詩人が「春の大山」を本気で読んでみた

こんにちは、詩人です。
今日は素敵な詩に出会いましたので、ご紹介の記事です。

今日の参観で、春を題材にした詩が張り出されてて、他の子は「春の声に花が目覚める」とかそんな感じなのに息子の詩だけ大山応援してて、他の親達にも爆笑されたり写真撮ったりされてたww
けど結構グッとくるよな
4番大山への愛と期待が込められてる 
- アコマン(ままるす) (@mamarusu) 
https://twitter.com/mamarusu/status/1127600208265670658

こちらのツイッターのpostです。
かなりバズっていたので、ご覧になった方も多いと思います。
私も拝見して、作者である息子さんの感性に感銘を受けたひとりです。

話題になっている着眼点、テーマへの愛もそうなのですが、
詩のレトリックとしてもとても上手に書かれているとおもいます。
せっかくなのでいつものように、引用しながらレトリックをご説明したいと思います。
よろしければお付き合いください。


●作品概要

「春の大山」(はるのおおやま)
小学生の男の子による口語自由詩。2連16行。
手書きの文字とイラストが〝教室の後ろの壁に貼りだされてる感〟を演出しており大変趣深いです。

https://togetter.com/li/1355032
こちらのまとめ記事では、本文を活字で掲載してくださっていますが、ぜひ画像で最後まで読みたいところです。
元ツイートに添えられたpostを読む限り、小学校の国語の授業で詩を取り扱った際に、授業内で制作した詩のようです。
「春」を題として与えられていたとのことです。


●作品解説

あったかいし6時だ。
サンテレビを見よう。

1行目冒頭の「あったかい」だけで春の情景を描写する小技。
「あったかいし」の「し」が効いています。
これ、彼(作者)的に重要なのは「6時だ。=サンテレビを見よう」の方なのです。おそらく彼(作者)は、あったかかろうが寒かろうが雨が降ろうが槍が降ろうが、6時にはサンテレビを見るのです。でも春の詩なので、申し訳程度に春の描写を冒頭に入れているわけです。しかし、読んでいくとわかるのですが、この詩においては《季節は春である》ということがすごく重要。これがさりげなく冒頭で提示されていることに大きな意味があるのです。このような効果、余韻が「し」の一文字に凝縮されています。おそるべき「し」のポテンシャルです。

西のピッチングに、近本のヒット。
でもこれがいちばん、春の大山。

阪神タイガースの選手と、特徴となる・期待できるポイントを並べ、「でもこれがいちばん」と大山を強調する。類聚(るいじゅ)からの対比の技法です。体言止めが小気味よく、テンポが活きています。心地よくさわやか、大山への好意と期待感が伝わってきます。

ところが後続を読めば、むべなるかな、大山は「春の大山」なのです。

ホームランに、ヒット たまにダブルプレイ。

ここも前の行と同じく、体言止め類聚対比のテクニックですね。
大山の描写を重ねているフレーズです。
そしてこの行、この行こそが「春の大山」を現しています。この詩に登場する大山はただの大山ではありません、「春の大山」なのです。春の大山はホームランを打ち、ヒットを打ち、チームに貢献します。でも「たまにダブルプレイ」なのです。本調子の打つ大山ではないのです。

まあまだ春だから。

今はたまにダブルプレイでも、シーズン中に調子が合うから。大丈夫だから。行あたまの「まあ」がとても効いていますね。「まだ春だから」だけでは非情な感じがしないでもないですし、「でもまだ春だから」だと言い訳がましい気がします。「まあまだ春だから」でこそ、このちょっと寛容さのなかに諦めが滲むような、独特の〝良さ〟が出ているのです。言葉選びの妙ですね。

素晴らしいのは、この大山の描写が《説明っぽくない》ということです。
大好きな大山のこと、たくさん書けるはずなんです。春の大山はこのときは良かったけどここはダメだった、こういう理由で今はこんなプレーだ、と小説のように描写することもできるのだけど、あえて「ホームラン」「ヒット」「ダブルプレイ」と単語を並べるだけで描写している。リズムの良さと同時に、イメージの幅を読者に与えます。これは文章では表現できない〝良さ〟なのです。詩という表現のかたちを余すところなく活用できています。

