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レビュー/BABYMETALのTHE ONE会員限定Blu-ray「METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN」

2020年7月19日 Text by TAROO-METAL

「METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN」 / BABYMETAL
2020年7月16日発売(THE ONE限定Blu-ray)

2019年11月に埼玉(さいたまスーパーアリーナ)と大阪(大阪城ホール)で行われたライブを収録した作品。これは映像および一部音声からの推測だが,全14曲中,前半の7曲が埼玉,後半の7曲が大阪だと思う。

このレビューを書いている時点で最新のBABYMETAL公演は,今年の1月に幕張で行われた「LEGEND -METAL GALAXY」だ。よく言われるようにBABYMETALのライブは「最新が最高」なので,今のところこのライブがBABYMETAL最高のライブだということになる。この見解に異論のあるファンはほとんどいないだろう。2日間で最新アルバム「METAL GALAXY」全曲を披露したほか,SU-METALとMOAMETALを支えた「アベンジャーズ」の3人と,東西神バンド全員が同じステージに立って“Road of Resistance”と“イジメ、ダメ、ゼッタイ”を披露するという無双っぷり。特に2年近く封印されてきた名曲“イジメ、ダメ、ゼッタイ”を2日間の公演の最後に持ってくるという演出は相当にエモーショナルだった。「Extra Show」のコンセプトは,キツネ様以外は誰も想像できい超ド級のサプライズに満ちていた。

しかしそれから時間が経つこと約半年。コロナ禍でライブを含むエンタメが壊滅状態になる中,少し冷静に「あの時」を振り返ってみると,1月の幕張公演2デイズの演出がいかに特別であったかということが改めてよく分かる。いや,特別などという言葉では生ぬるいくらいで,もはや特異と言ってもいいかもしれない。あの2日間は,それくらい稀有で「あり得ないことが起きた2日間」だったのだ。今さらながらに,そう痛感する。

あえて言うなら,ファンの涙腺を大崩壊させたコテコテにエモいあの時の演出は,看板メニューがてんこ盛りの過剰サービスに他ならない。もうお腹がいっぱいで「これ以上は食べられません」と言っているのに,「そんなこと言わずに,さあどんどん食べて」と,ミシュラン三つ星級の美味しい料理が次から次へと提供されているような状態とでも言おうか。

たしかにとんでもなく素晴らしいライブだったが,そんなエクストリームなライブがそう頻繁に観られるわけがない。あの2日間は,文字通り「もう二度と観られない」ライブ,BABYMETALが特別にプレゼントしてくれた,夢のようなライブだったのだ。

では,BABYMETALが常時提供してくれる日常的なライブ,スタンダードなライブは何だろう。気持ちが悪くなるくらいの満腹感を感じることなく,「もうちょっと食べたいかも」と思わせるくらいの腹八分目。そんな,ほどよい満足感と日常のちょっとした贅沢を楽しめる上質の体験をもたらしてくれるもの。それこそが,この「METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN」なのだ。

BABYMETALは2019年6月の横浜公演「BABYMETAL AWAKENS  - THE SUN ALSO RISES」でアベンジャー・システムを導入し,3人体制での再起動を果たした。その後9月から始まった約2ヶ月に及ぶアメリカでの20公演を経て,美しくも見ごたえある極上のメタル・エンターテインメントに一層の磨きをかけた(ハイライトは10月11日にロサンジェルスのThe Forumで行われた公演)。その集大成と言えるのが,この「JAPAN TOUR」に他ならなない。

ゴージャスなライティング,2段構えの三角柱で構成された立体感あるステージ,そのステージ側面のLEDと一体になってより大きな映像を迫力満点に見せる大きなスクリーン。スクリーンのサイズこそLA公演に劣るものの,それ以外のすべての要素はアメリカ・ツアーからとことんブラッシュアップされており,その見応えあるステージ・セットを存分に活かしたパフォーマンスは「必要にして十分」という表現がしっくりくる心地よさ。極上の料理は腹八分目がちょうどいい。これが「いつでも,どこでも」体験できるBABYMETALの「ふつうの」ライブなのだ。何という贅沢だろう。

