用されているのが特徴だ・圧巻はラスト。Fのコードのうえにゴスペル、ドゥ・ワップ、ソウルといいったカラード(有色人種)、そしておそらくキリスト教徒としてのルーツ・オーセンティシティをはっきりと垣間見せている。教会で録音したような反響のある録り方をしたクワイア的なコーラス、Fコードに乗るフレーズは完全五度が半音下がるノート、つまりブルーノートを奏でている。正にオーセンティックなブルーズ・ソウルだ。福音的な響きを持つラストは、うまくいかない日常(そしてうまくいかない恋)を洗い流し、明日への希望を照らす。ジャズの形式を借用しつつ、都会的でモダンな音像ながら、ルーツ・ミュージックへの敬愛がしっかり伺えるNick Hakimという人間のアーティストとしてのアイデンティティがよく現れた名刺代わりの一曲。 #jazz #解説 #Soul #blues #NewYork #gospel #nickhakim この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? 記事をサポート