まとめノート作成方法

1 はじめに
 まとめノートを作成する方法について教えてほしいというご意見をいくつかお受けいたしましたので、私なりのやり方をお伝えします。もっとも、勉強法には向き不向きがあるため万人ウケはしない(むしろほとんどの人には刺さらない)と思いますので、ご了承ください。
 まとめノート作成に対してはネガティブな意見も多いので、まず先に、一般的に語られるデメリットをどのように克服したかという観点から3つほど述べた後、メリットを述べたいと思います。

2 デメリットその1 ——時間がかかること
 まず、まとめノートを作成するには膨大な時間がかかります。
 基本的な作り方は、基本書をざっと通読して司法試験的に重要な論点をピックアップし、他の基本書・百選等を読み内容を理解した上で、短く自分の言葉で表現していくという作業の繰り返しです(使用した基本書は最後に載せています)。慣れればある程度短時間で作れるようにはなりますが、最短ルートで司法試験に合格するという目的との関係では時間的効率の悪い勉強法だと思います。
 こうした勉強法が、現行司法試験の「正攻法」ではないということは、私も当然意識していました。
 それでも、あえて私がノートを作成していたのは、端的に言えば楽しかったからです。完全に向き不向きの問題なのでしょうが、私は、自分が引っかかったり知らなかったりした論点を調べ、時には友達や先生と議論して、より完璧な一元化教材を作成していく作業を苦痛だと感じませんでした。そのため、膨大な時間を楽しみながらノート作成に充てることができました。
 ロー生には時間があります。可処分時間をいかに苦痛なく法律の勉強に充てられるかという観点からは、まとめノートを作成するという勉強法は自分に合っていました。精神的にも、大きな苦痛なく司法試験の勉強ができるという意味でいい勉強法だったと思います。

3 デメリットその2 ——頭に残らない危険性
 他人の書いた文章をそのまま書き写したり、体裁を整えることに力を注いで満足してしまったりすると、内容が頭に残らない危険性があります。
 私も、かつて漫然と市販の予備校本をほぼそのまま書き写したようなまとめノートを作成してしまったことがあるのですが、内容が定着したとは到底思えず、この作業は無駄だったと感じています。
 では、どうすれば頭に残るのかというと、きちんと基本書と判例集を(できれば複数冊)読んで、自分の言葉で論証を作成することが大事です。定義や判例の重要な言い回し以外はほぼ全て自分の言葉で言い換えて構わないと思っていました。他の論証集も、確認に見る程度でいいと思います。他人の言葉を覚えて吐き出すのではなく、「要は、こういう話」というイメージでまとめを作成していきます。
 自分の言葉でまとめた論点は、その点に関する演習問題や過去問を解いたのと同じくらい定着します。頭を使って演習しながら、ついでに一元化教材もできていくという一石二鳥状態が理想的だと考えていました。
 それと、これも受験業界の定説とは異なりますが、自分で作ったノートを見返したいと思えるような「作品」に仕上げることも結構大事にしていました。印刷して何度もページをめくり、友達にも見せて、気に入らない箇所を修正していく中で自然と知識が定着していきました。

4 デメリットその3 ——司法試験との距離感を意識できないこと
 基本書を読んで勉強するというやり方をする以上、司法試験に直接役立つ知識だけを的確にまとめることは困難です。試験に出にくい論点を必要以上に深堀りしたり、逆に試験的に重要な論証が薄くなっていたりと、使用する基本書のテイストによる影響をモロに受けます。
 この対策として、他人のノート、予備校本、過去問解説等を見ながら、自分なりに司法試験的重要度の設定をしていました。特に、他の受験生の多くがどの学説に立ち、どの程度の厚さの論証を使ってくるのかという点は必ず調べておくべきです。換言すれば、「司法試験的相場観」を何らかの方法で養う必要があるということです。
 とはいえ、自力でそのような感覚を身に着けることには限界があるので、自主ゼミを通じて、予備校を利用している友人に色々教えてもらったり、まとめノートを作っている友人とノートの交換をしたりしていました。京大ローのこうした空気感には非常に助けられました。
 なお、「司法試験的相場観」を掴んだからといって、必ずしもその立場で論じる必要はないとも思っています。せっかく基本書を読んで本格的に勉強したのだから、他の受験生よりも良い答案が書けると確信した論点は、積極的に少数有力説に触れるなど濃い論証を作成して高得点を狙うようにしていました。

4 メリットその1 ——最高の一元化教材が手に入ること
 まとめノート作成の最大のメリットは、自分用に特化された一元化教材が手に入ることです。司法試験業界は、大学受験業界のように、1冊だけでほぼ完璧に仕上がるような高品質の教材が多くないと言われています。そのため、どの教材を用いても、自分流にアレンジしたい箇所が必ず出てきます。多くの受験生は、論証集に手書きで修正を加えたものを使っているかと思いますが、見やすさ、再修正のしやすさ、書き足せる情報量の多さなどを考慮すると、自分用の教材の質としては、手書き補正を加えた論証集よりもまとめノートの方が優れていると思います。最後の最後まで使用できる一元化教材として、まとめノート以上のものはないと思っています。

