註:この記事は、はてなブログの方で先に公開してあるものをそのままコピペしただけの記事です。
アルマナック・デマとは何か?
ネット上のホロコースト否定派は、このデマを頻繁に使用します。どうしてこんな馬鹿馬鹿しい話をデマだと見抜けないのか? 私にはよくわかりません。内容の詳細が分からなくとも、「そんな馬鹿げた話があるわけがない、何かの間違いだろう」くらいには即座に考えるはずだと思うのですが、不思議なことに、そう考えない人たちがいっぱいいるのです。そこが未だにマジでよく分からない。
何に致しましても、本当に馬鹿馬鹿しいデマであることは確かです。戦後、東西冷戦になって、ホロコーストの詳細がよくわからなかった時代なら、こうしたデマもそれなりに少しは価値があったかもしれません。しかしもう、戦後およそ80年にもなろうかとしているのに――っていうか、本当にデマって消えないのだなぁと考えさせられる一件でもあります。
今回は、多少はやはり既存の研究に頼らざるを得ませんが、私自身の調査・考察を大幅に加えた上でアルマナック・デマについての記事を起こしました。
まずは、そのアルマナック・デマの内容を以下のブログ記事から引用します。色々とバリエーションはあるようですが、どれもこれも似たようなものなので。
簡単に言えば、戦前の世界ユダヤ人人口よりも戦後の方が多いので、ユダヤ人は減っているどころか増えているのだから、ホロコーストはなかった、とするものです。
……アホか、と一笑に付して仕舞えばいいだけの話なのですが。
戦前のヨーロッパのユダヤ人人口が650万人?
さて、まず、アルマナックとは関係のないウソを先に指摘しておきます。「戦前のヨーロッパ在住のユダヤ人650万人」とありますが、これは否定派のバイブルの一つであるリチャード・ハーウッドの『600万人は本当に死んだのか?』にあるウソです。私がずっと前に適当訳したハーウッド本には、
と書いてあります。確かにチェンバース百科事典には「650万人」の数字が書いてあるそうですが、こう書いてあるのだそうです。
ハーウッドが述べている650万人には、書いてある通りソ連(ロシア)のユダヤ人は入っていません。このことは、ハーウッドのお仲間であるはずのIHR(歴史評論研究所)も指摘しています。
事実を捻じ曲げて嘘を書くのがハーウッドのやり方です。戦前のロシアを含めたヨーロッパのユダヤ人人口は概ね950万人程度であるとわかっています。
ニューヨーク・タイムズの戦後のユダヤ人世界人口推定が1500万人~1800万人?
これは何かというと、以下のニューヨークタイムズの記事にあります。サブスクしないと読めないので、読みたい方はサブスクして下さい。
Armies for Palestine; Need for International Force of 70,000 Believed Indicated as U.N. Faces Decision - The New York Times
この話は昔の修正主義者界隈で出回った結構古いデマのようで、反修正主義者の老舗サイトであるNizkorに丁寧に解説した記事が残っていましたので、少し長いですが以下に紹介します。
こうしたデマが、今回テーマにしているアルマナック・デマの起源であるらしいです。しかしそれでもまだ、陰謀論めいた作り話を入れてあるだけまだいくらかマシというものです。現代のアルマナック・デマはこれより遥かに低レベルの酷いものです。
アルマナックのユダヤ人人口ってどんな感じなの?
さて、まず知らなければならないのは、ワールド・アルマナックって何?って話です。
ワールド・アルマナックはアメリカではよく知られていますが、アメリカ人以外にはそれほどは知られていないようです。日本で言えば『現代用語の基礎知識』みたいなものだと思いますが、それ一冊あればその年の世界のことは大体わかるデータブックとして、アメリカでは広く一般的に知られています。
余談ですが、今回この記事を書くきっかけになったのは、近所の図書館に1933〜1949年ごろのワールドアルマナックが置いてないかな?と思って、検索してみたら1945年のものが一冊だけあったのを見つけたことです。
ハードカバー版もあるそうですが、これはいわゆる簡易なペーパーバック版です。洋書のペーパーバック版って、紙質が非常に悪いので、図書館で大事に保存されていても、78年も経つと、本当にそーっと触らないと、簡単に破れてしまいます。実際、今回図書館で閲覧している最中に数ページほど、端っこだけですけど数箇所破ってしまいました。以前に、アメリカから取り寄せた『死の軍団』は1983年版ですが、これよりはるかに酷くボロボロで、自力でのスキャン取り込みを諦めた経験があります。
さて今回記事のテーマにしている、アルマナック・デマとは、要するに上の他記事から引用した中に書いてある、ワールドアルマナックに掲載されているユダヤ人世界人口を使って、ユダヤ人人口が減ってない!とするものであることは述べた通りですが、では具体的に、アルマナックにはどのようなユダヤ人人口のデータが掲載されているのかを知っている日本人って、あんまりいないと思います。特にネットのいるようなホロコースト否定派は全然知らないでしょう。
