『さよなら すべてのハルマゲドン04』 〜エホバ推しが、なぜ生じたのか〜
古代の中東には、ほんとうに様々な神がいて、ぶっちゃけ多神教の世界であった。それを踏まえて実は聖書も「最初から最後まで多神教の世界観」で書かれているのだが、どうも有能な歴代の編集者がいて、
「聖書は一神教の世界である」
と後代の人間に思い込ませるのに成功してしまったから、始末が悪い。
そうなのだ、僕たち私たちはすっかり騙されて、「全知全能の唯一神」がいるかのように、信じ込まされているわけだ。
本当はそうではなく、聖書の中で書かれているのは、
「ヘブライ人はエホバを崇拝している。カナン人はバアルを崇拝している。ペリシテ人はダゴンを崇拝している。
そして、一番強くて最強で、すっげーのはエホバなんだぜ!」
ということなのだ。別に「唯一神」と言いたいわけではなく「一番強い神、一番えらい神」だと言ってるだけなのだけれど、それを編集で「唯一神」のように思わせている、ということなのである。
ちなみに、「うちのエホバが、いちばんすっげーんだぜ!」と言っているのは、ヘブライ人、つまりのちのイスラエル人たちであり、その祭司階級らが、自分たちの神を特別に持ち上げた聖書を書いたり、編集してきたと考えられている。
まあ、この段階で「内輪の神を、そりゃあ一番に持ち上げるわな」と冷静な読者諸君なら気付いてしまうだろうが、実はもう一段階、ここには裏事情があるのだ。
そう!エルとエホバの二人の神がいる話である。なぜ二人いたのに、一人になってしまったのかという事情を説明しよう。
中東の神のざっくりとした特性として、以下のように理解すればいい。
<エル・エロヒム>
■ 神もしくは神々の最高神である。
■ 天地の創造主である。
■ 抽象的・概念的な非人格の神である。
■ 時代的には古い信仰である。
■ イスラエル北部でもともとは信仰された。
<エホバ>
■ 雷や火山などのように実態エネルギーを下界にぶつけてくる。
■ とにかく自分だけを信仰しないと怒る。
■ 異教を信じる者を滅ぼしつくそうとする。
■ 嫉妬深い。ねちこい。
■ イスラエル南部で信仰され、司祭階級が崇拝を担った。
まず、中東神序列でのナンバーワンは「エル」であった。多神教の中で、いちおう、一番偉いのが「エル」なのだ。
エルは古い時代の神なので、当然創造神話に関係する。聖書の中では、どちらかといえばドライに天地を創造する神で、あまり感情を表に出さないあたりが自然神らしい。
もちろん、エルものちの時代になると人間っぽい性格づけなどがなされるので、最初から最後まで無感情なわけではない。
ただ、ここで注目すべきは「イスラエル北部系の神」だったということだ。
他方、エホバのほうは、「エホバの証人」であればよく知っているえげつない神だ。怒りっぽく、自分以外の神を信じるとキレてめちゃくちゃするというDVモラハラ神である。自然災害と結びついたのか、火とか雷とかが大好きで、災害を起こしまくる。あー、ノアの時には水攻めもあったな。
この神は、「イスラエル南部系の神」だったという。古代イスラエルでは司祭階級によってがっつり祭られていたので、当然律法とかと結びついた。
さて、聖書において、エルとエホバが併記合体されながら書かれ続けてきたのにはちゃんと意味があって、流浪の民であったヘブライ人が、エジプトに囚われたり、そこからモーセによって脱出できたり、いろんなことがあって、最終的に自分たちの王国を作ることができた、という成功体験を得ることになるわけだが、その「ダビデの王国、イスラエル」は当然、
”北イスラエルも、南イスラエルも含んだ、統一王国”
だった。
ついでにいえばソロモンのときまでそうだ。
統一王国なので、ここまでの流れでは当然、エルもエホバもどちらも大事なのだ。
ところが、このあとダビデ・ソロモンの統一王国は
”北のイスラエル王国と南のユダ王国に分裂し、なおかつ北イスラエルはアッシリアに滅ぼされる”
ということが起きたのだ。
ここ大事。試験に出るぞ。
