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ウニより尊くて、トロより甘い

2019年11月。私は銀座で寿司を食べていた。

私はミャンマー在住である。銀座でお寿司を食べる日が自分の人生の中でやってくるなんて、想像だにもしていない。カウンター席の目の前で握られる寿司は艶やかで、思わず大将の繊細な指先に視線がいく。

ああ、やっぱり日本だなぁ。と思う。日本はいい。何がいいって、魚が美味しい。寿司屋にいるから思ってるわけじゃなくて、いや本当に。本当だってば。

せっかく帰ってきたのだから、と起業家の大先輩が奮発しておごってくれたお寿司。私には少しやっぱり敷居が高くて、こんなお店にはどんな人がくるのだろうと、思わずキョロキョロしてしまう。

カップルだろうか、いや、微妙な関係ってやつだろうか。同い年くらいの綺麗なお姉さんと渋いおじさまが並ぶカウンター。かと思いきや、仲の良いご夫婦だろうか。すっかりお得意様といった香り。

煌びやかな世界を見ていたら、昨日までミャンマーで、犬に噛まれただの、洗濯したらシャツが黄ばんだだの、天井が突然落ちてきただの、そんな人生がもう片方にあることが夢の中だったみたいだ。

「最近の経営課題は・・・」

と私の口がそれっぽいことを言った。それっぽい!それっぽいぞ!と心の中でガッツポーズをしながら。この場では犬の話も、シャツの話も、天井の話も、するまい。なんせここは銀座なのだから。

そんな時だった。一本の電話がなった。ミャンマーからの着信。

ここで電話に出るのは失礼かもしれない、とは思いながらも、私は電話に出ることにした。わざわざ電話してくるなんて、もしかしたら何かトラブルかもしれない。

席を一旦外して、でた電話の先に、スタッフの声。



「Yurikoあのね、あのね。」

「うん」







「元気?ご飯食べてる?私たちのこと忘れてない?」



そこにはいつものスタッフが、そのまんまいた。

「元気だよ。来週には戻るから元気でやっててよ」

思わず吹き出す。





「大丈夫?何か大事なことだった?」
席に戻ると心配そうに見つめる先輩。私は笑顔で言った。



「はい。とっても大事なことです。」

私の今生きる世界に銀座はない。私の世界には美味しいお寿司もない。だけどこのカウンターに座る誰も持っていないものを、おそらく私は持っている。それはきっと、ウニより尊くて、トロより甘い。


※お寿司は悶絶級の美味しさでした。感謝しかありません。ごちそうさまでした。

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ミャンマーでハウスキーピングの事業をしています。慣れない国での葛藤や経営の難しさ、毎日の中にある喜びを、小さなことから大きなことまで伝えていきます。

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