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AAEE"日本―ベトナムオンライン交流プログラム途中経過 (1) 状況観察

 現在開催されている、オンラインのベトナムプログラム。
 前回も述べたようにいろんな意味で「すごい!」の一言に尽きるプログラムであるけど、このプログラムに関係するそれぞれの視点から見るとたくさんの困難と努力があるんだ。

 先に伝えておくと、今回のオンラインプログラムの準備に代表理事である僕はほとんど関わっていないんだ。僕がほとんど関わらなかったプログラムは、これまでのベトナムプログラムでは一度もなかったよね。でも、今回はリーダーである葉奈、桃花、そしてベトナムの学生を中心にAAEEの本来の姿である「学習者中心」のプログラム作りに拘った。

【ベトナムオーガナイザーと日本のアシスタント視点】
 オンラインプログラムに変更になって、一時期ベトナムオーガナイザーのモチベーションが下がった話はしたよね。そこで日本のアシスタントリーダーである葉奈と桃花が、プロジェクトリーダーになり、もともとベトナムメンバーが作ったプログラムを最大限活かしつつ、オンラインでできるような形で再構築しようと試みた。このプログラムはそもそもベトナムの学生たちなしでは成立しないから、何よりも、ベトナム学生たちのモチベーションを上げることに注力した。結果として決まったテーマは”Future Orientation”(将来の進路について)。一国の今の教育を批判的に考察することを避けつつ、しかし「教育」をプログラムのテーマと掲げるための苦肉の策だったんだ。

 葉奈と桃花の必死の声がけにより再びベトナムメンバーがモチベーションを盛り返すと、一転、6名のベトナムの学生たちが最強パワーを発揮して一つ一つの活動を練り直してくれた。朝楓は分かり通り、僕たちが関わるベトナムの学生たちは、一つ一つの活動のために超詳細な手順書を作成する。その労力たるやとても大変なもので、一度それが出来上がると変更を加えることがなかなか出来なくなってしまうんだ。そして出てきた案は、なんと昨年から一転、アカデミック食の薄い、軽い「(文化)交流メイン」のプログラム構成であった。

 これを受け取った僕たちは、首を傾げつつ、一方で彼らがこの案を出してきた意図もよく理解できた。その背景は昨年のプログラムに遡るんだ。ベトナムの彼らは全員昨年のプログラム参加者だということは話したよね。
昨年は、一昨年の反省を活かしてSDGsの環境問題に真正面から取り組むアカデミック要素満載のプログラムとした。そうと知って応募してきたはずの日本学生ばかりのはずだったのだが、いざ始まってみると、内容的にも英語力的にも日本学生にとって難しすぎて大混乱に陥った。”すごい国”日本からすごい学生たちが来るという彼らの期待値に対して、日本の学生は明らかな準備不足のまま臨み、英語力でも圧倒された。その結果、最終的に友情は深まったものの肝心の”環境問題”についての議論は消化不良に終わってしまった。必死に準備を重ねてプログラムに臨んだ、ベトナムの彼らからすればたまったものではない。プログラム中に僕とベトナム学生だけで会議を開き釈明する場面もあった。報告書からも、いかに日本の学生が苦労したかその大変さはひしひしと伝わってきた。
 昨年の経験に照らし合わせながらプログラムを構築すれば、学術的要素を薄めて「交流」をメインにする判断は間違ったものではない。ただ、昨年夏以降、AAEEの日本側は、まるで高度経済成長期の日本のように急成長を遂げ、学生アシスタントの組織化が進むと共に、学生アシスタントがAAEEが求める人材について共通認識を持つようになった。その彼らの元に集まってくる学生たちの中のは「学び」に貪欲な学生集団ばかり。分かりやすく言えば、もはや英語力云々が問題になるような層の人たちでは少数派。

大瀬「そうですよね。私もこの一年間でのAAEEの変化には驚いています。今年2月にネパールの日本大使館を訪問した際も、大使に『こんな学生集団は滅多にお目にかかれない』と言わせたくらいですからね。」


 だからこそ、ベトナム学生からの「交流メイン」案を見たときには、葉菜や桃花は正直温度差を感じていたよ。でもね、その段階では、日本メンバーとしてどのような人が応募してくるか分からなかったから。当時はパンデミックでただでさえ大混乱中。あそこで「これでは日本学生はこのメニューでは満足できない」と言い切ることはできなかった。今になって思い返せば、あの段階でもっとじっくりと話し合うべきだったと言えるけど、あの当時はあれが精いっぱいだった。