5 メリットその2 ——勉強計画が立てやすいこと
 デメリットその2で述べたように、まとめノートを作成する際には、演習問題を解いているような気持ちで頭を使う必要があるのですが、それでも論点ごとに淡々と作成していくという形式的作業の側面は否定できません。しかし、裏を返せば、形式的作業であるということは非常に勉強計画が立てやすいことを意味します。予備試験、期末試験、司法試験といったゴールから逆算して、どの時期までに、どの科目のノートをどの程度の密度で作成しておくのか計画を立てて日割りで実行していけば、途中で気力を失うリスクも小さくなりますし、漫然と教科書や論証集を眺めているだけの無意味な勉強時間を減らすこともできます。
 また、無理に全科目のノートを作成する必要はなく、自信がない科目や手持ちの論証集に満足できない科目・分野に絞ってノートを作成するのも有効だと思います。このように、アウトプットを見据えた勉強計画を立てられることもまとめノート作成のメリットだと感じます。

6 メリットその3 ——当該科目の自信がつくこと
 最後に、精神論かもしれませんが、自作のまとめノートを作成した科目は得点源にできるという自信がつきます。市販の論証集と自分のノートを比べてクオリティの差を自覚していればなおさらです。ノート作成に費やした膨大な時間も、試験直前まで自信を支える根拠になります。勉強量が目に見える形で残るということも、案外馬鹿にできないメリットだと思います。

7 結語
 以上、まとめノート作成のデメリット及びメリットを述べてきましたが、この勉強法は、ローなどに通ってしっかり勉強する人向きの方法だと思います。私は、上記以外の勉強は、ローの予習復習、司法試験過去問(新司の半分程度)、短答過去問(1周)程度しかしませんでしたが、司法試験にはかなり上位で受かりました。
 途中で述べた通り、私は、このまとめノート作成という勉強法が苦痛でなかったので、このやり方で勉強時間を稼ぐことができました。
 今後大学受験業界のように高品質のまとめ本が増えてくれば、まとめノートを作る必要性は低下していくかもしれません。しかし、やり方を間違えなければ、まとめノート作成は楽しく実力がつく勉強法だと思います。
  「正攻法」でなくても、自分の性格や時代ごとの受験状況をよく理解した上で、使えるリソースを最大限に活用して自分に合った方法論を構築することが大切だと思っています。

【参考】使用した基本書等(通称で記載します)
●憲法
 通読したもの …新四人本、芦辺憲法、憲法百選Ⅰ・Ⅱ
 よく参照したもの …佐藤幸治憲法、長谷部憲法、判プラ憲法、憲法論点教室、憲法演習ノート、憲法上の権利の作法、憲法判例の射程

●行政法
 通読したもの …基本行政法、行政法百選Ⅰ・Ⅱ、芝池読本
 よく参照したもの …塩野行政法、宇賀行政法、大橋行政法、リークエ行政法、原田例解、ケースブック行政法、行政法事例研究

●民法
 通読したもの …佐久間総則、安永物権、道垣内担保物権、潮見プラクティス債権総論、潮見債権各論Ⅰ・Ⅱ、新問研、類型別、大島完全講義上巻、民法百選Ⅰ・Ⅱ
 よく参照したもの …潮見(全)、山本敬三総則、内田総則物権、ダットサン総則物権、佐久間物権、松岡担保物権、中田債権総論、債権改正一問一答、中田契約法、山本敬三契約法、内田債権各論、窪田不法行為、吉村不法行為、アルマ親族相続、ロープラ民法Ⅰ・Ⅱ、択一六法

●商法
 通読したもの …紅白本、会社法事例演習教材(演習除く)
 よく参照したもの …江頭会社法、会社法リークエ、田中亘会社法、商法ロープラ、会社法百選、会社法コンメ

●民訴法
 通読したもの …リークエ民訴、勅使河原読解、民訴百選
 よく参照したもの …重点講義、ロープラ民訴、ロースクール演習民訴

●刑法
 通読したもの …ハイブリッド刑法総論(基本刑法総論の方がいいと思います)、橋爪悩みどころ、基本刑法各論、西田各論、刑法百選Ⅰ・Ⅱ
 よく参照したもの …テキストブック刑法総論、西田総論、山口総論、山口各論、刑法事例演習教材

●刑訴法
 通読したもの …リークエ刑訴
 よく参照したもの …酒巻刑訴、古江本、刑訴百選、ケースブック刑訴


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