ステージ上で歌い,そして踊るSU-METALとMOAMETALの全身から「これがBABYMETAL」という叫びが放たれているようだった。2017年12月にYUIMETALが姿を消してから約2年半に及ぶ暗黒期を経て,3rdアルバム「METAL GALAXY」を引っさげてリブートしたBABYMETALのステージを,他の誰よりもSU-METALとMOAMETALが楽しんでいるように見えた。6月の横浜公演では終始どこか緊張感が感じられたが,ライブを20回重ねたことで新システムへの信頼を深め自信も得たのだろう。地元日本でのライブということも手伝って,2人の表情は最初から最後までとてもリラックスしていたように思う。決められたフォーメーションやダンスの枠をはみ出して,純粋に音楽に身を任せて楽しむような所作が随所に見られたことが印象的だ。

全編が見どころなので目のやり場に困ってしまうが,個人的な注目ポイントは3つある。

1つ目は“Kagerou”だ。冒頭と間奏部でのダンスがとにかくカッコいい(MOAMETALの煽りを含む)。体全体でリズムを取る3人のクールな姿に目が釘づけだ。サウンド的にもグルーヴ感とロックなテイストが心地よい。目で見ても耳で聴いても楽しむことができる,実にライブ映えする曲だと思う。アルバムだけを聴いていたのでは気づくことのできない新発見だ。

2つ目は“Shine”から“Arkadia”へと続く構成だ。この2曲の流れは絶品。青と白が基調の宇宙をテーマにした映像も壮大で美麗。音と映像が一体となり,唯一無二の独自世界を描き出す。まばゆいばかりに輝く光を放ち,とことんピュアでどこまでも高潔。どんな困難に直面しても誇り高く前進する決意を高らかに宣言するメッセージ性にあふれる歌詞は,「道なき道」を歩む決意を示した“Road of Resistance”の後継だ。余談になるが「心が叫んだ」と歌うSU-METALがいつになく力んでいるのが珍しい。

3つ目は“Shanti Shanti Shanti”でのSU-METAL。曲も映像も独特の雰囲気を持っている個性的な曲だが,この公演でのSU-METALには珍しく色気があると思う。目線や表情が時にとても艶かしくて妖艶。今までにも“メギツネ”でそんな雰囲気を醸し出すことがあったが,今年23歳になるSU-METALにとっては,大人の恋心を描く“Shanti Shanti Shanti”の歌詞世界は表現しやすかったのかもしれない。

隅々まで計算し尽くされ,練りに練られたパフォーマンス。

その歌声と全身から解き放たれる圧倒的なまでの情熱と歓喜。

どこまでも激しく,どこまでも美しく――。

「METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN」は,今のBABYMETALが表現し得る最高の「スタンダード」なのだ。

■ライブCDについて
本パッケージにはBlu-rayと同じ内容のCDが2枚同梱されているが,音質がなかなか良いので驚いた。すべての音が一つの大きな塊になって襲いかかってくるような轟音サウンドではなく,比較的マイルドな仕上がりになっているように感じる。音のバランスと分離が良好で,ギター,ベース,ドラムの各楽器の音をはっきりと追うことができる。名盤「LIVE AT BUDOKAN - RED NIGHT」には劣るものの,BABYMETALのライブCDの中ではトップ3に入る素晴らしい音だと思う。

【収録曲】
01 FUTURE METAL
02 DA DA DANCE
03 ギミチョコ!!
04 Elevator Girl
05 Shanti Shanti Shanti
06 Starlight
07 Kagerou
08 Distortion
09 メギツネ
10 PA PA YA!!
11 KARATE
12 Road of Resistance
13 Shine
14 Arkadia

写真 2020-07-16 19 00 08

※Bloggerからの転載です。

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