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雑談#22  ガンダムの二人のヒロイン フラウ・ボゥとセイラ・マス アムロはどっちが好き?問題について


はじめに〜アムロとフラウ・ボゥの間にあった感情って?

「機動戦士ガンダム」にはフラウ・ボゥとセイラ・マスという二人のヒロインがいたけど、主人公のアムロは最終的にどっちが好きだったのか?というカップリング解釈が古来よりある。実は本編の中ではホワイトベースの中で、誰一人最終回時点で相思相愛の関係になった人はいないのだから、その後の解釈はそれぞれが自由に思いを馳せればいいと思っているのだけれど、なぜ、私はアムロとセイラというカップリングで書いているのか、なぜ相手はフラウ・ボゥではないのか、ということは、少しお話しておいてもいいのかなと思った。

 実は最終回で、アムロはホワイトベースのみんなが戦場から脱出できるよう導いたとき、フラウ・ボゥにだけは「僕の好きなフラウ‥‥」と、明確に自分の気持ちを伝えていた。だから普通に考えれば、アムロはフラウ・ボゥが好きで、彼女のところへ帰ったのだ、となるだろう。戦場で際立ったニュータイプ能力を見せることで、フラウにとって「私たちとは違う」存在になっていたアムロが、最後にそのニュータイプ能力を、仲間を助けるために使う、というところが実に感動的である。そしてフラウ・ボゥは、アムロがニュータイプ能力に目覚めたことで、遠い存在になってしまった、その出来事を象徴するキャラクターであった。

 でもね、と私は思うのである。アムロとフラウ・ボゥの間にあった感情、それは「恋愛」と呼べるほどのものだっただろうか?

(1)アムロにとってのフラウ・ボゥは、見守り世話をしてくれる「母性」だった

 アムロとフラウ・ボゥはもともとご近所さんで、フラウは母親のいないアムロに、母親のように何かと世話を焼いていた。女の子が、男の子の世話をしたがるというのは、その男の子が「気になる」存在であることは間違いない。だが一方で、その世話を受けている男の子の方はというと、「ありがたい」存在ではあっても、だから「気になる」とか「ときめく」というふうには、なかなかなっていかないものだからである。だから、もしこのまま、戦争に巻き込まれることなく日常が続いていたら、仲良くなるかもしれないが、進学などで離れたり、あるいはフラウ・ボゥのことを気に掛ける男子が登場したりすれば、自然にフェードアウトしていく関係だったともいえるだろう。

 ところが、戦争に巻き込まれアムロがガンダムに乗って戦う、という異常な出来事があって、この関係が逆転した。アムロの方が、フラウ・ボゥを助けることになったのである。このとき、はじめてアムロは自分が男だと自覚し、彼女は自分よりも弱い、守ってやらねばならない存在だと認識しただろう。そしてフラウ・ボゥはといえば、自分を守って戦うアムロを頼もしく思ったに違いない。

 だが、この二人の関係をこのように見てみると、二人を繋いでいるのは恋愛感情というものではなく、互いが持つ「母性」や「父性」の発露であったように思われる。だから日常が続くなかで互いが結び合って父と母になるのは自然に思えるのだが、例えば母性というのは、捨てられた猫を保護して世話する男性、というような場合にも宿るものであって、女性に固有のものではない。同様に、父性がいじめられている子を助ける女性に宿ることもあるだろう。それは人間誰しも持ち得るものであるが、時に対等な人間関係を阻害するものともなり得るのだ。

 フラウ・ボゥの母性ということでいうと、象徴的に思える場面がある。第13話「再会、母よ」のラストシーンである。アムロは、ホワイトベースを降りて地球で再会した母のところに残るという選択肢もあったが、そうせず、母を残してホワイトベースへ戻って行った。そのとき、その様子を後ろで見ていたフラウ・ボゥは、戻っていくアムロの後ろで振り返って、ひざまずいて別れを悲しむアムロの母を見るのである。そのとき、思ったのだ。アムロにとって母性を持って接してくれていたのは、実の母ではなく彼女だったと。つまり、アムロにとってはフラウ・ボゥこそが、見守り世話をしてくれる母性、そのものだったのである。

 それだから、アムロはフラウがいるのもお構いなしに、年上の士官マチルダ・アジャンに憧れ、恋心を抱くことができたのである。フラウには感じたことのなかった「ときめき」を、アムロは感じたことだろう。嫉妬してやきもきするフラウにアムロが無頓着なのも、彼女がいつも見守りなんでも許してくれる母のごとき存在だったからと思えば、なんの不思議もない。