また、上で《季節が春であることが重要》と言いましたが、この伏線はここで回収されています。

春の大山
打つんだ。

連の最後の2行。この力強さを見てください。気迫を感じます。
「打つんだ。」という表現ですが、気持ち的には〝打つんだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!〟くらいの気持ちが伝わってきますね。
でも叫ぶような、爆発的な心情の解放ではなく、あくまでじっとりと拳を握るような、心をじわじわと押し出すような、〝静の圧力〟とでもいうべき強さを感じる表現です。
4文字/4文字の短い2行に、なぜこれだけの圧力が宿るのでしょうか。
それはやはり、ここまでの詩の表現で、大山への作者の気持ちを充分に描写し、それが適切に読者に届いているから。
良い詩ですね。何度も読みたくなるパワフルな詩です。

今日はあつい、6時だ。
サンテレビを見よう

ここからは第2連です。くり返しになっていますね。
この詩は1連と2連をまったく同じ構成で書いています。対句法というレトリックですね。
対句は詩全体のリズムを整えると同時に、〝同じ構成で別のもの/ことを表現する〟という方法で詩に奥行きを与えます。
1連は「あったかいし6時」でしたが、2連は「今日はあつい、6時」。わかるでしょうか?1連と2連は別の日なのです。
別の日を描写してるなんて当たり前じゃん?と思う方もいるかもしれませんが、書いてみるとわかるのですが「さて別の日です」などと説明せずに別の日であることを描写する、というのは、なかなかむずかしいテクニックなのですよ。すごいことなのです。
この作品では、この連冒頭の1行だけで、各連の設定を明確に伝えています。しかもそれだけではありません。1連で読者がぼんやりと抱いた、〝作者はいつも6時にサンテレビで阪神の中継を見てるんだろうな〟という推察に説得力を与えるのです。やっぱり毎日野球見てるんだな。作品と読解の調和。美しいですね。

岩田のピッチングに、糸井のヒット。
でも今日はだめ、春の大山。
ダブルプレーにキャッチャーフライたまに相手のエラー。

1連と同じ体言止め類聚対比のテクニックですが、こちらは「今日はだめ」な大山。先ほども書きましたが、同じ手法を用いて違うことを表現することで、詩に複雑さが出て奥行きが現れています。趣深いです。出て来る選手の名前が変わるのも趣深いですね。
「でも今日はだめ」という言葉選びがかわいくて良い。「だめ」なんて結構直接的な批判なのですが、否定的な感情じゃなく〝あー今日はだめかー〟みたいな、やわらかいイメージになるのは言葉の使い方がうまいからですね。

でもだいじょうぶ春だ。

1連の解説で、「でも」を使うと言い訳がましいし…とか言ったのですが、ここは励ましの気持ちがこもった「でも」です。だめな大山、打てない大山、「でも」「だいじょうぶ」「春だ。」春だから大丈夫なのです。だからこの詩は、春の詩でなければならないのです。私はこの詩の中ではこの行が一番好きです。音読したい。詩の全体を通してある、大山への好意と寛容さ、期待や応援する気持ち、それらの感情が1行にぎゅっと詰まっています。激エモです。

春の大山。
打つんだ。

締めくくりのリフレイン。
2連目の大山には「。(句点)」が付いていますね。
これ、作者が意図しているかどうかはわからなくて、特に意味もなくつけたのかもしれないのですが、せっかくなのでこの句点に意味があるという前提で読解してみます。
1連には付いていない句点が2連には付いていることで、まずリズムが変わりますね。そして、「春の大山。」で一度結ぶことで、ここまで積み重ねてきた激エモ感情が大山にしっかり籠る感じがします。「春の大山(迫真)」というかんじです。更に、最終行前に結ぶことで、より最後の「打つんだ」の気持ちを強調する効果もありそうです。個人的には、この2連目の「春の大山」に句点が付いているのは良い効果だと思います。
2連で「だめ」な大山を描写したからこその、より強調される「打つんだ」という期待、願い。そしてこの「打つんだ」が、この詩の主眼でありテーマなのです。


●まとめ

ここまでお子さんの詩を勝手に読解してきましたが、素晴らしい詩だということが伝わったでしょうか。
(もし何か問題が有りましたら対処しますのでご連絡ください)
題材への目のつけ方ももちろん素晴らしいのですが、詩のレトリックとしても面白く、私にとっては大好きな詩になりました。思いがけなくネットで見ることが出来てとてもうれしいです。
ご指導された先生も、伝え方がお上手なのだろうなと思います。

そしてなにかのきっかけで記事をお読みいただいた野球ファンのみなさん、これも何かの御縁ですので、ぜひぜひみなさんも詩を書いてみてください。(笑)
また素敵な詩に出会えることを期待しております!


