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レビュー/METALLICAの12thアルバム「72 SEASONS」は古くて新しい究極のヘヴィ・ロック作品だ

72 SEASONS / METALLICA
2023年4月発売

泣く子も黙るMETALLICAが前作からおよそ6年ぶりとなる通算12枚目のスタジオ・アルバム「72 SEASONS」をリリースした。

音楽史に燦然と輝く名盤「METALLICA」の正統たる後継者というのが第一印象だ。もちろんMETALLICAのアルバムなのだから,「METALLICA」以降にリリースされた5枚のアルバム(「LOAD」,「RELOAD」,「ST. ANGER」,「DEATH MAGNETIC」,「HARDWIRED…TO SELF-DESTRUCT」)もすべて等しく「METALLICA」に続くアルバムである。しかし「72 SEASONS」が醸し出す雰囲気や各楽曲の色合いには,“ブラック・アルバム”に通じるものがあると強く感じる。

「DEATH〜」にはサウンド的にも楽曲的にも「ST. ANGER」の荒々しさや生々しさの片鱗が見てとれた。続く「HARDWIRED〜」は「DEATH〜」の正常進化版といった趣だ(ただし,より上品な作風)。「ST. ANGER」→「DEATH〜」→「HARDWIRED〜」という流れは“進化の系統”としては正しい(あくまでも個人的な見解)。しかし,本作「72 SEASONS」はその“進化の系統”に属しているようには思えない。そのサウンドや楽曲のタッチに「ST. ANGER」の破天荒な荒々しさの遺伝子を見てとることは難しい。

72 SEASONS」の“母”は「METALLICA」なのだと思う。「72 SEASONS」は「METALLICA」ほどメロディアスではないし,エモーショナルでもない。しかしヴォーカルのメロディ・ラインやギター・フレーズが時おり放つ輝きは,「METALLICA」のそれだ。“スラッシュ四天王”と呼ばれた頃の面影は皆無だが,かろうじて1st「KILL’EM ALL」の香りは残っている。その意味では「METALLICA」よりも若干ではあるが古き良きメタルに寄せた感がある。一歩間違えれば「古臭くて退屈だ」と言われかねないリスクを抱えつつも,レイドバックすることなく2020年代にあるべきモダンな仕上がりになっており,その絶妙なバランス感覚がいかにもMETALLICAらしい。温故知新を具現化したようなアルバムである。

72 SEASONS」はサウンドも完璧だ。ヘヴィ・メタルというよりは骨太なロック寄り。バランスが良くて整然としており,有機的で温かみがある。それでいて切れ味の鋭さも感じさせるし,重量感も抜群だ。極上のヘヴィ・ロック・サウンドだと思う。METALLICAはもはやそのバンド名のように分かりやすいメタルではないが,彼らにしか生み出せない究極のヘヴィ・ロックがここにある。

アルバムのアート・ワークも印象深い。個人的に気に入っているのはCDが収められたケースを四方から折りたたむようにして取り囲む写真である。1枚1枚に各メンバーの顔が大写しになっているのだが,彼らが今まで歩んできた人生を静かに,しかしながら雄弁に物語る渋い表情が実にクールでかっこいい。本アルバムのタイトル「72 SEASONS」(72の季節)とは,人格を形成する人生最初の18年間のことを意味するという。いったいどんな“72の季節”を生きてきたら,このような素敵な顔になるのだろう。

CDケースを開いて裏返すとこうなる

このような素晴らしいアルバムをリリースしたのだから,ファンとしては彼らが日本にやって来ることを心の底から願うばかりである。METALLICAが最後に来日したのは2013年8月のこと。もう10年近い空白期間ができてしまっている。ビジネス上の事情で来日が実現しないという噂をよく耳にするが,何とかならないものだろうか。

【収録曲】
01 72 Seasons
02 Shadows Follow
03 Screaming Suicide
04 Sleepwalk My Life Away
05 You Must Burn!
06 Lux Æterna
07 Crown Of Barbed Wire
08 Chasing Light
09 If Darkness Had A Son
10 Too Far Gone?
11 Room Of Mirrors
12 Inamorata


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