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レビュー/BABYMETALのベスト盤「10 BABYMETAL YEARS」

2020年12月27日 Text by TAROO-METAL

10 BABYMETAL YEARS / BABYMETAL
2020年12月23日発売(初回限定盤A/初回限定盤B)

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テッド・ジェンセンによるリマスタリングによって,特に昔の曲ほど音質が向上した。全体的に音像がクリアになり,各楽器の音の輪郭が明瞭になったと感じる。特にドラムにその影響は大きく出ている。アタック音がマイルドになってバスドラとスネアの音が聴きやすくなった。加えてシンバルの繊細な高音もクリアに。このような表現が合っているかは分からないが,上品なドラム・サウンドに仕上がっていると思う。どの曲も空間的な広がりがより感じられるようになった。過剰に音が詰め込まれた作品があふれ,音圧も音の密度もひたすら「強く,高く」を追い求めるケースが多い中,「押す所は押し,引く所は引く」というテッド・ジェンセンの「引き算の美学」とでも言うべき仕事っぷりは称賛に値する。

スタジオ・アルバムが3枚しかない中でのベスト盤なので,収録曲が全10曲というコンパクト仕様なのは当然だろう。問題は曲のセレクションだが,これはもう言い出したらきりがない。リストはファンの数だけ存在するだろうし,コアなファンにとっては「全部がベスト」であるはずだ。BABYMETALが提示してきたものを謹んで受け取るしかない。

とはいえ,収録されている10 曲はとりあえず誰もが納得するであろう珠玉の10 曲であることは間違いない。1stから5曲,2ndから3曲,3rdから2曲というバランスも妥当だ。いずれも公式MVになっており,BABYMETALを代表する曲ばかり。変化球的な曲やクセが強い曲(いわゆる「なんじゃこりゃ!?」路線)ではなく,BABYMETALなりの王道路線を行く,剛球一直線な曲が中心になっているという印象だ。だからといって同じような曲が並んで一本調子になっていない点が素晴らしい。アルバムをリリースするごとに曲のテイストの振り幅を大きく広げてきたBABYMETALの変化がよく分かる。いたずらに曲の順番に凝らずに,時間軸に沿って1stから順番に並べただけのシンプルな構成にしたのは正解だ。

以下,リマスター盤との差が特に顕著な1stアルバムの5曲について,オリジナル盤との比較を簡単に記してみた(あくまでも主観)。

01 ド・キ・ド・キ☆モーニング
リマスターの恩恵を最も受けたのは,おそらくこの曲だろう。地を這うような重心の低いグルーヴ感がより強調されていて,オリジナルよりもヘヴィ・ロック/メタル感が増している。冒頭のギター・サウンドに象徴されるPANTERA感も強まった。こんなにかっこいい曲だったのかと改めて驚く。そして何より,あまりにも幼いSU-METALの歌声。ヴォーカルにかかっているエフェクトもオリジナル盤よりもはっきりしているので,良い意味で無機質なボカロ感が強まっている。

02 ヘドバンギャー!!
この曲もリマスタリングによって新たな曲に生まれ変わったと言える。唸りを上げる重低音ベースが最高にかっこいい。輪郭がはっきりして聞きやすくなったドラムの軽快さも特筆に値する。

03 イジメ、ダメ、ゼッタイ
音のバランスが整えられた影響は大きい。ツーバスドコドコの粒がくっきりしたことと(シンバルもすごくいい音),ギターのザクザク感が明瞭になったことにより迫力が増してスケール感がアップ。ドラマチックな雰囲気がよく伝わるようになった。正統派メロディック・スピード・メタル曲としての完成度が高まったと思う。

04 メギツネ
この曲は楽器隊の音質改善もさることながら,ヴォーカルの音質向上が大きいと思う。YUIMETALとMOAMETALの合いの手が前面に出るようになった。SU-METALの声も密度の濃い楽器隊の音に埋れずくっきりと聞こえる(ハモリも含めて)。声の存在感が増したことで,この曲の魅力であるお祭り感も強まったと思う。

05 ギミチョコ!!
他の曲とは異なり,この曲に関してはドラム(スネア)のとんがった硬さが強まっていると感じる。ギターの生々しさも際立っている。通奏低音のように鳴り響き続けるベースもすごい。シンセによる味付けやエフェクトもその効果がオリジナル盤よりも大きく感じられる。