(2)アムロにとってのセイラ・マスは、対等な位置にいてともに戦う「相棒」だった

 一方、アムロとセイラは、ホワイトベースに避難することではじめて出会った間柄であり、ガンダムに乗って戦うアムロに、通信席からブライトの指示を伝えるのが当初のセイラの役割であった。そのとき彼女は「あなたなら、できるわ」「あなたには才能があるわ」と、謎の上から目線でアムロを激励する。アムロにとって、その言葉がどれほど力になっただろうか。なぜなら、あの苦境の中で、自分を初めて認め励ます言葉をかけてくれたのが彼女だったからである。セイラがそう言ったのは、アムロに頑張ってもらわねば自分もホワイトベースも生き延びられないからで、ある意味自分が生き延びるための方便なのだが、それでもアムロは、自分に対する信頼を感じることができただろう。
 そんなセイラが、通信席から離れてGアーマーのパイロットになったことで、関係は一変する。当初アムロは先輩ヅラをしてセイラにあれこれ教えたりもするが、合体して1機の機体で出撃し、二人でともに戦場を駆け抜ける、いわば「相棒」になった。マチルダのような憧れの存在でもなく、フラウのような母のごとき存在でもない、対等な位置にいて同じ方向を見る、そういう存在となったのである。

 だが、セイラはフラウ・ボゥと違ってアムロのことを気遣ったり心配するといったことはほとんどない。彼女の頭の中は、つねに「キャスバル兄さん」ことシャアのことでいっぱいなのである。物語の終盤、ララァとのニュータイプとしての邂逅を含めた死闘のあと、カイやハヤトらとともにアムロを気遣っていたぐらいだろうか。
 だから最終回で、アムロの声に導かれてみんなの待つ脱出用のランチに辿り着き、そこにアムロがいないことを知って驚いたとき、ある意味はじめて、ちょっぴり心の内が垣間見えたという感じがしたのである。「私がホワイトベースにたどり着くまではあれほどに・・・アムロ・・・」と嘆く言葉からは、彼女には、ずっとアムロの導く声が聞こえていたことが伺える。自分が死ぬかもしれない状況の中で、なんとしても彼女を助けたい、という特別な感情を、そこに見て取ることができないだろうか。

(3)フラウ・ボゥのアムロに対する思いは、恋だったのだろうか?

 フラウ・ボゥがアムロを「気にかけて」いたのは間違いない。しかし、彼女はアムロをどれくらい好きだったのだろうか。アムロが強くたくましくなり、フラウ・ボゥが世話を焼いたり見守ったりする余地がなくなっていったとき、彼女はアムロに水を開けられ、負傷して看護が必要になったハヤトの方に惹かれていった。それが恋だとは思わないが、果たして彼女は、アムロやハヤトが好きなのだろうか。そうではなく、人を気にかけ世話をすることをこそ好きなのではないか。そういう彼女の関係性の作り方は、ちょっと依存的で、おばちゃん的に心配なところである。与えるばかりで、自分は何も与えられていない、と気づいてしまったとき、その関係は破綻してしまうからである。
 だから、戦争が終わったあと日常に戻ったとしても、あのような経験をくぐり抜けてきて、戦争に巻き込まれる前と立場が逆転してしまったアムロとフラウ・ボゥが、またもとのように戻って平和に暮らせるとは、私は思わない。物語は、彼らが戦場から脱したところで幕を閉じたが、その後の物語もまた、決して平穏ではないだろう。それも含めて、戦争とは残酷なものなのだ。

 ついでに言うと、続編であるZガンダムでは、フラウ・ボゥはハヤト・コバヤシと結婚し、ホワイトベースの三人のちびっこ、カツ・レツ・キッカを引き取って養子とした上、彼女自身も孕っている、という状況で登場する。ホワイトベースのおふくろさん、なんて言われていたのはミライ・ヤシマだったが、実のところ、本当のおふくろさんは彼女だったのではないか。そして、面倒なことすべてを押し付けられてしまったかのような続編での扱いは、正直かわいそうとしか思えないのである。

 そうは言っても、ファーストが終わった時点ではまだ10代半ばだったのだから、フラウ・ボゥには精神的に自立していくプロセスの途上にある。誰かの世話をして自分の価値を見出す、という関係性の作り方を脱して、大人の恋をしてほしい、というのが、おばちゃん的な願いである。

(4)セイラ・マスは、ファーストで「何も解決していない」人

 私が、その後の物語を作るのだったらアムロとセイラというカップリングがいいなと考えたのは、上記のように、アムロとそれぞれとの関係性の違いがあり、セイラとの関係性の方が私は好きだという、それだけのことである。もう一つ言うならば、セイラさんは、ファーストの中で、自分の抱えていた問題を結局解決できなかった人、ということがある。「兄さん」を慕いすぎたままでいる、ということである。そこに、新たな物語を展開していく余地がある。だからこそ、その続きを私は見たいなと、思ったのである。

 その続きは、こちらからどうぞ。


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