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無視され続ける人生

子供よりもよっぽど大人のほうが無視をすると思う。理由はわからない。その人のことが怖いから、無視をせざるを得ないのかもしれない。

それにしても、と思う。俺はよく「自分の話ばかりする」と言われる。これに関しては一言、頭に浮かぶ。「懺悔」。

それが原因で今日も一悶着あり、とても不甲斐ないというか、自分のことを惨めに思った。

惨め。最近この言葉が頭の中をよく彷徨っている。

「俺は屑だ」と言ってたら、その出口のないナヨナヨぶりを見抜いたように「屑だと認めちゃったほうがいいよ」と言われた。

ストレートな言葉は胸に刺さる。変に取り繕われるより、バサッと斬られたほうが清々しい気持ちになる。

愚痴。仏教ではそれを無明(周りが見えていない状態)と言って、苦しみの根源と同じ意味で使われるらしい。

愚痴といえば、俺にとっては母である。

毎度のようにブログに父を登場させては、いつまでもウジウジと過去にこだわり続けている自分に辟易していた。誰かにこの気持ちをわかってもらいたい、その一心で書き続けた日々もあった。

母のことはあまり書かない。幼少期から父の陰に隠れた印象が先行して、母に特別な感情を抱いたことがなかった。

父は横暴だが、反対に母は物静かなイメージ。父が見境なく家族に暴力を振るうようになってから、母の印象が変わった。

母は、根っからの「愚痴の人」だった。

とにかく、父の悪口を陰で言った。俺も同じトーンで父の悪口を言った。十代半ばの頃。母と俺が狂ったように父の陰口を叩く、またその陰には弟がいた。弟はとても静かな人間に育った。

父に面と向かって言えばよかったのか。それは不自然なことだ。父に逆らったら殺されるだろう。自ら殺されたいと望む子供はいない。

子供ながらにストレスを発散する方法としての兄弟喧嘩があり、そのまた一方で父の愚痴を母と言う。

そして、俺は何かにつけて愚痴を言う人間に育った。

母とは数ヶ月に一度会う。いつも会社の同僚の悪口を散々言う。俺らの話にはあまり興味がないように見える。

「どこどこへ行ったよ」、「だれだれとご飯を食べたよ」。そんなことを伝えても、母は「そう」と一言だけ言って、同僚の悪口を再開する。

母は俺たち兄弟のことを職場では誰にも話さないみたいだ。母にとって俺と弟は人に話すには難しい存在なのだろう。

父の暴力が悪化し、母は仕事で忙しく、俺たち兄弟は「心のケア」なんてされたことはなかった。

15の頃に俺は泣きながら警察に通報した。何度もブログに書いてきたが、弟が父に初めて口答えをした結果、半日ほど「バカ」という言葉を発狂し続けたからだ。

これ以上、耐えられなかった。父を見捨てた。その数カ月後、身の回りの世話をしていた家族がいなくなった後の父は自力で生きることができずに病気の発作で他界した。

俺が殺したとも言える。

俺たち兄弟は引きこもりになった。母は毎週タウンワークを持ってきては働けと言った。二年くらいして母は彼氏を作って、家に帰ってこなくなった。俺はそれでよかった。母が幸せになるなら、それでよかった。

母は父に押されて結婚した。好きな人がいて、その人と付き合っていたのに引き剥がされた。そういう弱さがある人だ。

ある時、母は彼氏に諭されたのだろう。働かなかったら仕送りをやめると言った。

俺と弟は覚悟を決めた。このまま二人で死のうと思った。電気が止まった。食べる物がなくなった。

俺は死にたくないと思った。意を決して、母に直接会ってお願いした。電気代を払ってくださいと言った。母は口も聞いてくれず黙ったままで鬼の形相だった。でも払ってくれた。18歳の頃の出来事だ。

学校にも行ったことがなかった。ずっと父の暴力を受け続けた。それで、働くことなんてできるはずがない。俺よりもきっと弟のほうがずっと傷ついたと思う。

今日、俺は「母のいいところ」という言葉を彼女から聞いて、反射的に「ないよ」と思ってしまった。もちろんある。いっぱいある。それなのに、すかさず「ないよ」と言ってしまった。

別に今は嫌いじゃない。どちらかというと好きなのだ。それなのに、心の奥深くに漆黒の点のようにシコリがある。

「許せなさ」を抱えている。それに対して罪悪感を覚える。コミュニケーションは取ってきたつもりだけど、消えないわだかまりがある。

この前、弟と話した。

「俺ら子供の頃はとっても明るくて陽キャだったよね」と俺が言った。続けて「きっと今でもその陽キャの部分が心のどこかに生きてるよね」と言った。

弟はそれから母と最近話した内容について教えてくれた。詳細は割愛するけれど、弟の発言によって母が涙した。そういう話だった。

俺は今日だめだった。絶不調。その会話を思い出して、「泣く資格があるかよ」と思ってしまった。何もしてこなかったくせに、と。

調子がいい時は、いいことが言える。調子が悪い時は、悪いことが浮かぶ。

この頃、だめだめだ。前向きに明るく生きたいのに、自分のだめなところばかり考えてしまう。自分を許せない。泣いてばかりいる。

「何をしてもずっと無視され続けてきた人生だからね」

そう、何度も彼女に言ってしまった。

生きてます