letter 『old song 里の数え唄』について
故郷の田畑を眺めていた時に、ふと浮かんだ唄です。
初めは田植え唄のイメージでしたが、
一連の作業を辿っていくと、春夏秋冬里の景色が現れました。
春先のまだ冷たい風の中、畦を走るこどもたち。
その横で、おとなたちは春作業を始めます。
淡い色の空の下で、芽吹いたばかりの可憐な草花が揺れています。
そぞろ歩きが心地よい夏の夕暮れ。
田んぼに水を引く掘り沿いの草むらには、密やかな光りを灯し舞う蛍。
ほんのひと時、遠い昔を懐かしむ。
彼岸花が枯れる頃、空には鱗雲。
稲穂は頭を垂れ、斜めに射す黄金の陽に揺れています。
刈り取りの終わる頃、遠く北の空からやって来る雁の群れ。
落穂を拾い、冬を越します。
倉は豊かに穀を収め、里人はまた春を待つ日々を送ります。
祈りを捧げ、そして祝い、静かに静かに酒を酌みながら。
春夏秋冬、里の唄。
里人が唄う心の音。
『old song 里の数え唄』は、こうして生まれました。
ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。