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My Weekend Reading List (11.22.2020)

パンデミック下に紙版をローンチした新聞の実践

南アフリカのロングリード/調査報道に特化したデジタルメディア「Daily Maverick」が、パンデミック下に紙の日刊紙をローンチした事例を解説している記事。

タイトルに“A Case Study in Product Thinking”とある通り、ジョブ理論やOKRなど、プロダクト開発で用いられる手法をいかに活用し、紙版の試験販売を進めたかが紹介されている。

例えば、市場や想定顧客への調査から「週末にじっくり読めるような、良質で信頼できる紙の新聞が少ない」というジョブを発見し、解決しようとプロダクトを開発していった話や、配布場所であるスーパーマーケットでの販売データとNPSを合わせて試験販売の成果を測定した話などが紹介されている。

一方、紙版のローンチが「自分たちの長尺の分析や調査報道コンテンツは、紙と相性が良いはず」というファウンダーたちの直感や衝動から始まったとも書かれていて、興味深い。記事中の見出しに“Start with feelings. End with facts.(感情から始め、ファクトで終える)”とある通り、直感や衝動から出発し、ファクトをもとにロジカルに戦略を磨き上げた素敵な事例だ。

台湾における誤情報・偽情報との戦い

台湾がどのように誤情報や偽情報などのフェイクニュースと戦っているのかが紹介されていた。“a whole-of-society approach”と紹介されている通り、企業や政府、NPOなどが協力している取り組みから、学ぶことは多そうだ。

例えば、台湾のシビックコミュニティ「g0v」が展開するプロジェクト「Cofacts」は、LINEやWhatsapp上で誤情報や偽情報と思われるメッセージを報告できるプラットフォームを提供している。報告されたメッセージはボランティアによってファクトチェックされ、オンライン上のリポジトリで保管、共有される。

また、偽情報や謝情報の拡散を防ぐだけでなく、積極的に信頼に足る情報にもとづく議論を発信していく動きもある。例えば、市民の運営する「vTaiwan platform」上で、政府が議論をオーガナイズしたこともあるそうだ。このプラットフォームでは、コンセンサスにたどり着いたディベート、極端な意見が最小限に抑えられているディベ=とがハイライトされるとある)

もちろん、オードリータン氏も偽情報との戦いに取り組んでいる。彼女はパンデミック下で、Centers for Disease Control (CDC)とも協力し、“humor over rumor(噂にはユーモアを)”と呼ばれるキャンペーンを展開した。その名の通り、偽情報が出てくるとすぐに、ユーモア溢れるネットミームを作成し、シェアを促した。

記事の後半にもある通り、偽情報や誤情報との戦いは、一社の企業や一人の個人、あるいは一国の政府だけでは、もはや困難とも言える。ただ、この記事のリード文にある通り「With money and effort, a shared sense of truth can be reclaimed.(お金と努力があれば、真実という共通認識は、取り戻せる)」可能性もあるのだと、台湾の事例は教えてくれる。

最高のファーストデート、別れ際のレイシズム

The New York Timesの恋愛コラム「ModernLove」から生まれたポッドキャスト番組(最近はAmazonPrimeでテレビシリーズもストリーミングされている)が面白い。今回は、とあるアジア人カップルが、内なるレイシズムについて対話を重ね、結ばれたストーリーだった。

登場するのは、台湾系アメリカ人のSarahと中国系アメリカ人のAndrew。二人は、最初のデートで意気投合、9時間にわたる最高のデートを楽しんだ。が、別れ際にSarahはこう告げる「アジア人の男性とデートしたことがないから、どうすればよいかわからない」と。

Andrewは、“Shy away(逃げ出す、誤魔化す)”のではなく“Confront(向き合う)”した。「せっかくの機会を逃したくない」との想いから、二人はお互いの生い立ちやルーツについて話したそうだ。

そこで明らかになったのは、二人とも白人がマジョリティな環境で生まれ育っていながら、Sarahは“Difference is a weakness(違いは弱さである)”と米国に馴染むよう教えられ、アジア人であることをポジティブに捉えたことがなかった。一方、Andrewsは“Difference is a strength(違いは強さである)”と自らの人種や文化を誇るよう教えられてきた。

結果的に、二人はこれまでを共有したうえで、共に時間を過ごし、数ヶ月後に婚約にいたる。Sarahは「内なる悪魔が彼を好きになることを妨げていた」と振り返り、ありのままをさらけ出しても逃げないAndrewの自信に救われたと語る。そんな彼女の変化を見つめていたAndrewの言葉が良い。

Sarahが、成長する過程で形成してきた考え方を、僕は肯定できない。でも、少なくとも彼女と一緒に未来を形づくっていくことはできる。

ちなみに、アジア人のデーティングと内なる人種差別というテーマでは、アジア系オランダ人ジャーナリストも動画を制作していて、大変興味深かった。アジア系男性と一度も付き合ったことのない彼が、他のアジア人やカウンセラー、家族と会話を重ねながら、自分の内側を探求していく内容だ。英語字幕もあるので興味のある人は是非観てみてほしい。

ニュースレターという“新天地”

今週は、BUZZFEEDのHuffPost買収や、Vox.comの共同創業者であるEzra Klein氏のNYT移籍が、日本のメディア界隈でも話題になっていた。

上記の記事では、NYTを新天地として選んだ編集者や幹部たちに言及している。

加えて、今後彼らの“新天地”として伸びる可能性が考えられるのが、Substackなどのニュースレタープラットフォームだ。ちょうどEzraがVOXを去ると発表する一週間前、Vox.comの共同創設者Matthew Yglesiasは、VOXを去り、自身のニュースレターを始めると語った。(Voxのポッドキャストのホストは継続するという)

また、10月にはThe Interceptの立ち上げにも携わったGlenn Greenwald氏は、同メディアを去り、今後は主にSubstackで記事を書くと語っている。

いわゆる“編集長や幹部”ではないが、元The Vergeで人気ニュースレターThe Interfaceの発行人でもあったジャーナリストCasey Newtonも、9月に独立し、Substackで有料のニュースレターThe Platformerをローンチした。

もちろん、NYTなど既存メディアでの安定したポジションよりも、有料ニュースレターで孤軍奮闘する道を、多くの人が選ぶとは考え難い。しかし、有力メディアの編集長や幹部、一定のファンと信頼を獲得しているジャーナリストにとって、一つの選択肢となっていることは確かだと思う。

最後まで読んでいただきありがとうござました!