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政談 ~荻生徂徠~

この本との出会い

 7月2日(土)に計画している松賢堂講義にて、江戸時代から幕末・明治維新のお話をする予定にしております。
戦国時代までは仏教が思想界の中心に位置していたのですが、江戸時代に入ると儒教(朱子学)が台頭しました。
朱子学を遵奉する学派や、伊藤仁斎や荻生徂徠のように批判的に論じる学者も出て、江戸時代の思想界の発展は目覚ましいものがありました。
今回、その流れの中で、特に【経世】の思想を色濃く打ち出した荻生徂徠について解説をしようと思いました。
荻生徂徠については、小説形式や研究形式、荻生徂徠自身の著述の本をいくつか所有しているのですが、限られた時間で、それらの書籍を読み返すのは大変だな、と悩むことになりました。
ある程度は覚えているのです。
でも、人に教授するには細かいことを忘れている・・・
ということで、思い切って、漫画に頼ってみることにした次第です。 

あらすじ

 時は西暦2055年。
政治的に行き詰まった日本政府が、窮余の策として、
人工知能 SORAI(ソライ)
による統治を宣言するところから物語は始まります。
主人公のマコトはミュージシャンを目指すフリーター。
そんな彼をSORAIが次々に打ち出す政策が翻弄していくことになります。
一波乱も二波乱もある中で、次々に友人や恋人を失っていく主人公マコト。
既得権益を奪われ恨みを抱く人たちが出るかと思うと、その一方で人間らしい生き方を取り戻していく人も。
彼や日本中の人々が、そして、人工知能SORAIが最後に辿り着いた結論とは?

感想

江戸時代の思想家の中でも著名な人物となる荻生徂徠。
一昔前は、年末の風物詩だった【忠臣蔵】の赤穂浪士たちに、切腹させるよう助言した人物です。
儒家ではあるものの、朱子学を批判し古文辞学を興し、先秦思想を数多く習得する中で『荀子』にも影響を受けていた徂徠は、【法】の重要性を説く法家のような存在でした。

徳川綱吉の側用人だった柳沢吉保に仕え、そののちは、ドラマ『暴れん坊将軍』で知名度が爆上がりした八代将軍・徳川吉宗の政策アドバイザー的な役割を果たしています。
その独特な思想とアクの強さで、やがて下野することになり、私塾を開講。
後の世の学者たちにも、大きな影響を与えることになります。

そんな彼が心血を注いで著述したのが、今回ご紹介する『政談』です。

漫画の中では、社会主義的、共産主義的な政策が展開されます。
漫画を描いた人が、政談を左翼的思想と認識して描いた感も否めませんが、若干の偏向はさておき、とても上手く現代の事情にマッチさせて描かれています。
この「歴史に学び現代に当てはめて活かす」という作者の姿勢は荻生徂徠の信念と似ていまして、作者と徂徠が重なる感じがして良かったです。

ただ・・・経営者と社員の年収格差を是正すべしとするまでは良いのですが、格差の代表的業界として、『製造業』が狙い撃ちで取沙汰されていたことに強い違和感を覚えました。

東洋経済オンラインさんでも紹介がありますが、
一位はトーシンホールディングスさん。
通信業(IT関連)や不動産業、リゾート事業を手掛ける会社さんです。
二位がネクソンさん。
ゲーム企業(IT関連)
三位が武田薬品さん。医薬品、IT、不動産業ですね。
四位がノエビアホールディングスさん。
化粧品や薬品の化学系企業ですね。
五位がソフトバンクさん。
IT企業ですし、投資企業になっていますね。
製造業は六位のトヨタさん。
もちろん、大手製造業もランクインしているのですが、ITや金融、不動産、医薬品(化学系)が強いように思います。
作品は2018年のものですから、日本製造業が黄金時代だった頃の話ではなく、う~~ん? と不思議に思った次第です。
ひょっとして、ゴーン? 
カルロス・ゴーンのイメージが強いのかな? (苦笑)

個人的には、「大企業では経営者と社員に給与格差が大きい」というのが正解だと思います。
100人未満の規模の「製造業」の社長で、年収が億単位という方にお会いしたことがありません。
IT企業や金融業、不動産業では、お会いしたことがありますけど・・・

さて、私としては荻生徂徠の『政談』は、

SDGs の指針である 【持続可能社会の実現】 への具体的方策のように感じました。

生産や消費を極力抑え込み、物質的豊かさを否定していくんですよね。

そして、SDGsを本当に実現していくには、世界中の人々が物欲を抑え込んでいかないと成立しない。
果たして現代の人類が、荻生徂徠の提唱する持続可能な世界の在り方について、許容できるのでしょうか?
私自身、これは・・・難しいだろうなと思うことがいくつもありました。

住む場所の強制による治安の向上
一切の無職を禁じる法令
借金の禁止
徹底したリペア社会の構築

等々、色々な政策が提言されています。
江戸時代の徳川幕府であれば出来たかもしれませんね。
現代では、共産主義国家か独裁国家ぐらいでしか出来ないんじゃないでしょうか?

ただ・・・環境問題を最優先でSDGsを完遂したいのであれば、『政談』の提言は具体的であり、示唆に富んでいると言えるでしょう。
SDGsで環境問題を論じあう際には、『政談』を予備知識として仕入れておく必要があるのではないか?
そう思われる内容でしたので、オススメします。

なお、より深く荻原徂徠を知りたい場合は、下記の書籍群を推奨します。

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