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パルプスリンガーズ外伝【グラディエーター・ウィズ・アイランド】 #AKBDC #ppslgr

本作品は遊行剣禅さん「パルプスリンガーズ」二次創作であり、#AKBDC参加作品です。


……ザザーッ……ザザーッ……
……ザザーッ……ザザーッ……

「ワッザ!ナンデ!?」

規則正しい自然音で目を覚ました清朝末期中国風衣装に身を纏った男、A・Kは驚愕した。何故ならば……!!


照りつける太陽!一面に広がる砂浜!寄せては返す波!
どうやらここは何処かの浜辺のようだが……。

「俺確か、バー・メキシコでCORONA飲んでたはずだよな!?」

そう、A・Kは都市型創作物売買施設『Note』の胡乱窟、バー・メキシコでCORONAをラッパしてそのままテーブルで寝てしまい……目が覚めたらこの浜辺にいたという訳だ。

(落ち着くんだ、まずはここが何処か、バー・メキシコの皆に連絡は……)

何時ものようにカバンからスマホを取り出し位置座標を「ファック!?」
何たる事か!現在地はNote港湾区画のさらに沖合、洋上の離島である!当然の事ながら……「クソーッ!回線がつながらねえ!!」圏外だ!

幸いソウルアバターの起動は可能だ。だが……。

(グラディエーターで陸まで戻るのはさすがに厳しいな……!!)

A・Kの愛機「グラディエーター」は一般的な地上戦向きの機体で、長距離の飛行や航行用の形態は存在しない。R・Vは水中戦非対応の機体である「イクサ・プロウラ」で深海の名状しがたい怪物を討伐したが……。

「R・Vは別格だし、あの時は水中特化のやつらもいたしな……こんな時M・H来てくれたらな」

戦闘が起こらないにしても、陸までの距離を休み無しで飛行するのは操縦者、機体共に負担が無視できない。

「しっかし、クソ暑いな……31アイスも結局食えなかったしよ」

直射日光がA・Kの体温とストレスを上昇させる。
実はこの日は彼の誕生日であり景気づけに31アイスクリームを食べに行こうとしたら撤退しており、自棄になってバー・メキシコでCORONAをラッパした結果がこの異常事態だ。


……ザザーッ……ザザーッ……
……ザザーッ……ザザーッ……

「……この暑さはマジで死ぬだろこれ……」

……ゴオォーッ……ゴオォーッ……
……ゴオォーッ……ゴオォーッ……

「……誕生日が命日とかマジ勘弁……何の音だ?」

……ザパアァーッ……ザパアァーッ!!!!


――――――――――――


紺碧の海を割って姿を現したのは純白のクジラ……否、接近すれば各部に走るメカニズムのディテールや水晶体カメラを確認できるだろう。
そう、これはソウルアバターなのだ。

「あれはM・Hの……本当に来てくれたのか!」

A・Kはソウルアバターの共同通信帯域に接続すると、この不可解な状況を説明し救助を求めた。

「訳が分からないと思うが僕にもわからない、助けてくれ」
「とりあえず命に別状なさそうで良かったわ。今すぐ行くわね!」

コクピットで青みがかった艶めく黒髪を伸ばした女性……M・Hが返答すると純白のクジラめいた機体が力強く海中で躍動、そして3DCGモーフィングの如く流麗に変形し……。

自重を支える頑強な鰭足と前後左右を見渡せる首を備えたアシカめいた姿に変わる……彼女の愛機「カルティマリナ」の揚陸形態だ!


――――――――――――


「この辺の海の調査終わったからここで休もうと思ってたら、こんな事になってたとはね……」彼女は海洋学者であり、この島はちょうど調査エリア内中継地点のひとつであったのだ。
「この島があんたのホームグラウンドでほんと助かったよ」

純白アシカ機体から降下したM・Hはボディラインを強調する濡れたブルーベリーめいたウエットスーツの上から白衣を羽織っている。肩からは小ぶりのクーラーボックス。
一方A・Kは汗だくで屈強な体を砂浜に大の字に横たえ、何時もの清朝末期風衣装は砂まみれだ。

「とりあえず何か飲みましょう?」

そう言うとM・Hはクーラーボックスからよく冷えたラムネ瓶を取り出し、A・Kの頬に押し当てる。

「ワッザ!?冷たっ!!」
「うふふ」
「驚かすなよ……なんだCORONAじゃないのか」
「脱水が心配よ。今はだめ」


――――――――――――


「プハーッ……生き返ったぜ、ありがとなM・H」
「感謝は素直に受け取っておくわ」

既にA・Kは渡されたラムネを一瓶空にしている。M・Hもクーラーボックスから取り出した瓶を開けて飲み始めた。
「ところで、今日あなたの誕生日じゃなかったっけ」
「覚えててくれて嬉しいぜ。とんだ厄日だったけどな」
「どうせだからここで一遊びしてから帰らない?きっと楽しいわよ」
「エッ?」
「ちょっと荷物取ってくるから待っててね」
M・Hの真意をはかりかねているA・Kに無理矢理飲みかけのラムネ瓶を握らせると、彼女は一旦空間転送でソウルアバターに戻っていった。


「お待たせ!」
「……ワーオ……」
A・Kが驚くのも無理はない。M・Hは何やら大きな荷物を背負って戻って来た……しかも白地に青の刺激的なフリルを備えた水着姿である。
彼女は砂浜にビーチパラソルを突き立て折り畳み式チェアを広げると、入れ子構造めいた大荷物を広げていく。

