この藍色の鉢

 古代の地中海の海の色に染まってしまったのだろうか?それとも海神ポセイドンの盃の一つだったのだろうか?
そう、青いアネモネの花を飾るのにぴったりな鉢だと思った。ところが、とても気難しくて、飾るどの花も受け入れなかった。
 私は身めぐりに花がないと、どうしようもなく失速してしまう。雪が降って、町にも行けない。残り少ない花を使い、近くのまだ固い蕾の枝をアレンジする。
柘植の枝を豪快に切って、白のミニアルストロメリア、と深い紅のスプレー菊を挿したもの、お雛様の横には白の枝垂れ梅と庭の水仙という古典的な香りの取り合わせ。玄関には、土佐水木の枝の数本に、白のアルストロメリアと水仙。今、早春らしく、土佐水木は、古草子が放つような幽かな光りを含んだ薄黄色の蕾を開き始めだした、
昨日、やっと花を買った。
しっかりと、春の花束を抱きながら、そして、見つけた。
まるで童女が、ままごと用に摘んだような、短い背丈の菜の花が、小さなビニール袋に入れて売られていた、
この藍いろの鉢に溢れるように、きままに活ける。
きらきらと黄金の冠をかぶった少女たち。菜の花の少女たちはもう、どんなに意地の悪い春の足取りも、気にすることなく、陽気な笑い声をたてている。
それを受け入れた藍色の鉢の実にスマートな姿。

藍甕の藍ぶつぶつと昏き土間隠るる恋古き恋光らぬ恋
日溜りの滅びんとする愛の像ゆらゆらと燃やし三月のかげろふ
あまのはらよからし菜の畑よきさらぎのベンガルの野は空想に近し

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