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レビュー/ARCH ENEMY 「Deceivers」 過去最高度の多様性を秘めて新次元へ突入

Deceivers / ARCH ENEMY
2022年8月発売

スウェーデン出身のARCH ENEMYが前作から5年ぶりとなる通算11枚目のアルバム「Deceivers」をリリースした。

前作「WILL TO POWER」はデス・メタルの攻撃性とメロディアスな要素が絶妙にブレンドされた高品質のアルバムだった。本作はその延長線上にあると言えるが,さらにキャッチーで開放的な雰囲気が強くなったと思う。妙な表現になるかもしれないが,”陽キャ”になった印象だ。その分,破壊力と激しさはやや減少していると感じる(あくまでも個人的に)。

楽曲はミッド・テンポで重量感あるものが多い。突進力と推進力に秀でた曲は少なめで,それが破壊力と激しさが減少したと感じさせる要因になっている。泣きのギターはもちろん健在で,どの曲でも美しく叙情的なメロディ/リフを奏でている。また,前作で味をしめたのか,本作でもアリッサのクリーン・ヴォイスがフィーチャーされた曲もある。01"Handshake With Hell"ではデス/クリーン両用だが,日本盤ボーナス・トラックの12"Diamond Dreamer"では何と全編クリーン・ヴォイスでエモーショナルに歌い上げるアリッサの声を堪能できる。

アリッサのデス・ヴォイスがなかったら,もはやこのアルバムをメロディック・デス・メタルと呼ぶことはできないかもしれない。そう思わせるほど楽曲の多様性は広がり,激しく重く,そして美しい",よりピュアなヘヴィ・メタル”の実現へと突き進んでいるように思える。その意味で,このアルバムを世に放つことによって,ARCH ENEMYは新次元へと突入したことを高らかに宣言したと言えるだろう。

以下,収録曲について簡単に感想を付しておく。

01 Handshake With Hell
先に触れた通り,アリッサのクリーン・ヴォイスがフィーチャーされている。否が応でもThe Agonistを思い出してしまうが,曲はそこまでゴシック調ではないしリリカルでもない。複雑な構成を有しており,聞き応えがある,いかにもARCH ENEMYらしい曲だと思う。それにしてもアリッサのクリーン・ヴォイスは良い声で,とてもエモーショナルだ。

02 Deceiver, Deceiver
ミッド・テンポで重量感あるデス・メタル曲かと思いきや,後半のギダー・ソロから曲全体がスピード・アップ。攻撃性と邪悪な雰囲気が増していくのがかっこいい。

03 In The Eye Of The Storm
どこかJudas Priestっぽさを感じさせる,これまたミッド・テンポの曲。スケール感が大きい。ギター・ソロがとても抒情的で美しい。

04 The Watcher
このアルバムで随一の攻撃性と美しさを兼ね備えた佳曲。ギターが奏でるメロディがエモーショナルで絶品。その美しさと,激しく突進するアグレッシブな曲調のコントラストがいかにもARCH ENEMYっぽい。頻繁にテンポが変わる構成も凝っており,4分57秒なのにそれ以上のヴォリュームを感じさせる。

05 Poisoned Arrow
ドラマティックでスケールの大きさを感じさせる曲。この曲でも美麗でエモいギターが抜群の存在感を放っている。

06 Sunset Over The Empire
サビの手前で炸裂する荘厳な雰囲気がクール。ライブではオーディエンスの「お〜おおお〜〜」「ヘイ!ヘイ!ヘイ!」という大合唱が発生すること間違いなし。ライブで披露されるのが楽しみだ。

07 House Of Mirrors
迫力満点のアリッサの咆哮が最高にかっこいい。グイグイと疾走するパートとヘドバンをかましたくなるパワフルなパートの対比も良い。この曲もライブで盛り上がりそうな予感。

08 Spreading Black Wings
Bメロのグルーヴ感が心地よい。サビが緊張感と邪悪さに満ちている一方で,例によってギターが抒情的なリフ/メロディーを紡ぐ。凝った構成も見事。

09 Mourning Star
ARCH ENEMY流のバラードと言っていいだろう。1分36秒のインスト曲だが,雄大で美しいメロディーは絶品だ。イメージは北欧の星空か,凍てつく湖面。

10 One Last Time
イングウェイばりのネオ・クラシカルなフレーズが炸裂するオープニングにびっくりした。開放的でポジディブな雰囲気に満ちているサビが印象的。アリッサのウィスパー・ヴォイスもある。複雑な展開を有するコンパクトな曲。

11 Exiled From Earth
魂が鼓舞されるような力強く勇壮な曲。ギターが奏でるメロディの美しさが素晴らしく,ストロング・スタイルの曲調とのコントラストが強く印象に残る。“ギターが歌っている”とはこのことだ。

12 Diamond Dreamer*
ライナー・ノーツによれば,オランダのバンドPICTUREが1982年にリリースしたアルバム収録曲のカバー。もはやARCH ENEMYの片鱗をまったく感じさせない1980年代のピュアなメタルそのものである。先述の通りアリッサが全編にわたりクリーン・ヴォーカルを披露しているが,その歌いっぷりが最高にかっこいい。とてもパワフルでエモーショナル。

13 Into The Pit*
Judas Priestを脱退したロブ・ハルフォードが結成したFIGHTの1stアルバム収録曲(1993年)。アリッサは通常モードのデス・ヴォイスで歌っている。ヴォーカル以外は原曲に忠実で,特に目立ったアレンジは為されていない。歌っているのがアリッサじゃなかったらARCH ENEMYだとは分からないだろう。モダンなデス・メタルに仕上がっているが,裏を返せば約30年前に書かれたこの曲が,けっして色褪せることのない普遍的な魅力を持っており,しかもデス・メタルと言っても過言ではない過激さもを内包していたのだということ。歌い手によって曲の雰囲気がガラリと変わることがよく分かる。

*bonus truck for Japan only


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