「10 BABYMETAL YEARS」は驚きの10形態で発売された。私が購入したのは「初回限定盤A」と「初回限定盤B」の2形態。それぞれについて簡單に触れておく。

■初回限定盤A
「初回限定盤A」には「ALL MUSIC CLIPS」Blu-rayがバンドルされている。このBlu-rayには本作発売時点で正式に公開されているBABYMETALのMVが全16曲収録されている(“ド・キ・ド・キ☆モーニング”から“BxMxC”まで)。MVは公開された順に収録されているので,最初から観ていけばBABYMETALの10年の歩みを時系列に沿ってビジュアルで確認することができる。

アルバム同様だが,まず1曲目の“ド・キ・ド・キ☆モーニング”での3人の幼さに改めて驚く。外見もさることながら,SU-METALの声も明らかに子ども。圧倒的な歌唱力を持つ小学生や中学生は数多くいるが,はっきり言ってこの時のSU-METALにはそこまでの凄みは感じられない。もちろん今に通じる〈真っ直ぐで伸びやかな声〉の萌芽は見られるが。

“いいね!”から“ヘドバンギャー!!”を経て4曲目の“イジメ、ダメ、ゼッタイ”で思わず目を見張った。イントロに続いて3人がマントを脱ぎ去る場面に注目だ。それまでの可愛らしいポップなコスチュームから一転。3人が身にまとっているのは鎧をモチーフにした硬派な〈戦闘服〉。これは戦士の装いだ。メタルレジスタンスの始まりを高らかに告げる決意表明をビジュアルで表現したとも言える。“ド・キ・ド・キ☆モーニング”→“いいね!”→“ヘドバンギャー!!”→“イジメ、ダメ、ゼッタイ”と続けて観ることで,この曲が音楽的にもビジュアル的にもBABYMETALにとっての大きな転換点だったのだということに改めて気づいた。

8曲目の“KARATE”もインパクトが強烈だ。モダンなメタルの王道路線。質実剛健な作風にBABYMETALの本気を見た。独自のメタルを追求する気概が一段も二段もググッと高まった印象だ。また,10曲目の“Distortion”と11曲目の“Starlight”が内容的に地続きになっているという事実に気づけたことは新発見だった。多くの人にとっては当たり前のことだったのかもしれないが,私自身はMVが公開された時にはまったく気づかなかった。今こうして続けてて観るとその連続性は明らかだ。絶望に満ちたディストピアを描いた“Distortion”から,希望を見出して一歩踏み出そうとする勇気を称えた“Starligh”へ――この2曲はビジュアル的にも歌詞的にも対になる作品だったのだ。

■初回限定盤B
「初回限定盤B」には10種類のアナログサイズ着せかえジャケットが付いている。今までにリリースされたアルバムやシングルのジャケット・デザインがモチーフになっていて,キー・ビジュアルとしてSU-METALとMOAMETALが(2人ないし1人で)起用されているのだが,どれも美麗で素晴らしいジャケットだ。BABYMETALと共に歩み続けてきたファンならば,その1枚1枚にBABYMETALの〈あの時〉の物語を思い出し,そこに込められた〈意味〉や〈歴史〉を強く感じ取ることだろう。

【CD収録曲】
01 ド・キ・ド・キ☆モーニング
02 ヘドバンギャー!!
03 イジメ、ダメ、ゼッタイ
04 メギツネ
05 ギミチョコ!!
06 Road Of resistance
07 KARATE
08 THE ONE
09 Distortion (feat. Alissa White-Gluz)
10 PA PA YA!! (feat. F.HERO)

【Blu-ray収録曲】初回限定盤A
01 ド・キ・ド・キ☆モーニング
02 いいね!
03 ヘドバンギャー!!
04 イジメ、ダメ、ゼッタイ
05 メギツネ
06 ギミチョコ!!
07 Road of Resistance
08 KARATE
09 THE ONE
10 Distortion
11 Starlight
12 PA PA YA!! (feat. F.HERO)
13 Elevator Girl [Enlgish ver.]
14 Shanti Shanti Shanti
15 DA DA DANCE (feat. Tak Matsumoto)
16 BxMxC

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※Bloggerからの転載です。

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