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    2009年7月~2019年5月に日経産業新聞・「私の本棚」に掲載したものを中心に追加したものもあり。

最近の記事

価値測定の貨幣換算の功罪

世界銀行の報告によれば、世界の富の総量は増加している。 同報告の「富」の定義は、自然資本(森林や鉱物)、人的資本(生涯所得)、生産された資本(建造物やインフラなど)、対外純資産等さまざまな要素で構成されるが、いずれにせよ貨幣換算されたものであり、資本主義の基本的価値評価ベースに基づくものである。 価値基準が貨幣換算価値であっても、総量の増大により、十分とは言えないものの、絶対的貧困率は減少していると世銀は報告している。 一方、相対的貧困率はどうであろう。相対的貧困は富の

    • 公益資本主義のフレームワーク

      「公益資本主義」は資本主義の枠組みにおける「分配」の問題を解決しようとする取り組みと理解する。 「公益資本主義」における分配の対象先は「社中」と定義される。一般的には「マルチステークホルダー」と類似するが、利害関係はない仲間という意味であえて「社中」という用語を使っている。 「社中」のガバナンス、すなわち、あらゆる「社中」を意識したガバナンスがその根幹にある。 さて近年、「リスク」対応の多様性が問われ、企業の開示制度に具体的に取り入れられている。 企業は、気候変動(TCF

      • ワルシャワ

        2019年10月、ワルシャワでの学会発表。 監査におけるサイバーセキュリティとAIの活用をテーマとした。 "CYBERSECURITY AND AI IMPLICATIONS FOR INTERNAL AUDITING " The Thirty-First Asian-Pacific Conference on International Accounting Issues will be held from October 13-16, 2019, in Warsaw,

        • 「分断」をどう考えるか

          一般的に「分断」はネガティブなものとして理解されている。しかしながら、「分断」は必然的に発生してしまう現象であり、昨今、世界で発生している問題とされる事象に関わっている。「分断」について、経営と社会に観点で考察してみたい。 人が本能的に分断・対立の方向に向かいたがる傾向を表すもので、経営学においては「マトリックス経営」がある。マトリックス経営は、経営の効率性・有効性を高める手法として有効とされ、ビジネスで成功している組織では採用してるケースも多い。 マトリックス経営は、一

        価値測定の貨幣換算の功罪

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        記事

          人的資本経営と新しい経営戦略ツール

          人的資本経営が開示制度の改正で必須化された人的資本経営開示でベストプラクティスとされる企業には、丸井、SHIFTなどがあげられている。 とてもラフに言えば、丸井の場合、新事業新サービスからの収益(イノベーションによる収益)が価値の源泉。SHIFTの場合、個々人の価値向上による単金アップが源泉。いずれも人的資本経営が企業のパフォーマンスに直結しており、証券市場の価値測定に使われるマーケットキャップ=時価総額を最大化しようする政策と合致しやすい。現在、日本の証券市場が日本企業株の

          人的資本経営と新しい経営戦略ツール

          自律分散型教育研究機関

          現在の大学は、リソース(研究者、教員、キャンパス、予算等)は国家主権の枠組みのもとに存在している。 これは国立大学だけではなく、私立大学であっても国家から一定範囲の擁護、制約を受けて存在している。 結果として、教育や研究の成果として与えられる「学位」についても国家から一定の制約、統制を受けることになる。 自律分散型での学位認証はできないものか。 そもそも、テレコミュニケーションの高度化が図られつつある現代において、物理的なキャンパスの存在に制約は無く、キャンパスに制約が無い以

          自律分散型教育研究機関

          「通貨」を公共財にする

          「通貨」は現在の社会システムを支えるインフラであり、公共の便益に資するものと一般にはとらえられている。 では、「通貨」は公共財と言える存在なのか。 公共財は、非排他性と非競合性の特徴を持つ財貨である、と定義される。 非排他性とは、一人が利用しても他の人の利用を制限することができない性質を指す。例えば、空気は誰もが自由に呼吸できるため、個々の利用に制限を設けることは難しい。 また、非競合性とは、一人の利用が他の人の利用に影響を与えない性質を指す。これも空気の場合で言えば、利用

          「通貨」を公共財にする

          読書記: 東京市ーー七つのテーマで巨大都市を読み解く」(源川真希 著、 ちくま新書)(2023.5.10 発行)

          自分自身が東京で職得て居住するようになって38年が経過した。そういった観点から本書を読み進むと自身が見聞きしてきた「東京」の背景が改めて浮き彫りになった。仕事柄、国内外の様々な場所を訪れる機会が多かったが、東京都内でも自身が様々な場所に行き、関わっていたのだなということが思い起こされた次第である。 一方、これとは逆のアプローチもありうると思う。本書で「東京史」を確認しつつ、現在の東京を見つめるというアプローチである。 本書は、震災・戦災による東京の破壊と復活、世界最大級の都市

          読書記: 東京市ーー七つのテーマで巨大都市を読み解く」(源川真希 著、 ちくま新書)(2023.5.10 発行)

