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あまんきみこ『白い帽子』を40年ぶりに読む

わたし、音読が大好きな小学生でした。一年生のときはもう本当に大好きでほとんどの作品を暗記してました。どんどん学年が上がるにつれて、熱は冷めてきたものの、それでもやはり好きだったのでしょう。4年生になった娘の音読の宿題を久しぶりに付き合ったのですが、聞いてるだけであ、これ、知ってるぞ、うわーん、なつかちー!となりましたので、その記念に。

どうしてあんなに大好きだったのか、声に出して読んでると気持ち良くって、悦に入ってました。さすがに四年生になっていたわたしは、そこまで悦に入ることもなくなり、少しクールに育っていたと思うのですが、「これは、レモンの匂いですか?」から始まるこの作品は少し風変わりだったからか、読めば読むほど四十年前の、このお話を読んでいたときの優しい雰囲気やフワッと感情が浮き立つような感じ、それこそ夏みかんの匂いなどを思い出しました。当時、夏みかんを食べたくて買ってくれとねだっていたような記憶もあります。

登場人物に感情移入できるような感動シーンはないのですが、なんとも不思議な感覚になれます。女の子の透明感のあるセリフがいいのかもしれません。運転手さんのさわやかな優しさ、男の子の一生懸命さ、お母さんの男の子を見守る目、「これは、レモンの匂いですか?」と聞いてきたしんしの紳士たる態度。しんしがひながななのもいい。ぼうしのつば、ぬいとり、そめつける、などの普段使いでない言葉も新鮮で、すらっと読み進められない、気になる感じも気に入ってたのかもしれません。

会話文もどこかひっかかる言い回しなのですが、それが逆に映像的に感じられたりもして。

「ほうほう」
「あれ、石がのせてあらあ」「車が引いてしまうわい」
「よかったね」「よかったよ」

あまんきみこ「しろい帽子」

しろい帽子

いやー、『おおきなかぶ』以上にこんなに覚えているのはないと思ってたからか、こういったお話にまた触れることができて、そして、あの時代に一瞬でも戻れて嬉しかったです。

大人になったいま、この作品からはそこはかとなく、シティーポップさが感じられます。映画でいえば、『サイダーのように言葉がわきあがる』だし、大貫妙子でした。いやはや、いま出会えて、よかった。

こどもの教科書で思い出すシリーズでほかにも、谷川俊太郎『朝のリレー』や新川和江『わたしを束ねないで』も登場してこないかなーとたまに気にしてますが、気が付かないうちに習ってしまったのか、もう違うお話に差し変わってしまったのか、まだありません。これから娘の教科書で、またあの頃の自分に出会えるお話にどれくらい再会できるかしらん。国語の教科書の音読が大好きだった子どもが母になり、子育て中に隠された思いがけないギフトに出会えたというたわいない話でした。

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