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2022.9 良かった新譜

BLACKPINK / acloudyskye / Daniela Lalita / EDEN / Futbolín / HAILROSE / Lantern / Madison Cunningham / WARGASM(UK) / ウ山あまね


BLACKPINK - BORN PINK
(Album, 2022.9.16)

 2016年デビューの4人組K-POPグループによる2nd。って今更説明不要ですね。このアルバムの聴きどころといえば、なんといっても先行配信曲である#1『Pink Venom』とタイトル曲#2『Shut Down』の質の高さ、これに尽きるでしょう。韓国の伝統楽器・コムンゴの妖しげな音色を背にグループ名を叫びカムバックを待ち望み続けたファンを煽るイントロから、確信犯的にTikTokフレンドリーでキャッチーなフック、00年代HIPHOPにリスペクトを捧げるラップパートまで隙のない『Pink Venom』で貫禄を見せつけたかと思えば、クラシック楽曲「ラ・カンパネラ」を大胆にサンプリングした『Shut Down』の鮮烈なトラックの上で放つ「カムバックなんかじゃない 去ったことないから」というパンチラインに面食らう、完璧なBLACKPINK新章の幕開け。
 で、じゃあその後3曲目以降はどうなのか?というと、ややインパクトに欠ける楽曲が続き、ボンヤリとしたままアルバムが終わってしまう、というのが率直な印象だった。音楽性の幅は「固定されたガールクラッシュのイメージ」という矛盾から抜け出そうするもがきのようにも感じられるけど、それにしてもオープニング2曲に比べてどの曲も作り込みが甘いように思うし、80年代リバイバルなムードも一周せずに古臭さが漂ってしまっている。1st『THE ALBUM』は佳曲揃いの名盤だったんだなあ、と改めて実感。新たなBLACKPINK像を提示するならば、作り手側がより自信を持って(リード曲で勝負できるくらいの)プレゼンテーションを行うべきで、次作以降その器が試されることとなるでしょう。厳しい評価を下すようなことを書いたけど、正直頭2曲だけで作品全体の物足りなさを補って余りあるとは思っています。


acloudyskye - What Do You Want
(Album, 2022.9.2)

 ニューヨーク出身のプロデューサーによる3rdフル。Former Hero『footpaths』やJaron『It's Hard to See Color [When You're so Impossibly Far Away*]』に続く、いわゆる「デカい」ポストEDM作品。生(っぽい)ドラムとアコギのオーガニックなサウンドが、メロディックなダブステップと絡み合い、ポスト・ロック影響下の壮大なスケープに昇華されていく様は、広壮な海や遠い来光を眺めている時の、全能感と無力感が同時に押し寄せるような特別な感覚を想起させる(それを人は「デカい」とか形容するのでしょう)。一方で、海が荒れる様や土砂が崩れる様も描くし、親密な弾き語りもある、その視界の生々しさが美しい。


Daniela Lalita - Trececerotres
(EP, 2022.9.16)

 ペルー出身のソロアーティストによる1st EP。Amnesia Scannerの楽曲での客演でも知られる。#2『Tenía razón』にはSega Bodegaが参加。ビョークやドヴォルザークをリファレンスにしながら、ラテンの情熱的な響きを不穏で妖美な前衛アート・ポップに変換する。冷たいけど生気があって、幼さも老いも同時に感じさせるようなクワイヤの、めちゃくちゃ怖いのに抗いがたい魅力。なんだこれ!?と思いながら立て続けにリピートしました。


EDEN - ICYMI
(Album, 2022.9.9)

 アイルランド・ダブリン出身のソロアーティストによる3rdフル。Frank Ocean「Blonde」以降のオルタナティブR&Bの音像だが、明確にそれとは由来の異なる主張の強いビートやグリッチ的な編集感覚、悲痛なエモさがある。前作『no future』の「君の名は」サンプリングとかもそうだけど、トレンドや目新しいアイデアを取り入れつつ、それを自分の感情表現に自然に溶け込ませるのが上手いアーティストなんだろうなと思う。あと本当にどうでもいい話なんですが、#10「Elsewhere」3:20から1分間以上「コンビニ...ねぇコンビニに行こう」って連呼し続けてるのに無視されててかわいそう。


Futbolín - Moped Xperience
(EP, 2022.6.17)

 2015年イタリア・ベローナにて結成の3人組による3rd EP。短い会話に続く実質的なオープニングトラックの#2『Gillette』開始した瞬間からテンション最高潮で駆け抜ける9分弱のドタバタ狂騒劇。マスロック&ポストハードコア化したThe Hivesみたいなサウンド。ジャケットの印象通りで、小刻みに体を揺らしつつ、ニヤニヤしながらモッシュピットを眺めている時のあの高揚感を味わえる一枚です。