大瀬「で、募集してみたらスーパースター集団集結笑。」


【日本の参加学生視点】
 そうなんだ。英語で教育の議論を展開することに目をぎらぎらさせている人たちだよ。考えてみれば当然なのだけどね。そのように宣伝したし、選考も超厳しかったから。
 事前準備も本人たちは「いろいろ問題があった」と言っていたけど、本番で提示される資料はこれまでにみたことがないほど丁寧に仕上がっている。「最低限」の基準がやたら高い人たちだ。そこに葉菜、桃花のような成長著しい、将来の日本のリーダーのような人が運営側にいれば、もはや僕の出る幕はない(笑)。皆で勝手に会議を開き、これまでにないスピード感を感じていたね!僕と参加者の距離は広がってしまったけど、これがAAEEの目指している姿だと思った。

一方で、予想通り、参加学生の不満(要望)も聞こえてきた。

大瀬「どんな不満の声ですか。もしかして、交流に関する話ですか?」

 まさに。繰り返しになるけど、テーマである「教育」をベトナム人と共にしっかり学びたいと思っている人たちだ。

「もっと教育についてまともに議論する時間がほしい」

と言われた。極まともな要望だよね。
 彼らは海外経験も豊富で「交流」の素晴らしさなどよくわかっているんだ。今更「交流」等と言わなくても、プログラムが始まれば勝手に交流して仲良くなりたい人と仲良くなるよ。それなのに、プログラム内容が決まり、蓋を開けてみたら交流ばかり。さらに、事前準備をできずに本番を迎え、現地でどたばたした昨年までとは一転、プログラム開始時にはすべての準備を軽々と終えていた。日々繰り広げられる文化交流活動は、彼らにとって「ゲーム」にしか写っていなかったのではないかとさえ思う。

 でもね、その要望に応えるのは実際にはとても難しいことなんだ。さっきもいったように、一つ一つの活動手順は、既に超完璧に出来上がっているから。それにプログラムが始まってから”メスを入れる”という行為は、活動を作成した学生に傷をつけコンフリクトに発展しかねない。そしていかなる理由であっても一度コンフリクトが深刻化すると、プログラム全体がもろくも崩れ去ってしまうことを経験しているからね。

大瀬「ネパールでもベトナムでもAAEEは様々なコンフリクトを経験してきますからね。ネパール地震復興支援のときなど、NHKなどテレビで特集されておきながら、現地でのコンフリクトに苦しめられましたからね。怖いですよね。」

 そこなんだよ。「怖い」

 今進行しているプログラム中にね、一部の学生たちにはここに至るまでの顛末ある程度話したの。そしたら一人の学生にこう言われた。

「うまくいかないであろう部分が明らかに予測できているのにそこを改善しないとはどうかと思いますが。」

 確かにその通りなんだ。AAEEはかなりのプログラムを経験しているから、「この展開が続くとこうなる」みたいな予測はある程度できる。だけど、プログラム開始後に”メスを入れる”ことのリスクも知っているので、「怖い」。

大瀬「で、もしかして、怖がってメスを入れることができずに、参加者のモチベが下がってしまうということになってしまっているのですか。それだとやばい・・・」

 人の心の中は中々見えないからね。よくは分からないけど、たぶん大満足している人はいないのではないかと思う。僕自身、後悔みたいなのはないけど改善点は多いと思っている。ただね。前回も話したけど、彼らはいろんなことをすごくよく見ているんだ。僕らがかなり苦労してここまで来ていることもよく理解している。それに応えようと頑張ってくれていることが見えて、もう感動の連続だね。この人たちは本当に思いやりのある人だと。心の中には不満があったとしても、結局真剣にこなす。それがどんなに幼稚に思えることであっても。そして完成度が高い。

 これまで朝楓と共に、グローバル人材に必要な資質などを語ってきたけど、彼らにはその基本がかなりの程度備わってる。難易度の高い”フレキシビリティ”も若いのに最強だよ。たぶんこのプログラムが終わればお別れの人も多いのだろうけど、たった一週間でも、素晴らしい学生と時間を共にしたおかげで日本やベトナムの将来に光を感じることができた。

大瀬「今までは、当たり前のようにベトナムメンバー主導で、しかもオーガナイザーの指示に従いながらプログラムを進めていくのに必死でしたが、少しずつ変わり始めていますね。
何よりももう3年以上AAEEに関わっている私からすれば、AAEEの更なる飛躍に繋がる展開を感じて、感慨深くなってしまいます。「継続は力なり」と本当なのですね。プログラムも残り数日になりましたが、最後には皆から参加して良かったと心から思えるプログラムになっていくことを願っています。」

次回、「オンラインだからこそ見えてくること」・・・の予定

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