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レビュー/あらゆる意味で衝撃的なBABYMETALの3rdアルバム「METAL GALAXY」

2019年10月13日 Text by Kotaro MASUDA a.k.a. TAROO-METAL

METAL GALAXY - THE ONE Limited Edition - / BABYMETAL
2019年10月発売

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BABYMETALらしい「問題作」だ。

アイドル側からBABYMETALにはまった人たちにとっては無理なく受け入れられるだろう。「なんじゃこりゃ!?」と驚くだろうが、抵抗を感じるどころかむしろどの曲も刺さるのではないか。逆にメタル側からハマった人たちにとっては、単純明快なメタル曲はアルバムの最後を飾る“Arkadia”くらいなので、好きになれない(あるいは興味を持てない)可能性も十分ある。単純に3rdアルバムの音楽性が、長らくメタルを好んで聴いてきた人たちの耳に馴染むかどうかが問われるとも言える。要するに好みの問題なのだが。

そもそもメタルを定義することは不可能だ。ある曲が(あるいはあるアーティストの音楽が)メタルかどうかは、その人の受け止め方による。音楽の感じ方は主観的であり、数学や物理の定義のように客観的にメタルを定義することなどできないのだ。だから「METAL GALAXY」がメタルかどうかと問うことは無意味。単純にこのアルバムが好きか嫌いかを表明することしかできない。マーティ・フリードマンが2014年に放った名言「聴いたら好きか嫌いかしかない。でも絶対に無視できない」は,5年経った今でもBABYMETALを評価する上での重要なキー・ワードなのだ。

前作「METAL RESISTANCE」はメタルを軸に据えながらジャンル横断的に様々な音楽をBABYMETAL流に調理した楽曲が居並んだアルバムだった。一方「METAL GALAXY」はもはやメタルに軸があるとすら言えないほど音楽的多様性が広がったアルバムだ。よく言えば「バラエティに富んだ曲が収録されたアルバム」だが、悪く言えば「まとまりがないアルバム」とも言える。どちらに転ぶかば聴き手の音楽的嗜好によるだろう。多様性の振れ幅が常軌を逸したレベルなので、いずれにしても「多様性に満ちている」とも「焦点が定まらず散漫だ」とも受け取られる可能性のあるギリギリの線、紙一重のところを攻めている作品であることに間違いない。

そのようなギリギリ感はとてもBABYMETALらしいと思う。常識にとらわれず既定路線を覆すことがBABYMETALらしさだとすれば、カテゴライズ不可能な「METAL GALAXY」を生み出したことにより、BABYMETALは「BABYMETALというジャンル(あるいは音楽)」の創造に一歩も二歩も前進して近づいたと言えるだろう。「何がBABYMETALかは自分たちが決める」という強い決意と矜恃に満ちたアルバムだ。

この「THE ONE Limited Edition」には2018年7月に名古屋で行われたライブ「BABYMETAL ARISES - BEYOND THE MOON - LEGEND - M」のDVDがバンドルされている。収録されているのは7曲だが、ハイライトは何と言っても途中からMOAMETALがリード・ヴォーカルを務めた“ヘドバンギャー!!”、通称“モアバンギャー!!”だ。

MOAMETALは5年前にも日本とドイツで“ヘドバンギャー!!”を歌ったが、今回はその時よりも明らかに歌が上手くなっていてびっくり。声がしっかりと出ており力強く、ロングトーンで叫んでも息切れすることがない。アイドルというよりはアーティストのようなかっこよさを感じさせる声質も魅力的だ。MOAMETAL自身は自分が歌うことはBABYMETALでは求められていないと認識しているようだが、隠しておくにはもったいないと思う。何とかしてライブでその歌声を披露する機会はないものか。

