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フランス小旅行 Lyon美食に溺れる旅

「すべてはここにあるのよ。特にあなたにとっては。
パリじゃなくて、リヨンにね!」

ーLyonの旧市街の人気店、La Mere Lea のレジのお姉さん

フランス留学中に必ず行きたかったLyon。

パリでは、フランスのインスタグラマーおすすめの人気店から、評価の高い人気カフェ、日本人マダムおすすめの日本人シェフのお店、ミシュランスターシェフのお店などいろいろと食べ歩いたのですが、料理として美味しい食事、素晴らしいレストランもあったものの、「これぞフランスの歴史とテロワールが育んだ食文化!」と感嘆するような豊かな美食体験には恵まれませんでした。
そんなくすぶっていた不満を吹き飛ばしてくれた一泊二日のリヨン旅行。

ポール・ボギューズ、そして、リヨンの母、La Mere Brazier。旧市街の人気店 La mere Lea。フランスの母の味を守り、進化させ続けるLyonの生きた美食文化を堪能しました!

La Mere Brazier

https://maps.app.goo.gl/hDqmeEeEdp7EehRX9

創業1921年の老舗レストラン。若き日のポール・ボギューズが門をたたいたおみせでもあり、ある意味、フランス料理再発見の始まりの場所。


年始なので、クリスマスデコレーション

外観

ウェルカムアミューズは、パテアンクルート。
チェリーが甘すぎず程よい酸味を加えて、フォアグラの入ったパテとよく合う。パイはしっとりとした生地で、中のはっきりした味わいのパテと好相性。シンプルながらとにかくバランスが良くて、期待が高まります。

パテアンクル―ト

二つ目のアミューズは、和テイストのお皿に盛られた、今が旬のポワロネギの一品。説明をすっかり忘れてしまいましたが、定番のポワロのヴィネグレットをベースにしながらも、クリーミーなソースで酸味を穏やかに抑え、パリパリのクラストに香ばしい何かの風味を閉じ込めていて、淡い中にもとてもバランスが良くて驚いたのを覚えています。一見、素材は和食と共通していても、骨格はあくまでフレンチ、というのが面白い。食文化なんでしょう。

二つ目のアミューズ

私が前菜に選んだのはこちらのスペシャリテ、アーチチョークとフォアグラ。左のグレーの部分、なんと、アーティチョークの緑の葉の部分の果肉らしい。初めて食べました。ねっとり感のない里芋のような、滋味あふれる淡い風味。フォアグラには、通常のアーティチョークの芯の部分の優しいヴィネグレットで、フォアグラをさっぱり楽しめる組み合わせ。

Artichaut et foie gras « Hommage à la Mère Brazier »

メインは、リヨンに来たのだから、と思ってクネルを。上面をカリカリに焼いて食感にアクセントを入れ、伝統的なザリガニのナンチュアソースの濃厚さにも負けず、飽きが来ない仕様。
写真の奥に移っているのは、別添えの野菜たちですが、これも地味にすごかった!クルミとニンジンの軽いグラッセ、マッシュルームのソテーなんですが、全部、普通にみえて普通じゃない。クルミは、香ばしさを残しながらもほくほくと柔らかく、にんじんは、フランスのニンジンの硬い歯ごたえを生かしながらもしっかりと甘みも引き出して柔らかく噛める絶妙な火の入り具合。マッシュルームも、ただソテーしただけに見えて、弾力あり、香りあり、不要な風味は取り除かれていて、謎のおいしさ。素材そのままの味と食感でごまかしがきかない分、この別添えの野菜に一番技術の高さとこだわりの強さを感じました。ゲストの口に入るものすべて、パウダーのひとふりまで、一切妥協していらっしゃらないのだろうと感じます。

Pain de brochet croustillant aux écrevisses, sauce Nantua

さらに、中には白身(多分ブロシェ?)と海苔が!うん、かなり分厚く重ねていてなお磯の香りは弱いけれども、間違いなく海苔。メートル・ド・テルらしきにこやかなムッシュに聞いてみたところ。やはり海苔とのこと。
単調な味わいの中に磯の香り時折混ざり、飽きずに最後までいただける。
願わくば、シェフにもっと薫り高くブロシェのスフレのような軽さとともに口の中でほどける上質な海苔を教えて差し上げたい!!(笑)

の、中には海苔と白身の魚!

