田中と石井の「無風状態」

社団法人Officeドーナツトーク代表 田中俊英と、NPO法人パノラマ代表 石井正宏。…

田中と石井の「無風状態」

社団法人Officeドーナツトーク代表 田中俊英と、NPO法人パノラマ代表 石井正宏。ひきこもりやニート、発達障害等の若者から、高校の中退や進路未決定問題まで、あらゆる若年者問題に東西で取り組んできたベテラン支援者の二人が、凪いだ海を観ながら、ゆる~く支援や社会を語り合います。

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#108 「家を出る」ための文化資本が得られない時代。

田中さん こんにちは。例年のように年度末に向けて校内居場所カフェ関係の仕事が立て込んで来ています。ようやく鍬が入るようになってきたってところなんでしょうね〜。 さて、「家を出る」ための強制発射装置=カタパルトが文化資本による勘違いだ、というようなことを前回書きましたので、その続きになるようなことを書いてみたいと思います。 A地点の葛飾金町の団地の10階で悶々と過ごしていたぼくが、遥か遠いZ地点であるニュージャージーのブルース・スプリングスティーンに辿り着けるかもと勘違い

    • #107 勘違いは文化資本の最大の賜物。その勘違いないと自分の人生がはじまらない。

      石井さま 「相談したけど何も変わらなかった」という若者からの発言があった時、僕は、その主語を「若者」あるいは「高校生」と捉えたのでした。 石井さんに話したけど自分は何も変わらなかった。その虚しさを抱えて生きるしかないんだなあ、みたいに、その虚しい主語の主体は若者だと僕は解釈したのでした。 前回の石井さんの謎解きにあるように、この「何も変わらない」主語は、実は、主として保護者でした。 確かに、そう言われると、高校生たちはいつもそんな感じで愚痴ってますね。僕もはるか昔の高

      • #107 相談したけど何も変わらなかった…

        石井さま 石井さんとはほとんどの局面で意見が合うのですが、前回のこの表現は僕にとってはなかなか考えさせられました。 「ぼくが言われて一番きつい言葉は『相談したけど何も変わらなかった』です。結局ぼくらが直接介入して解決できることって、彼ら彼女らの人生においてはすごく限定的じゃないですか?その事実をどこかで隠しながら、今まで出会ってきた大人とは一味違う大人として居ようとしてしまう狡猾な自分が居るんですよね。 そういった意味でぼくは、一時的には『無防備』になれていないのかも

        • #106 君はココロのナイフを隠し持った高校生の前で無防備になれるか?

          石井さま 生徒とともに「時空」を超え、ファンタスティックなトーク空間を呼び出すその瞬間の手法について、石井さんは「どうでもいい」はダメで、もうちょっと法則化一般化してほしいと叫んでいます。 石井さんはその動機について「自分はまだ若いから」と謙遜されていますが、その気持ちは年老いたとはいえ僕にもよくわかる。だから、がんばって言語化してみますね。 なによりも、僕自身が無防備になることです。まるで、村上春樹『羊をめぐる冒険』で「鼠」を呼び寄せたあの瞬間の「僕」のように、

        #108 「家を出る」ための文化資本が得られない時代。

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        • 田中と石井の「無風状態」
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          #105 「絶対的孤独の地平でトークする我々(僕と彼女彼)」の暗黙知は形式知化できるのか?

          石井さま 2019年度「大和証券グループ 輝く未来へ こども応援基金」受賞、おめでとう! 石井さんがNPOパノラマを立ち上げるちょっと前、「シェアコロ」で奮闘していたあの頃を思い出すと、僕もすごく嬉しくなりました。パノラマのミッションがより浸透していけばいいですね。 さて、前回の最後に、 「田中さんの言う『絶対的孤独を引き出す』というのは、“素の自分に戻れる場所”を一時的に提供できているんだろうね。それどうやってるの?」 と石井さんが書いてましたが、それほど意識はしてい

          #105 「絶対的孤独の地平でトークする我々(僕と彼女彼)」の暗黙知は形式知化できるのか?