Disc-1
01 FUTURE METAL
自らヘヴィ・メタルの未来を背負うことを高らかに宣言したタイトルが極めて重要な意味を持つインスト曲。近未来的なデジタル・サウンドがカッコいい。歌詞カード記された歌詞は「We are on an odessey to the METAL GALAXY. Welcome to the world of BABYMETAL.」という2行のみ。しかし実際に曲を聞くと,この2つの文の間にさらに3つの文が挿入されていることに気づく。それは「Please fasten your neck brace to headbang. Are you still playing the guitar? This ain't heavy metal.(まだギターを弾いているのですか? ヘドバンに備えてコルセットを締めてください。これはヘヴィ・メタルではありません。)となる。まるで天に召された藤岡さんへの追悼のような一文は過去に対する敬意の表明を想起させ,「これはメタルではない」と言い切るあたりはBABYMETALなりの強烈な自己主張,まさしく「未来のメタル」への決意表明とも読み取れる。

02 DA DA DANCE
雑誌のインタビューでKOBAMETALはこの曲を“いいね!”の10年後と表現したが、まさにその通り。“いいね!”にはメタル以外の何ものでもないブレイクダウンがあったが、“DA DA DANCE”にはそこまでメタル成分を強く感じさせる要素はない。Tak Matsumotoのギターがなかったら、完全なる90年代ダンス・ミュージックだ。

03 Elevator Girl
すでにライブでもおなじみの曲なので、もはや新鮮味は感じない。とはいえ低くうねるグルーヴ感満点のベースとヘヴィなギターが心地よくてカッコいいポップなメタル曲であることに変わりはない。サウンド的にも曲の雰囲気的にも“あわだまフィーバー”の後を継ぐ曲だと思う。(参考:速攻レビュー/BABYMETALのおしゃれな新曲「Elevator Girl」

04 Shanti Shanti Shanti
まるでインド音楽のようなアレンジが強烈な個性を放つ名曲。ご存知のようにライブでの振り付けもインドらしさ全開で、特に手の所作が美しい。ダンスのオリジナリティの高さと見応えという点では“ヤバッ!”と双璧をなす。SU-METALはこんな歌い方もできるのだと驚かずにはいられない。バックでかすかに鳴っているフィドル(バイオリン?)と思しき楽器の音色が、実は次の“Oh! MAJINAI”で使われている楽器の音とと似ているので、一見まるで違う2曲が違和感なく連なることとなった。(参考:レビュー/BABYMETALの超個性的な新曲"Shanti Shanti Shanti"

05 Oh! MAJINAI
ライブで盛り上がること間違いなしのフォーク・メタル・ソング。ちびっ子が真似しそうな楽しさに満ちている。強いて言えば“Catch me if you can”に通じる何かがあると思う。いや、それ以上に“META!メタ太郎”の後継と言うべきか。

06 Brand New Day
メタル・シンガーの面影が皆無で、まるで宇多田ヒカルのような歌唱が印象的。SU-METALではなくヴォーカリスト・中元すず香としてのポテンシャルの高さを強烈に知らしめる曲だ。時にややルーズに、ちょっと可愛らしく歌っているあたりがとても新鮮。分厚く歪んだギダーがなければ完全にポップス。

07 ↑↓←→BBAB
サウンドはデジタル・テイスト溢れた骨太のロック。歌メロを含めた曲調はSU-METALが敬愛してやまないPerfumeのよう(特に冒頭の歌い出しとか)。それにしてもなぜ「ずいずいずっころばし」?

08 Night Night Burn!
“Brand New Day”以上にポップなテイストにあふれた曲だが、この曲の方がちょっとハードな仕上がり。タイトルを「いない、いない、ばあ」と空耳させる遊び心がBABYMETALらしい。サビ前のパートが「都会の夜」とか「アーバンライフ」という単語を想起させる雰囲気に満ちていて面白い(そう感じるのは私だけ?)。

Disc-2
01 IN THE NAME OF
2017年12月の「LEGEND-S」で初披露され、その後「ダークサイド」をテーマとした2018年のツアーではオープニングで起用させることが多かった曲。まるでSEPULTURAのようなプリミティブでドライバルな曲調だと常々思っていたのだが、どうやらその認識は間違っていなかったようだ。BABYMETALが持っている禍々しくて宗教的・神秘的な側面によくマッチしている。