ところで、ナプキンの端に謎のボタンホール。今度はシェフ・ド・ランらしき女性に聞いてみると、胸元のボタンにかけていただくためのもの、とのこと。19世紀あたりの時代ドラマで時々出てくる金太郎スタイル!今も健在なのですね!でも、この日同じダイニングルームで食事したフランス人の方々、誰もやってなかったので自粛しました。

金太郎的ナプキンは今もOKらしい。知らんかった。。。

夫の前菜。エラビネロエビとウニ、根菜とタンジェの花。花の要素はわからなかったですが、エビのねっとりした甘みとクリスピーな根菜のほろ苦さをつないでいたのかなとぼんやり記憶しています。どの料理も、食感と鼻に抜ける香りのバランスが素晴らしい。左奥の茶色い液体は、うにの殻からとったスープ。潮汁をうにで作ったらできそうなほろ苦いお味そのままでした。

Gambas Carabineros et oursins, légumes racines et tagète

メインは、ジビエのシュー・ファルシ。トリュフとプラムのソース。プラムの甘酸っぱさと、全体に濃度も薄めの液状なので、崩してよく混ぜて、全く重くならずにぺろりといただけます。何のジビエかは聞けず。夫はおいしいおいしいと、ソースも残さず間食していました。
翌日のポールボギューズの伝統的なシューファルシとの違いも楽しいです。

Chou farci de gibier à plumes et truffe noire, consommé de betterave

プレ・デザートの柑橘(何か失念)のソルベとマンゴーのクリスピーリーフ。口をさっぱりさせてくれる酸味の強いソルベに添えられたこの黄色いパリパリのシートがすごかった!マンゴーの甘ーい香がギュッと閉じ込められていて、たったこれだけの量なのに、この一皿の印象をガラっと変えてしまう。口はさっぱり、でも鼻腔は甘ーい南国の香りでいっぱいで、美味しい完熟フルーツを口いっぱいにほおばったかのような幸せな錯覚。
Mathieu Viannay氏、天才や!!

pre-dessert

私のデザートは大好きなクレモンティンのスフレ。マンゴとグランマニエ、アーモンドが複雑な香りを加えます。ほわっほわでした。こんなにほわっほわのスフレを食べてしまったら、もうスフレが食べられない。スフレのイメージに傷がつきそうで。。。

Soufflé clémentine et Grand Marnier, mangue et glace à la pâte d’amande

夫のデザートは、カリカリリーフと栗のアイス、カリビアンチョコと珈琲パウダー、リコッタ、マロンコンフィチュール。要するに、栗とチョコ。口の中で何が起こっているか分析不能ですが、とにかくナッツ系の甘い快楽に、心地よく陶酔するお味でした。

Feuille croquante et glace à la châtaigne, chocolat Caraïbes et poudre de café, mousse ricotta et marrons confits

最後のプチ・フールの頃には満腹ですが、キウイとメレンゲ、柑橘としっとり軽い焼き菓子の二品が、とても軽くさっぱりと仕上げられていて、おなか一杯なのに楽しく食べられてしまう。罪です。

Pettit four

その後、さらに、「名物のマドレーヌはいかが?おいしいですよ!」と、キャラメルとヌガーとともにワゴンサービスが来たのですが、さすがにギブアップでした。ほかのテーブルも、半分くらいは「まだあるのー!?」と、苦笑いしながら断念。あと半分は、「よし、おすすめなら食べようじゃないか(笑)」といった雰囲気でトライしていらっしゃいました。

平日のランチでいったせいか、近くに住む方々の家族・気の置けない仲間同士での「おいしいもの食べに行こう会」っといった気軽な感じで、和気あいあいとした空気が流れていました。他のお客さんの雰囲気、スタッフのフレンドリーでほっこりした雰囲気も含めて、とても居心地の良いレストランでした。ちなみに、ランチで行くとこの内容で98€。衝撃価格です!もちろん、その場にいた全員、同じく98€のランチメニューのオーダーでした。

アミューズからデザートまで、とにかく味わいと香り、そしてとくに食感のアクセントの生かし方、全体のバランスが秀逸でした。よくよく考えられている。フランスの伝統をベースに持ちながらも、ところどころに新しさを加えていて、現代的な軽さのあるお皿に仕上がっている。このシェフ独自のやり方で伝統と革新のバランスを模索していて、とても楽しめるお料理でした。


L'Auberge du Pont de Collonges

やはりLyonに来たからには、ポール・ボギューズでの食事を経験しなくては!と思って、二日連続でがっつりフレンチです。

賛否両論ある、一度見たら決して忘れられない外観。しかも、フランスの郊外の、自然豊かな風景の中に突如この極彩色の美食の殿堂が現れます。

派手!

