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ライク・ファーザー、ライク・サン。(Like father, like son)

久々に実家に帰った先月のことだ。
父親の誕生日も、母親の誕生日もずいぶんと過ぎてしまったから、二人分の土産を持って帰った。
数年前に和解した父親とは、共通の話題が多くあるが、その中でも二人ともウィスキー好きで盛り上がる。
「イチローズ・モルト」という埼玉県の秩父にある秩父蒸留所で作られている人気のウィスキーがある。
有名なものは高価だし、品薄でなかなか手に入らない。
父親は以前からそれを飲みたがっていたので、僕はあるリカーショップでその最も安い入門版のようなボトルを買っていた。
とはいえ4千円ほどするので、まあまあ上等なスコッチ・ウィスキーも買える金額だ。

そんな父親からの反応は中々ヘヴィーであった。
「おう、ありがたいけど飲めないんだ」
「またガンが見つかったようで、来月から何度か手術なんだ」
「ショックでそう告げられた日に、マックでダブルチーズバーガーを食っちゃったよ(笑)」
そこまで深刻ではないように気遣うものの、なんとも重たい空気になった。

母親も心配しているようで、父親がトイレで席を離れたときなど、色々な情報を伝えてきた。
何かあった時に連絡する連絡先を2つ病院から聞かれたので、自分と僕との電話番号を一応伝えている、とか。

そんな母親のことも心配だ。
今住んでいる田舎では車が必須だし、そうなると運転できない母親ひとりでは厳しいだろう。

いきなり現実を突きつけられた。
確実に大人になることを要求されたかのような。
もうすでにアラフォーの大人だけれど、結婚もしていないし子供もいない身で、何かを覚悟するって場面が今までなかったからだ。
何ができるでもなく、僕はこう話していた。
もうあと何人かは彼女を見せにこなきゃならないんだから、もう少し長生きしてくれよ、と。

晩飯のあと、父親はやっぱちょっとだけ飲もうかなと言い出し、母親も便乗し三人でほんの少しだけそのウィスキーを開けた。
薄い水割りなのにずっしりと来る飲み応えだった。
芳醇な香り、コクのある甘み、口の中にしばらく続く香りの余韻の長さ。
ウィスキーは何年も何十年もかけて樽の中で熟成していく。

そのうち、父親からこんな事を言われた。
うちの家系の男は総じて早く死ぬ。
大体が60代で死んでるって事は、俺もそこまでは長くないはずだ。
親父と酒をく見交わすことがあと何度できるのだろうか、と考えた。
そして親父が30歳手前のときに生まれた自分は、その傾向からするとあと4半世紀くらいで死んでいくのだろうか。
あっという間だ、25年なんて。

人の命は儚(はかな)い。
そして誰かと何かを共有できる時間なんて、更に短い。
生きているなら、華やかで在りたい。
味わい深く、芳醇な生き方をしたい。
そんな今、何をしたいんだろう。
自分に何ができるんだろう。
本当はどこに行きたいんだろう。
ほろ酔いの中、自分に問い続ける。

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