02 Distortion
ARCH ENEMYのアリッサがデス声を担当しているが、一聴してすぐにそれとは分からない。とはいえ深みと迫力あるデス声は存在感抜群。この曲が有しているダークな雰囲気がより一層強まっている。(参考:レビュー/BABYMETALの新曲"Distortion"

03 PA PA YA!!
タイの英雄F.HEROのラップが話題だが、個人的には随所で聞かれる彼のドスの効いた掛け声の方が印象深い。“Distortion”のアリッサに負けていない迫力だと思う。それにしてもSU-METALの巻き舌……。(参考:レビュー/BABYMETALのお祭りソング”PA PA YA!!”

04 BxMxC
日本盤限定なのがもったいないくらいインパクト絶大な曲。SU-METALのラップもさることながら、超重力級のヘヴィ・サウンドと凶悪なまでに歪みまくったギターが醸成する雰囲気はまごうかたなきデス・メタルのそれ。曲名が何を意味するのかが気になる。

05 Kegerou
優しくメロウなSU-METALの歌声と重厚感満点のゴリゴリ・ギター・サウンドのコントラストが心地よい。独特のグルーヴ感が印象的だが、それは楽器隊のサウンドのみならず「ゆらゆら~」とSU-METALが歌う〈コトバ〉の音も大きく影響していると思う。

06 Starlight
アルバムを通して聴くならここからの3曲がハイライト。どこまでも伸びやかに美しく突き抜けるSU-METALの素晴らしい歌声が堪能できる。それでいてメタルらしい突進力も兼ね備えており、短いながらも凝った構成が光る。(参考:レビュー/鎮魂と感謝そして決意――BABYMETALの新曲『Starlight』

07 Shine
ライブでMOAMETALが披露するコンテンポラリー・ダンスが強く印象に残る曲。“Starlight”と同じく短いながらも組曲のような構成とプログレっぽいテイストを有しており、名曲“THE ONE”にも通じる壮大なスケール感と強いメッセージ性を感じさせる。ほぼ全編にわたってバックで刻み続けられるギターもかっこいい。“Starlight”~“Shine”の流れは「METAL RESISTANCE」の“Tales of Destenies”~“THE ONE”に似ていると思う。

08 Arkadia
BABYMETALのメタルらしさを象徴するメロディック・スピード・メタル。その歌詞からこの曲がグループを脱退したYUIMETALへの応援歌だと認識しているファンは多いが、事の真偽はともかく強いメッーセジ性にあふれた曲であることは間違いない。速いだけでなくギターもドラムもベースも超絶技巧を求められる曲であることは素人の耳にも明らか。特にドラムの速さと複雑さは人間離れしており,はたしてライブできちんと再現されるのだろうかとちょっと心配になる。唯一の不満は薄っぺらいサウンドか。低音が弱い上に全体的な厚みにも欠ける。そのため、美しいメロディと疾走感に満ちてはいるものの、全体として迫力不足は否めない。ポテンシャルはもっとある曲だと思うのだが。

【収録曲】
Disc-1
01 FUTURE METAL
02 DA DA DANCE
03 Elevator Girl
04 Shanti Shanti Shanti
05 Oh! MAJINAI
06 Brand New Day
07 ↑↓←→BBAB
08 Night Night Burn!

Disc-2
01 IN THE NAME OF
02 Distortion
03 PA PA YA!!
04 BxMxC
05 Kagerou
06 Starlight
07 Shine
08 Arkadia

DVD LIVE DIGEST FROM 「BABYMETAL ARISES - BEYOND THE MOON - LEGEND - M」
01 Road of Resistance
02 Elevator Girl
03 Distortion
04 Shanti Shanti Shanti
05 Starlight
06 PA PA YA!!
07 ヘドバンギャー!!

※Bloggerからの転載です。

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