アルマナック・デマの簡単な解説については以下にあります。
解説及び反論自体はこれだけで事足りるとは思うのですが、どーも、やっつけ仕事感が拭えない記事でもあります。内容としては十分ではあるものの、それほど詳細には解説していないんですよね。アルマナック・デマ自体がよほど馬鹿馬鹿しかったのではないかと思われます。例えば以下のような記述があります。
掲載されてるっていうんだったら、どこに掲載されているのか示して欲しいところです。これがこの記事では説明されておらず、「どういうこと?」となるところでもあったのです。値が異なる同じ年のユダヤ人世界人口が掲載されているってどういうこと?ってことです。
ワールド・アルマナックに掲載されている世界ユダヤ人人口は「二つ」ある。
以前に1926年までのアルマナックならネットで閲覧可能なことを知って、確認してみたところ以下のような表(1926年版)を見つけています。見てわかる通り、これは宗教別人口表です。この中にユダヤ人の世界人口が書かれているのです(赤枠)。
1926年以前のいくつかのワールド・アルマナックも確認してみましたが、確認した限りでは、宗教別人口表以外はありませんでした。例えば、冒頭付近で引用紹介した記事の中にある1924年の値も、宗教別人口表の中にあるものであり、宗教別人口表しかありません。確かに1924年版は世界ユダヤ人人口を、15,286,000人としています・
ネットでは1926年以降が公開されていないので詳細はわからないのですが、どうやら、1926年以降の何れかの年からは、世界ユダヤ人人口の詳細表も掲載するようになったようなのです。それが例えばHCの記事にある以下の表(1948年版)だったりします。
では、今回私が近所の図書館で見つけてきた、1945年版のアルマナックではどうなっているかというと、まず宗教別を以下に示します。
上記のとおり、1945年の宗教別人口表ではユダヤ人世界人口は15,192,089人です。ただし、表の欄外下にある表記には、このユダヤ人世界人口の出典がないことにご注意ください。1924年版や1926年版の宗教別表の下には出典がH.S.リンフィールド氏によるものだと書いてあります。
では、1945年版のアルマナックにある世界ユダヤ人人口の詳細表はどうなっているかを以下に示します。ちなみに、上の宗教別版と違って色が茶色いのは、図書館でコピーしてきた用紙を無くしてしまい、念のためと思ってスマホで撮っていたからです💦
見ての通り、世界ユダヤ人人口の詳細表では15,688,259人となっており、宗教別人口表の値とは異なっています。また、世界ユダヤ人人口の詳細表の上部には出典が明示されており、次のように書かれています。
そう、この世界ユダヤ人人口の詳細表に書かれている1945年の世界ユダヤ人人口である15,688,259人は、1939年の世界ユダヤ人人口推定値だったのです。実はこれは、その二つ上にある1948年版の世界ユダヤ人人口の詳細表にも全く同じことが書かれており、数字も全く同じです。
つまり、1945年と1948年の世界ユダヤ人人口の詳細表しか確認してはいないものの、1939年から1948年までは、アルマナックにあったであろう世界ユダヤ人人口の詳細表にある世界ユダヤ人人口値は全て、1939年の世界ユダヤ人人口推定値の15,688,259人しか掲載していなかったことがほぼ確実だと考えられます。
「え?でも、その期間内で値が違っているのもあるじゃん」と指摘する人もいるかもしれません。最初の方で引用した記事の中にはこう書いてあるからです。
1939年は15,290,983人、1940年は15,319,359人、1948年は15,713,638人ですから、15,688,259人ではありません。しかしこれはすでに述べた通り、宗教別人口表の方の値であると考えられます。実際、1948年の世界ユダヤ人人口の詳細表では15,688,259人であり、上の数字とは異なっています。
1939年〜1948年までのすべてのアルマナックを調査出来ていないので、モヤっとする感覚を持たれる方もいるかもしれませんが、アルマナックにある世界ユダヤ人人口データの出典になっているアメリカ・ユダヤ人委員会(AJC)のYear Bookで事態は明確になりますので、以下をお読み下さい。
要はこれに書いてある通りで、AJCでは、1939年以降、1945年までのユダヤ人人口を統計値としては出しておらず、1946年の値としてやっとユダヤ人人口の統計値を出せたのです。当たり前のことですが、第二次世界大戦だったからです。アルマナックにあるデータの出典元のAJCがそう言っているのですから、それを認めるしかありません。
今回の記事は以上ですが、今後もし、1939年〜1948年頃の未入手のワールド・アルマナックを参照できる機会があったら更新するかもしれませんので乞うご期待!(期待しなくていいですw)東京大学法学部の図書館にはその頃のアルマナックは全部あるようです。私には行けませんし行く気もありませんw