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

247

酒井 衣芙紀

note編集部のお気に入り記事

様々なジャンルでnote編集部がお気に入りの記事をまとめていきます。
1つのマガジンに含まれています

コメント8件

はじめまして!
私もたいへん興味深く拝読いたしました。

そして私も阪神ファンとして1点、大好きな点を補足しますと(笑)
2連の大山の打席内容。

ダブルプレーにキャッチャーフライ たまに相手のエラー

全くいいところなしの大山ですが、最後の相手のエラーで、

「この打球は、相手のエラーを誘う程度には強かったのではないか?」
「相手がエラーしてしまうほど、大山に風格が出てきているのではないか?」

という、明日への希望を感じさせる内容になっているのです。

しかもエラーですから、大山は調子の悪い時でも、
最低限出塁して、チームに貢献している。
当たりはともかく、塁に出ることがきっかけで、
明日から復調する可能性もないとは言えません。

ここにも、作者の深い大山愛を感じてしまうのです。

実際、春の大山は、昨日、巨人のエースである菅野から、
特大のホームランを放ちました。
だいじょうぶ。夏の大山はもっと打ちます(笑)

駄文、失礼いたしました…
詳しい解説ありがとうございます。
なぜこんなにジーンとくるのか専門的に知れてうれしいです。

大山は入団3年目、虎の主砲として期待されていますが去年は春から調子があがらずなかなか…でシーズン終盤の9月にやっと大暴れしてくれました。

そんなまだまだな大山を大きく育てるべく矢野監督は今シーズン開幕から大山を4番に据えて調子がでなくても辛抱して4番で使い続けるつもりなのがファンの私達にも感じ取れます。

この少年もそれをよくわかっていて「春の大山」は調子が悪い、でも辛抱すれば必ず調子がよくなるっていう思いが詰まっているようです。

大山への愛情がせまってくるような詩です。ほんとジーンとしちゃいます。今大山はどんどん良くなっています!

阪神ファンの心を鷲掴みにするこの詩を解説してくだって感謝感謝です。



だわさんさん。

コメントありがとうございます。
補足して頂いた点、野球にあまり詳しくない私は単に「相手のエラー=ラッキー」ととらえていました。

「ホームランに、ヒット たまにダブルプレイ」 + + -
「ダブルプレイにキャッチャーフライたまに相手のエラー」 - - +

というイメージ逆転の対句でユーモアを見せているのかと思っていましたが。
ご指摘のような、芳しくない状況の中でも大山への期待を捨てない、どこまでも熱い応援の気持ちが表現されているのかもしれないんですね。
そう考えるとまたこの詩の味わい方が変わってきますね。
新しい解釈を与えて下さり、ありがとうございます!

そして、大山選手のご活躍、おめでとうございます。
作者のお子さんをはじめ皆さんの期待が、きっと届いたんですね。
私もささやかながら、大山選手の益々のご活躍をお祈りしています!
こまちょふさん。

大山選手の詳しい情報コメント、ありがとうございます。
だんだん大山選手をとても好きになってきた私がいます。

この詩の「春」という季節は、〝まだ序盤〟という意味だけではなく、〝夏男大山の雌伏のとき〟みたいな意味が込められているんですね。
だとすると、詩の全体に通っている、どこか甘やかすようなユーモアの感じも、大山への期待・好意と隣り合わせの〝若干の「何やってんだ」感〟が垣間見えてくるような気がしてきます。
特に2連は、これから打つという期待をじりじりと焦がし、〝でもやっぱり春も打ってほしい〟という期待を見事に表現している感じがしますね。1連→2連の順序による表現が良く効いています。

また新しくこの詩の魅力をみつけることができました。
ありがとうございました!
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。