検討を「加速」する

皆さまも嫌いな言葉や言い回しのひとつふたつお持ちだろうが、私はどうにもこの「加速」というやつが気に食わない。

一番顕著なのは政治家センセイのお使いになる「検討を加速」だの「議論を加速」だので、そもそもが好感の持てない方たちであるから、その言葉尻にもついツッコミを入れたくなる。ふつうに「検討を重ねます」「議論を続けます」でよくないですか。「いやさぁ、今までも十分検討してたんだけど、これからよりいっそう検討してやんよ」という、どこか責任回避、自己弁護的なニュアンスを感じる。

いったん気になり始めると次々に耳に入るようになる。テレビ・ラジオのニュースや新聞記事でもよく遭遇する。どんな用法があるだろうか。日経新聞のデータベースを検索してみよう。

現在、米市場関係者は「インフレ再加速」に強い警戒心を持つ。

前週末にかけてハイテク株などの下げが加速したあとで、

脱炭素の流れが加速するなか、長期的にはガス需要は縮小に転じることが見込まれる。

新型コロナウイルス禍の収束で人口の東京集中が再び加速し、

このあたりは経済ニュース特有の言い回しという感じで、特にイヤな気持ちにはならないですね。こう、検討とか議論とかを加速する例文はないだろうか。


小野洋前環境省地球環境審議官は「プラ汚染を減らすことには各国が同意している。細部で意見が違うが、年末の合意に向けて議論を加速する」と語る。

あった。議論を加速。役人の方ですね。


武居保男町長は「みんながウインウインになる事業で、この動きが加速すれば画期的だ。成功例を積み重ねて町の問題を解決してもらいたい」と期待を寄せている。

これは政治家センセイ。つい使っちゃうんだろうな。気持ちは分からんでもない。


今回の攻撃によってイランによる核開発の加速をけん制する狙いがあった可能性がある。

「開発を加速」「研究を加速」「成長を加速」などはぼちぼち見かけますね。


反省を踏まえ、同県は今後の学習用端末や通信環境のあり方などを議論する「教育DX加速化委員会」を23年11月に設置。

しかし一番はこれだな。教育DX加速化委員会!! 意味不明な略語「DX」に、これまた私の嫌いな言葉である「~化」も使用したなかなかのパワーワードですねぇ。すばらしいセンスだ。

調べたら文科省の事業に「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」ってのがありましたね。加速化を推進? 意味がよく分からん。

国交省には「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」というやつが。きりがないのでこのへんで。