かつてはボギューズ氏のお顔が大きく書かれたプレートだったようですが、現在は、かわいらしいプレートに変更されていました。La mere Brazierもそうでしたが、リヨンの伝統あるレストランでは、フランス式のカトラリー配置が採用されています。パリでは、記憶の限りどこもフォークやスプーンの腹を上にする一般的な配置だったので、これを見るだけでも、リヨンの街のフランスの伝統への誇りがうかがえます。もちろん、お料理にもその心意気は十分に表現されています。

長閑なかわいらしいプレート

アペリティフは、お薦めしていただいたオリジナルカクテル。シャルトリューズとシャンパン。ルビーの層は、聞いたけれども理解できず。答えが理解できなくて、はて?、という顔をしていると、赤ワインです、と言い直してくれたので、赤ワインのポートっぽい何かだと思います。カクテルから、ほんわり甘くて少し苦味のアクセントもあってシュワッとして幸せ〜。

オリジナルアペリティフ

一つ目のアミューズは、ウフマヨネーズをベースとしたミモザ、後ろはブルーチーズと何か、手前のはライスパフと何か。ほとんど忘れましたが、どれもおいしいー!と騒ぎたくなるくらいの、小さな幸せの塊でした。

アミューズその1

かぼちゃの種とかぼちゃのスープ。上のクルミは柔らかく口の中でほぐれる感じ。

アミューズその2

パンのバターがおいしく、美しい☆メインが食べられなくなるので我慢です。この時点で、お腹は4割くらい満たされてます。

パンとバター

メインに頼んだのは、というか、メインしか頼んでないですが、冬の限定メニュー、ブレス産のホロホロ鳥を丸々一羽使ったお料理。一皿目はサルミソースでトリュフの香りを移した柔らかい胸肉を、二皿目は、残ったもも肉を使ってシュー・ファルシをいただきます。

オーダーから45分ほどで焼き上げられた私たちのホロホロ鳥は、丸焼きの状態で客席に。給仕長と中堅らしきムッシュ達が、手際よく切り分け、目の前でソースを仕上げて盛り付けてくれます。もはや、美食ショー。

メートル・ド・テルとシェフ・ド・ランっぽいふたり
我々のホロホロ鳥が仕上げられていきます。

このトリュフの香りとソース、肉汁の協奏曲のような複雑な香りが素晴らしい。むね肉の中にもたくさん埋め込まれたトリュフは、既にだしがらと化していて食感しか残っていませんが、その分、料理全体から立ち上ってくる香り、口に入れたホロホロ鳥のやわらかさとジューシーさと溶け合って鼻から抜ける得も言われぬ香りは筆舌に尽くしがたい芳醇さ。そして口の中で仕上がる完璧な味わい。。。

Lyonの食、ここにあり、というような圧巻の一皿でした。前日にLa mere Brazierに行ってとても素晴らしかったので、よりお高いポール・ボギューズで更なる満足を得られるかな?と不安もあったのですが、そんな杞憂が吹き飛ぶ、圧巻の正統派リヨン料理でした。

Salmis de pintade

二つ目のお皿はシュー・ファルシ。メール・ブラジエで夫がオーダーしたものと同じ料理ですが、現代的な軽さをまとうメール・ブラジエと、伝統的な渾身のソースで勝負するポール・ボギューズとの違いを堪能できて二重に楽しかったです。

写真のシュー・ヴェールは生野菜っぽく見せていますが、周りの開いた葉っぱは、おそらく素揚げして緑を鮮やかに合わせた飾り。真ん中の丸いつやつやしたところが、既に中にホロホロ鳥を詰めて仕上げた料理です。客席で楽しませる為だけに、まるで収穫したてのキャベツかのような演出をしてくださいます。

ここだけではないですが、パリでもリヨンのお店でも、サービススタッフが常に笑顔で楽しく接してくれるお店は、とても居心地が良く、いつまでもいい思い出が残ります。

Chou farci

中はこんな感じ。目の前で、ナイフでここまで美しい断面で切ってくれて、サービスにもすごいテクニックがあるんだろうなーと、関心。
さて、このソースがすごかった。どちらかというと、淡いむね肉が引き立つように抑え気味だったサラミソースに対して、これは渾身のソース。
ここまでくれば、もう、ソースは飲み物です!