HAILROSE - DEVASTATOR, In the broadest sense of the word, filled with the relentless quest of fools in the same rut
(EP, 2022.8.13)

 2019年東京にて結成の4人組エレクトロ・メタルコアによる1st EP。ガバキック鳴りまくり、アーメンブレイクやボーカルサンプルも要所で効果覿面の、2022年型エレクトロニコア。クリーンボーカル無しだけどリフやシンセのメロディでキャッチーに聴かせる楽曲の組み立ては、(在りし日の)Crossfaithを彷彿とさせる瞬間も。どういう経緯か良く分からんけどex.Lorna ShoreのCJ McCreeryや、過去発表のシングルではEmmureのFrankie Palmeri、Brand of SacrificeのKyle Andersonといった錚々たる面々をフィーチャリング起用しシーンにアピールしていて、野心が滾ってるのも良い。


Lantern - M.U.S.A.
(EP, 2022.5.13)

 2010年イタリア・リミニにて結成の激情ハードコアバンドによる、Lorenzo Senni主宰のレーベル「Presto!?」からリリースのEP。Lorenzo Senniは自身はプログレッシブなトランスを作りつつ、エモやハードコアまでも手広く抑えていて凄い(このプレイリスト参照。2020年の傑作「Scacco Matto」収録の「The Power of Failing」もMineralの同名アルバムから?)。#1「Il gatto che vide l'ultimo incontro tra G. e P.」に見られるMidwest Emo的な煌びやかなアルペジオ+管楽器のアンサンブルや、Infant Islandの大名盤「Beneath」を彷彿とさせるアンビエントな電子音、ユニークなリズムアプローチなど、随所にインテリジェンスを感じさせながら低温で炙るスクリーモ。ハードコアのマナーに固執せず世界観の構築を目指す、彼らが語るところの「Sci-Fi Punk」の完成を今後も期待したい。


Madison Cunningham - Revealer
(Album, 2022.9.9)

 2014年デビューのカリフォルニア州コスタメサ出身シンガーソングライターによる3rdフル。2019年のアルバム「Who Are You Now」では最優秀アメリカーナ・アルバム賞、2020年のEP「Wednesday」では最優秀フォーク・アルバム賞と、2度に渡りグラミー賞ノミネートを経験している。何度か聞いたことあるけど、アメリカーナって?と思って改めて調べてみると、初期フォークやカントリーをルーツにその他多くのジャンルを取り入れたアメリカ音楽...という何とも漠然とした定義が見当たった。その名も相まってどことなく保守的な印象を与えるカテゴライズだが、彼女の音楽を聴くと、なるほどルーツミュージックをそれぞれの視点から発展させる伝統的でありながら自由なジャンルなのか、とすんなり理解できた。
 フォークやカントリーの暖かい匂いを漂わせながら、インディーロック譲りのユニークなアレンジにニヤリとさせられる。アコギじゃないからこそ独特の肌触りを感じさせるジャズマスターのサウンドも心地良い。穏やかな午後を過ごしたい時に聴きたいアルバムですね。


WARGASM(UK) - EXPLICIT: The MiXXXtape
(Album, 2022.9.9)

 2018年ロンドンにて結成のエレクトロ・ロック・デュオによる1st。本作リリースより前から既に、Reading and Leeds Festivalsへの出演やBring Me The Horizonキュレーションのフェス出演、Limp Bizkitのツアーサポートなどで注目を集めている。ニューメタルとエレクトロを組み合わせたその音楽性は、「BMTH + Atari Teenage Riot」とも言えると思います。享楽的なヘヴィーミュージック、というイメージを一発で伝えるバンド名も笑えるくらい良い。セクシー&ビビッドでインパクト大な2人のビジュアルも含め、ライブで体感したい音楽。来年・再来年のサマソニとか、どうですかね。


ウ山あまね - ムームート
(Album, 2022.9.23)

 2016年に神様クラブのメンバーとして活動を開始、2019年にソロ活動を開始した東京のプロデューサーによる1stフル。日本のハイパーポップシーンの旗手的な存在としての立ち位置を更に高めるかのごとく、製造過程不明なサウンドがおもちゃ箱のように次々と飛び出す。一方で、アルバムを通して感じさせるのは「歌」へのこだわりで、トリッキーなトラックに対して、突飛なボーカルラインや眩いカットアップはほとんどなく、むしろ思わず鼻歌を歌いたくなるような親しみやすいメロディが全編を貫いている。それはカラオケ文化に下支えされたJ-POPシーンへ、シグネチャーなサウンドを保ったまま殴り込むための挑戦のように感じられるし、だとすると彼がインタビューで語っていた「みんなが自分の歌を口ずさんでもらえるくらい爆売れしたいですよね。例えば、あいみょんくらい。」という言葉は、地に足の着いた目標のように見えてくる。

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