          #104 「絶対的な孤独」を校内キャラの裏に宿す高校生たちとぼくらはどう向き合えるのか?

          石井さま 前回の石井さんの文章にあった「校内で都合の良いキャラ設定」というのは印象的ですね。その都合よいキャラの範囲内で暴走し、自分の役割が終わったと判断したら、そうした空気を読んでおとなしくなる。 また、面談や個別トークで「本当は◯◯は嫌い」的発言は日常的であり、表面上は嫌いだと見破られないよう賑やかなキャラが本音を覆う。そんな感じで日々の学校生活を送っていると、そりゃあ疲れるし場合によっては不登校にもなるよと思います。 都合いいキャラの奥の奥に隠れたその子の絶

          #104 「絶対的な孤独」を校内キャラの裏に宿す高校生たちとぼくらはどう向き合えるのか?

          #103 ある種の生徒は楽屋トークを求めている

          石井さま 今日僕は2つの高校で生徒たちと会話してきました。 ひとつめは、授業の講師でした。信頼関係が築けているその高校では内容はこちらにお任せでしたので、僕は思い切って「自意識過剰」について語ってみました。 なぜか、10代のある時期で、女子であれば14才頃、男子であれば17才頃(ほんとうはティピカルな性別で区別したくないんですが、あまり過激なセクシュアルな理論の言葉を使うのは高校生支援においてはデメリットが多いです)、なぜ僕らは「人の目」が気になるんだろう、

          #103 ある種の生徒は楽屋トークを求めている

          #102「大人オーディション」にあなたは恐怖を感じているか?

          田中さん 年末に田奈高校元校長の中田正敏さんがこんなことを言っていました。 「ある高校に行ったら、生徒がこの人なら言っても大丈夫かなって感じで近づいてきて、「うちの校則おかしいんですよ、セーターにラインが一本ならいいけど2本だと校則違反なんです」って言って来たから、こっちも「くっだらねえ〜」って言ったら「そうですよねえ〜」なんて言って…」 ブラック校則の話がしたいんじゃなくって、生徒が「この人なら大丈夫」だと決める嗅覚の鋭敏さというか、身を守る本能的な審美眼のよう

          #102「大人オーディション」にあなたは恐怖を感じているか?

          #101 ロックとパンク・スピリットは継承していけるのか?

          田中さん 校内居場所カフェのクリパ、お疲れ様でした!ぼくは計画的段取り力と瞬発力を要するリーダーシップが発揮できないタイプなのでイベントごとは超苦手です苦笑。 ラブ&ピースやレボリューションという概念は、若者たちにとっての永遠の理念で、その理念を自然体で享受できた我々はまったくついていました。 この田中さんらしい言葉に「そうそう」と共感しました。 この間読んだ音楽メディアの記事で、ロックバンドがフェスに呼ばれなくなっててセールスも落ちてるから「ロックは死んだ」みたいな

          #101 ロックとパンク・スピリットは継承していけるのか?

          #100 校内居場所カフェは「知る」から「やる」へ

          田中さん こんにちは。あまりご無沙汰感はないけど、無風状態的には大変ご無沙汰してました、お元気ですか? 『学校に居場所カフェをつくろう!』が明石書店から8月に出版され、東京、横浜、大阪で行った出版記念イベントで、僕らがあまり発言しなかったのに居場所カフェについて大いに語られる感じは、そろそろ隠居してもいいんじゃないかとか、お互い身の引き方を考えるような時間だったのではないでしょうか? でもさ、まだまだ僕らの仕事は残ってますよ、田中さん! ぼくが思うに、校内居場所カフェ