          小説・最後のサイン

          小さな疑惑 「本当に嫌になっちゃうわ」 年明け早々、黒川コーポレーション古川営業所(宮城県)の事務員・春川朋美は、昼食に出かけた喫茶店で、同僚の杉浦真弓にひとしきり愚痴を聞かせた。黒川コーポレーションは、東京に本社を置く東証一部上場の老舗建材メーカーだ。 朋美をいらだたせているのは、営業所の先輩事務員、須藤佳世子の執拗なイジメだった。就職氷河期のまっただ中に大学を卒業し、派遣社員の道を選ぶしかなかった朋美より、佳世子は3歳年上。氷河期に引っかかることもなく、正社員として黒川コ

          小説・最後のサイン

          共感コミュニティ通貨eumo から考える "GIFT"とは

          「最適化社会」の進展に相まって、payfoword 型の価値移転が社会に浸透している。 その一つの具現化として、クラウドファンディングがあり、社会システムの一部として機能している。 ただし、クラウドファンディングにも一定の見返りが組み込まれている仕組みもあり、その場合は等価ではないかもしれないが、価値交換の変形とも言える。 純粋な寄付行為にしてもレピュテーションの向上といった効果を期待しているところがあり(自分自身、会社で起案書にそういった効果を経済価値に置き換えたデータを入

          共感コミュニティ通貨eumo から考える "GIFT"とは

          日本人の叡智(磯田道史著、新潮新書)(2012.3.2日経産業新聞寄稿)

          ------後日のコメント------------------ 各種メディアで大活躍中の磯田道史氏ですが、様々な教育・研究機関を経て、現在、国際日本文化研究センター教授となりました。。 ----以下掲載時本文-------------------- 本書は映画化もされた「武士の家計簿」の著者による日本の先達の言葉の紹介である。 1項目で700文字ほどの言葉の紹介ではあるが、それぞれに深みがある理由は「はじめに」に記述されているとおり、著者が膨大な時間を使って先達の人物を知るた

          日本人の叡智(磯田道史著、新潮新書)(2012.3.2日経産業新聞寄稿)

          新しい価値基準の社会、例えばブロックチェーン地域通貨による「自律分散社会」の実現化可能性

          18世紀、イギリスの産業革命は当時における新しい価値基準社会であった「資本主義」が生み出された時代であった。 18世紀の産業革命時のイギリスの人口は600万人程度。東京23区の人口は1000万人弱。世田谷区単独でも100万人弱。 この人口規模から考えると日本全体は難しいにせよ、東京23区や世田谷区において新しい価値基準の社会を実現することは非現実的ではないと推察できる。 野村総合研究所の調査によれば、40世帯に1つは1億円以上のキャッシュを保有している(純金融資産であるため

          新しい価値基準の社会、例えばブロックチェーン地域通貨による「自律分散社会」の実現化可能性

          今後の大企業のビジネスモデル

          ブロックチェーン、WEB3、NFTあたりの話を聞く機会が増えたなと感じていたが、統計をみると2019年にはほぼゼロに近かったが、2020年以降、WEB3やNFTのビジネスが天文学的に増加していた。ブロックチェーンの本丸である仮想通貨=暗号資産は冬の時代と言われながら、流通量は激増しており、メルクマールの一つであるビットコインやイーサリアムのレート(対法定通貨)も2020年以降のなかでは低迷しているものの対2019前半と比較すると大きく上がっている。 自律分散という性質上、本質

          今後の大企業のビジネスモデル

          「最適化社会」から「自律社会」の「時代のはざま」における居住地コミュニティ

          現在は「SINIC理論」では「承認から自己実現へ」、「社会適応(上手く生きる)から内発的動機(良く生きる)へ」という「時代のはざま」であると理解する前提の考察。 今後、より高齢社会になる前提と自律社会へ転換する前段階の「時代のはざま」は社会のフレームワークが法定通貨評価型の資本主義社会であることを考慮すると現況の不動産ビジネスをベースにしつつ、社会適用のノウハウ蓄積中であるエコビレッジ(社会でのポーションを高めている)での経験値を組み合わせた居住地コミュニティを当面のスタイ

          「最適化社会」から「自律社会」の「時代のはざま」における居住地コミュニティ

          社会の成長・発展

          社会の発展には「成長」が必然との考え方がある。岸田政権の「新しい資本主義」ついても「分配」を重視しつつも「成長」無くして「分配」はできないという考え方は有力である。 さて、「寿司魂」という漫画作品がある。この作品は「江戸前の旬」という銀座の寿司店にまつわる物語のスピンオフ作品であるが、時代背景が戦後~高度成長気というところに特徴がある。 https://www.amazon.co.jp/%E5%AF%BF%E5%8F%B8%E9%AD%82-1%E2%80%95%E6%B1%

          社会の成長・発展

          読書記: オーウェル『1984』を漫画で読む(ジョージ・オーウェル フィド・ネスティ 著、 いそっぷ社)(2022.6.28 発売)

          学生時代にオーウェルの「1984」を読んだが、難しくてとても読みづらいと感じた。 今回、漫画版が出たとのことで試しに読んでみたが、やはり難しい。 しかしながら、その中で展開されている内容は現代の時流を見ると考えさせられた。 乱暴にまとめると、権力層(個人の権力者ではない「システム」→個人だとクーデターや寿命がつきることもある)の構築した統治システムを維持するためは勝ち負けのない戦争をダラダラと続けることが有効、ということ。 これは世界中でおきている紛争や危機懸念をベースにした

          読書記: オーウェル『1984』を漫画で読む(ジョージ・オーウェル フィド・ネスティ 著、 いそっぷ社)(2022.6.28 発売)