ホロホロ鳥のガラの骨や間接からとったのかな?と思われる、肉のうまみを移し切ったソース。コラーゲンも大量に溶けだしているみたいで、唇がくっつきます。唇がくっつくスープは、コンソメといい、ウミガメといい、仏跳湯といい、最高です。

スープだけでも目くるめくおいしさのところに、これでもかというトリュフと、香りづけの何かのお酒?などなどの重低音の和音の様なすごい存在感のソース。ソースを食べ続けても充分幸せなくらい美味しいのに、さらにシューの野菜のあまさともも肉の力強い味わいと重なることで完璧な旋律をかなでる、見事な一皿でした。

オーケストラの音楽が、混然と一体となって一つの音楽を奏でるように、お皿の上の全てが一つとなって恍惚とするような味わいが完成します。この料理の主役がソースである証に、この皿に盛られたソースに加えて、クリームポット一杯分のおかわりソースがテーブルに残されました。もちろん、夫婦でトリュフのかけら一粒残さずいただきました。だって、唇くっつくくらいコラーゲンタップリなのに、塩辛くもなく脂っぽくもなく、ただただ美味しいんだもの。

リヨン料理って、こんなにおいしかったんかぁ。。。。と、夢中で食べたあと、ため息が漏れるほど。これを作ってくれたGILLES REINHARDT氏の存在が奇跡だ。。。

Chou farci

美味しすぎて放心状態のところにプレデザート。柑橘の風味のあるクリームとメレンゲ。ホロホロ鳥の衝撃のおいしさの余韻から覚めきれず、さっぱりい美味しかったこと以外覚えていません。

pre-dessert

夫のデザート。おなかいっぱいで幸せだったらしく、このころにはテーブルでうとうと居眠りを始めておられました(笑)
エルダーベリーのコンフィとハイビスカスの香り。一口もらったけれども、甘酸っぱくて華やかな香りの一品。幸せ。

Belle pomme

私の方は、100周年記念作・ショコラ。ヴェネズエラ産チョコレートの濃厚なお味のムース。濃厚でありながら軽い、という、時々出てくる究極のチョコレートデセール系。トップにあるのは、チョコレートのキャビアとレモンのキャビア。どうやって作っているのか全く想像がつかないけれども、どちらもプチプチとはじけるようなみずみずしさ。特に、レモンのキャビアは少量ながらかなり酸味と香りを効かせてあって、満腹の上にチョコレートをたべても、味をぼやけさせることなく、鮮明に保ってくれる。とてもとても良いお仕事でした。

La creation gourmande du centenaire ≪Le Chocolat≫

スズキのパイ包みやブレス鶏もかなり迷ったけれども、季節のホロホロ鳥にしてよかったです。リヨン料理は、リヨン周辺の土地の恵みとともにある郷土料理で、その季節の旬の食材を食べるのが、一番楽しめると感じました。どのお店でも季節感を大切にしている、というか、季節とともに変わる自然の食材の上にこの料理文化が成立していると感じます。
リヨンに来れば、「フランス料理」という言葉はもうつかえなくなります。フランス料理は「日本料理」と同じくらい幻であって、私たちがイメージする伝統的なフランス料理とはリヨン料理、そして、世界のシェフがインスピレーションを与えあってオート・キュイジーヌの世界で展開しているのは、パリ料理なのだろうと思います。

美食を追い求める人間としては、パリじゃなくてLyonに留学したかった、と本気で思うほど、大満足のリヨン美食旅でした。

他のおすすめは以下。。。

La Mère Léa

ここに書ききれなかったですが、こちらのお店も気軽に、進化し続けるリヨン料理を楽しめます。もちろんおいしい。地元の方々で満席のレストランです。

メニューのネーミング「Salade Lyonnaise 2.0」の遊び心がツボでした。

サラダリヨネ 2.0
7時間煮込んだ仔羊
コンテのリゾット

FROMAGERIE LA MERE RICHARD

ポールボギューズ市場内。Lyonの誇るチーズ、サン・マルスランの熟成を専門とするフォルマジェリ。とろっとろです。脳が溶けるかと思うほど美味。サンマルスラン大好きだったのに、今までのサンマルスランは何だったんだ!

これで購入直後。食べごろです❤️

Fromagerie Mons Halles de Lyon Paul Bocuse

こちらも有名なフォルマジェリ。せっかく来たのだから、と、お勧めのエポワスを購入。日本でも売っているし、レストランでも何度も食べたエポワスが、普通のエポワスの3倍くらいの激しさでもって私の味覚に襲い掛かります。ただ臭いがきつくなったわけではなく、強烈なにおいでありながらも、腐敗臭のような要素はミニマルに抑えられていて、それでいて表面はべとべとの液状になっていて、口の中にこれでもかとうまみがなだれ込む。
最高でした。。。
多分、人生最高のエポワスになるでしょう。

以上、フランスの美食ここにあり、という、圧巻のリヨン料理でした。
個人的には、もう星付き含めてパリの飲食店に行く気がしない、、、というほどの衝撃です。

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