          #100 校内居場所カフェは「知る」から「やる」へ

          #99 面談では盛り上がらなかった共謀罪

          石井さま 今日も僕は面談仕事を4件こなしましたが、「共謀罪」については親御さんとは全然盛り上がりませんでした。 1つは法の施行前だということ、1つは「自分とは関係ない」とみなさん思っていること、1つはそんな共謀罪やテロよりも自分の家の中ではもっと凄まじい(と親御さんたちは思っている)出来事があったり過去にもっともっと凄まじい夫婦間の出来事があったりしたため、報道ステーションが多少騒ごうが「それはそれ」という感じでした。 その感じは僕もよくわかります。 けれども一方

          #99 面談では盛り上がらなかった共謀罪

          #98 ノブレス・オブリージュという“やわらかな煽り”

          田中さん ちょっと前の、ぼくがノブレス・オブリージュをまだちゃんと言えてなかった頃に、某高校の校長先生とサシ飲みしてて。 「なんだっけな、なんとかオブリージュってのがあって」と言ったら、校長先生が「ノブレス・オブリージュですね、私の好きな言葉です」と目を輝かせました。 そのあと、言葉の意味やら語源をコースターの裏に書いて説明してくれてさ、あれはいい夜だったなぁ。なんか、やっと分かり合えた感があった。 その時に思ったのは、「なんだ、ノブレス・オブリージュって言った方が通

          #98 ノブレス・オブリージュという“やわらかな煽り”

          #97 役割のシャッフルとノブレス・オブリージュ

          田中さん 昔、田中さんに教えてもらった「ノブレス・オブリージュ」がやっと間違えずに言えるようになってきたよ(笑)。 でもって、あの頃は突拍子もない価値観を田中さんが持ち出して来たなと思ってたけど、けっこう広まって来ていますね。ぼくが知らなかっただけかな? パノラマの今度のオフィス「桜台コリドール」のある横浜市青葉区は、横浜で最も裕福な区なんだよ。男性の長寿日本一!高貴な街なわけ。 「ぴっかりカフェ」をやってる田奈高校なんかビバリーヒルズの中の小高い丘の上にある老舗の課

          #97 役割のシャッフルとノブレス・オブリージュ

          #96 サードプレイスは「役割のシャッフル」

          田中さん パノラマの総会の準備でテンパった日々を過ごしていましたが、やっと落ち着きました。 昨日、田中さんがヤフーニュースで語ってたサードプレイスについて、ぼくもちょっと書きたいのでお付き合いください。 最近思うのは、ファーストプレイス(家)とセカンドプレイス(職場や学校)って、役割が固定している世界だってことです。例えば、家の玄関をくぐった瞬間、ぼくも田中さんもお父さんや夫になり、職場に行けば団体の代表者になっちゃう。 多分、ここで面白いのは、ぼくも田中さんもクライ

          #96 サードプレイスは「役割のシャッフル」

          #95 最先端の予防支援は高校デビュー支援

          田中さん 全国の高校でこの時期起こっていることは、入学式以降、一度も登校せずに不登校になってしまった生徒たちがすでに何名かいるってことですよね。 そして、ぼくたちは、こういう過去を持つ若者と20歳過ぎて支援機関で会ったりするわけで、鉄板のひきこもりあるあるなわけです。 パノラマのやってる成果指標の委員会で、確か田中さんは「高校デビュー支援」をしたいというようなことを言っていたと思うんだけど、覚えているかな? あの話し、あのときは脱線気味だったので深めれなかったけど、無

          #95 最先端の予防支援は高校デビュー支援

          ♯94 ひきこもり歴10年の最凶スタッフS氏42才と会計入力

          石井さま 前回の石井さんのこの部分は印象的でした。 これって、フライパンのゆらゆらなんだよ。経営と現場が完全にセパレートっていうのはこげるんだね。NPOには向かないんだと思う。いっそ、営利組織に鞍替えして儲けに走るべきなんですよ。 これを読んだあと、仕事を終え、僕の趣味であるApple研究でもしようとこの記事(Appleの元エンジニアが語る:ティム・クックCEOがAppleを製品より組織重視のつまらない会社に変化させた)を読んだところ、こんな部分が出てきました。 1つ

          ♯94 ひきこもり歴10年の最凶スタッフS氏42才と会計入力