遠い祀りの歌

 空の藍色が深まっていく。
薄い紗のトーガをまとった繭雲たちは、ローマ貴族のような優美な姿で、自在に空の劇場を行き来している。
突然に、東の片隅に追いやられた羊雲たちは、羊飼いの杖の動きを量りかねて、不機嫌に黙りこくって動かない。一体、何が起こったのだろう。今日はとりわけ、高い所を吹く風の流れが速いのだ。
 次々と鳥の集団が集まってくる。この季節なればこそ、いずれも長い旅のための編成が整った見事な飛行ぶりだ。よく見れば、鳥たちは、いずれも嘴に細い枝をくわえている。今は、この世の空を飛ぶことのない鳥となった、仲間たちの残した、思い出の印の小枝だ。
空は鳥たちの無言の挽歌で埋まる。
ひかりの幻術をほどこした、美しい空中庭園からの、かぐわしい香りが空に満ちてくる。
鳥座の星雲は銀の炎を上げる。鳥たちはゆっくりと旋回しながら、小枝を炎のなかに投げ込んでいく。
今夜は新月。漆黒の闇に鳥の歌声が流れる。
 渡り鳥の一行は、この空の焚火が行われる日に、それぞれの目的地を目指して長い飛行の旅を始めるのだ。
透きとった銀の炎がひときわ燃え上がる。

呼びあひし鳥の言葉の散らばれる秋の山昏く紅葉す
重りゆく心ささへる軸足と一行の詩をそらんずる 鳥よ
はろばろと鳥の視線のゆきかへる空と思へば空まぶしきよ
くちばしは仄かに梨の香の満ちて夕べの鳥は薄きしろがね

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