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尻尾と眼鏡を落としてきたんじゃないかい?(無意味な文章)

(注:世の中には意味のある文章が多すぎるため、無意味な文章を書いています。決して意味を見出さないでください)

「まず最初に謝っておくけれど」

 僕は言い聞かせるように、ゆっくりと告げる。

「君という人間はとても意地が悪く、口が悪く、思いやりの欠片も持っていないから、君と話すうちに僕が不機嫌になって暴言を吐いたとしても許して欲しい」

「なるほど」

 目の前の彼は、カンカン帽を軽く持ち上げて『してやったり』とでも言いそうな笑みを浮かべた。

「確かに、あんたみたいな幼稚な奴はすぐに切れて自滅する傾向がある。まともな教育を受けていないんだろうね」

「は? その首ねじ切るぞこの……おっと失礼、まったく、言っているそばからこれじゃ先が思いやられるね」

 僕は振りかぶった拳を下ろして深い息を吐いた。やれやれ。

「それで、わざわざ私に話に来たということは、また台無しにしたのかい?」

「それがさ、驚くべきことに」

 一息置いて。

「その通りなんだ」

 目の前の彼は、カンカン帽を少し上げてからわざとらしく両目を見開いた。

「なんだって、そりゃ驚いた。まさか君が、また台無しにしてきたなんてね。想像通りすぎたよ。まさかね」

「そうなんだ、やっぱりね、僕ともあろう者が珍しいことではあるけど、全部台無しになったんだよ」

 僕は一度空を見上げて、うつむいた。ごつごつとした砂利道と、僕と彼の足だけが見えた。

「私が考えるにね」

 彼は静かに東の方を向く。

「台無しにするにしても、もっと上手なやり方があると思うんだ」

「それは出来ない話さ。だって、台無しだ。台無しっていうのは、上手も下手もない話だろう?」

「そんなことないさ。君の今までの"台無し"だって、全部一緒じゃなかっただろう? よく思い出してみなよ」

「一緒さ。台無しなんだから」

「まるで目隠ししながら歩いてきたようなことを言うね。君、もしかして尻尾と眼鏡を落としてきたんじゃないかい?」

「は? てめぇの喉食いつぶすぞじじぃ……いや、いやいやいや。うん、悪いね、またちょっとした暴言を吐くところだったよ。危ない危ない」

「いや、まぁね」

 彼はもごもごと口の中で言葉を作りながら、目元の皺を深くした。

「私たち人間の立場からすると、もっと違う形で"台無し"にできたんじゃないかって、思うことはあるよ。全部台無しになった。だから私たちはダメで、過去も未来もダメで、全部台無しだ。そんな考え方でつい最近までやってきてしまったけれど、台無しの残骸でもさ、形が合うように敷き詰めればちょっとした台にはなったと思うんだ」

 僕はそれを聞いて笑ってしまった。

「あまりにも理想論で、結果論だ」

「まぁ、君は笑うよね。でもね、結果論というのはね、現在になくて未来にあるというタイミングが僅かながら存在するんだ。それが今だよ。君にとってはね。君の尻尾がいくつもの情念から構成されてきたように、私たちの眼鏡もやがて、未来から来る無念の先端を受け取って輝いているんだ」

「…………それは……そうかもしれない」

 僕は悲しくなってしまった。

 彼の言っていることは、本当はよくわかっていることだった。僕は全てを台無しにしてきたし、きっとこれからもするのだろう。でもその中で、彼の言葉を信じてしまうと。僕はただ台無しにするのではない。これからのすべてに一粒の希望を見出してしまうだろう。

「もっと上手に……台無しに出来るのかな」

 目の前の彼は、カンカン帽を軽く持ち上げて『してやったり』とでも言いそうな笑みを浮かべた。

「知らないよ。私には関係ないし」

 僕は全力でジャンプして彼の頭を蹴り飛ばしてやった。

「はっはっは!」

 彼の影がとけて消えていく。何もない砂利道に僕だけが残されて──

「……まったく、今日もすべて台無しだ」

 残った僕は、そっと左目から涙を流した。

(EON)

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