なぜ大事かというと、この段階で、北王国の10部族がバラバラになり、崩壊してしまうからである。
ここで、懸命な読者と名探偵コナンくんならすぐ、気づくはずだ。
「あっれれー、おっかしいぞー」
と。
北イスラエルは先に滅びた。ということはアレだ。エル信仰はさきに滅んだということだ。
残ったユダ王国で信仰されていた神は「エホバ」だった。だからエホバが残ることになる。
神殿祭司の連中は、必死こいて書くわけだ。エホバに従え、と。
だって、エホバ側の人間しか残っていないからである。
神殿祭司は、その後のことも心配でたまらない。
そうでなくても異民族に狙われている。北イスラエルが滅ぼされたのは、たぶん神の意思に従っていないからだ、俺たちもさらにエホバに祈らないとヤバイ。なにせ祈りまくろう、従いまくろう、そうしないとやられるに違いない。
そう思ったはずだ、そして、それを示す伝承・記述・資料を大事にまとめた。もちろん、統一イスラエル時代の資料もあるから、エルのことも残っているが、より”推し”なのはエホバのほうだ。なので、だんだんエホバよりの編集になってゆく。
ところが、最終的に残った南のユダ王国もバビロニアによって滅ぼされてしまい、おそらく神殿祭司たちは必死こいて資料を持ち出したに違いない。
そして、強烈な逆成功体験、被虐体験を植え付けられることになったのだろう。
「エホバに従わないと、マジ滅ぼされる」
と。
のちに神殿の再建が許されて、ユダヤ人(つまりユダ側の人たち)が形成されてゆくのだが、もうこの頃になると思考回路がショート寸前で
「エホバ一択」
になっているのがわかるだろうか。
そうして、集まった資料、残された資料がそれぞれの時代ごとに編集されて「旧約聖書」が出来ていったのである。
そこに残っている物語は、意図的に編集されている。
そう、エホバ推しという編集である。
エル推しの人たちは、もう死んでしまったのだ。
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ちなみに、エルやエホバの時代における「原罪」の考え方について、補足しておこう。そもそもハルマゲドンは原罪のリセットなわけだが、ユダヤ教では、人類は善悪の知識の木から実をとって食べてしまったけれど、
「ちょっとやらかした」
くらいのレベルでしか考えられていないという。なので、「裸で恥ずかしい」とか「死ぬようになった」とか、それくらいで充分罰を受けているという解釈のようだ。
イスラム教だと、そもそも「原罪なにそれおいしいの?」とまったく気にしていないという。
なので、ユダヤ教では「ハルマゲドン」的な終末は、やっぱり「エルサレムの神殿を再建するぜ!おー!」という一点に集中している。それを救世主メシア(誰かしらんけど)がやってくれるという希望願望で、他の地域の人類についてはそもそも「知らんがな」の世界観だと言うことになる。
彼らは最初から最後まで「統一王国イスラエルの復活」のことを中心に考えているのだ。
一方イスラム教の「ハルマゲドン」はもっと変わっている。
イスラム圏に侵入してくるキリスト教徒たちがいて、それと戦うのが「ダービク」という終末戦争で、最終的にイスラム教徒はキリスト教徒に勝つ。
そこにイーサー(イエス)が復活して再臨して現れ、偽キリストを倒すのだそうだ。
ちなみに、イスラム教はアッラーを信じているので、つまり「エル」の意思はこれだ、ということになる。
ハルマゲドンが起きるのか、起きないのかをメインテーマにしてきたこの連載だが、ここでみなさんは3つのパターンを自由に選択できることがわかったと思う。
1) キリスト教的、人類総リセット計画
2) ユダヤ教的、イスラエルだけで起きる終末戦争
3) イスラム教的、イエス復活してあえてのキリスト教徒を攻撃するやつ。
の3つだ。
みんな、信教の自由があるのでどれでもチョイスしていいぞ!
(つづく)
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