白萩の大姐御

 裏庭に続く西側の角に、白萩が咲いている。年ごとに勢いを増して、もう背丈はニメートルを越した。春には自在に伸ばした細い枝先まで、びっしりと若芽を吹きだす。緑の勢いは夏の陽を浴びてますます盛んになり、その生命力は恐れを知らない猛々しさ。梅雨時に裏庭に行くときは、、陰険な関守のチェックを受けるような覚悟がいる。じっとりと雨粒を含んだ枝で、無遠慮に身体をなでられる。必定、水も滴る美女となってしまう。
 月の美しい夜、月光と競うように白花を微塵に輝かせて、この時とばかりに花の神の姿を立たせる。いつからか、私の秋の泪のような白萩の花という、薄幸なイメージは消えてしまった。
 与謝野晶子を鉄幹は「白萩の君」と呼んだ。、なるほど、旺盛な創作活動の傍ら、十一人の子供を育てた晶子の姿を彷彿させる。若き日の情熱のおもむくままに、鉄幹との恋を成就させた晶子のひたむきさ。そして、深い挫折感を内蔵しながらも、誇り高く月下の詩神の幻を、わがものとして生き抜いた晶子の強い意志。

萩の枝たわめるほどの重さとも君の無言にしばられてゐる
萩の風白く濁りて夜半にさす月光はこの世の外の言葉の羽搏き

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