「一番小さいバッグに水着入ってるから……私は先に泳いでくるわね!」
「ワッザ!水着ナンデ」
「多分サイズ合うのあると思う!」
そう言うと彼女はA・Kを置いて海に潜っていった。

「いいのかい?僕なら迷わずお誘いに乗るけどね」
A・Kの背後から現れたるは、端正な顔立ちと尖った耳が特徴の青年。背には弓を背負っている。
彼はエルフの王子。A・Kの質量あるイマジナリフレンドだ。
「うーん、まぁそれはだな……」
「大体君は女性としっかり向き合ったことがあったかい?」
「ファーストクラスのCAはべらして悪趣味なセルフィー送ってきた王子には言われたく……アッ、あった」


――――――――――――


「ほらナマコよナマコ!可愛いわ!」
「ナマコってあれだよな……可愛いのか?」
サイズの合う水着が見つかったA・Kは結局M・Hの後を追って波打ち際までやってきた。
「それぇ!!」M・Hが手にしたナマコをA・Kに放り投げる。
「おわっ!?」A・Kは手で顔を覆うが、左肩に直撃し粘質の音が響く!
「ウェー、やったなーっ!!」今度はA・KがM・Hにナマコを投擲!放物線軌道を描いて飛び……彼女の胸元に命中!粘質の音が響く!
「ひゃっ!……あら、滑り落ちない」「……Oh……」
ナマコは偶然にもM・Hの胸元で絶妙なバランスに保持されていた。


――――――――――――


ナマコを投げるのをやめた二人はぼんやりと浅瀬に浮かんでいた。

「A・Kって泳ぐの得意かしら?」
「普通かな。M・Hは泳ぎ得意そうだよね」
「じゃあ競争する?あそこの岩のところまでね!」
「やってやろうじゃないか」

A・Kには負ける訳にいかない理由があった。
彼はほぼ毎日ジムで体を鍛えているのだ、勝負に乗った以上相手がホームとはいえ無様な負け方は許されない。筋肉量の多い手足と強靭な体幹は水泳においても彼に力強いパワーをもたらす筈だ。
一方M・Hはすらりとした体型で筋肉量も大したことはないように見えるが、油断はならない。

「じゃあ……」
「私の矢が砂浜に刺さったらスタート、それでいいかな?」
「あっエルフの王子!OK、お願いね!」「よし、合図は任せるか」
木の上に立った王子が弓を引き絞り、矢を眼下の砂浜に向ける!

3、2、1……ヒュンッ! バシッ!!

木の矢がわずかに砂を巻き上げ浜辺に突き立った瞬間、二人は動いた。
A・Kはシンプルかつ力強いクロール泳法だ。想像以上に速い、全力加速でこのまま先行逃げ切りを狙う作戦である!
一方のM・Hはしなやかなドルフィンキック動作で人魚めいて優雅に泳ぐ。腕は後ろに伸ばしたままだ。息を継ごうとしたA・Kが一瞬訝る。
(ワッザ?これひょっとしてナメられている?それとも……)

彼は何らかの不安と焦りからさらにペースを上げたが、これは実際ミス!
そもそも筋肉量が多いという事は体の比重が大きい=浮きにくい事を意味する。必要以上の筋肉は水泳では不利!
これにペース配分のミスが重なれば、待っているのは後半での失速である。
「ぷはぁ、おっ先~っ」「クソーッ、追いつけねえ!」
M・Hが物凄いスピードで引き離していく。体力を温存していたのだ!
海洋学者であり水中行動にも慣れている彼女を侮るべきではなかった。


――――――――――――


「わたしちょっと気合い入れすぎちゃったかしら」
「いや、勝負事は本気で挑まないと」
「A・Kらしいわね!」
ふとM・Hがとある提案をする。
「……ところでこの島にもわたしが調査してるポイントがあるけど、一緒に行く?イールもいるかも」
「何それ面白そうじゃん」

調査ポイントに到着した水着姿の二人……M・Hは作業用ブーツを履いて白衣を羽織り、肩から機材を吊り下げている……は岩礁に屈みこみ、説明を始める。
「まずは水中カメラのチェック……あっ足元気をつけてね」
「うおっと、大丈夫だ」
A・Kが足を滑らせそうになる。さすがに裸足ではなく靴を履いているが岩礁は海藻などで滑りやすく、転べば危険だ。
「この辺はそんなに危ない生物はいないけど、念のためよくわかんないものは触らないよう……一個目あった」
「何か映ってる!?」
「慌てない慌てない。今表示するわね」
M・Hはデータを自分のスマホに転送し、画面に表示させる。
「たくさん魚がいるな、何て名前だ?」「ああ、それはね……」
「このヤドカリ可愛いと思わない?」「そういえばカニの名前でヤドカリがいるってマジ?」
大いに盛り上がった。「カメラはあと3個あるわ」「やったぜ!」


――――――――――――


「後はこれも」
M・Hは海面にぷかりと浮かぶ目印ブイを示した。この下に何かが設置されているのは明白だ。
「何これ」「罠」
「ワッザ?ワナ?」A・Kは意味するところがよく分かっていないようだが、M・Hは淡々とロープを引き上げる。「要はどんな生物が何匹かかってたか調べるの」海中から引き上げられたのは、小さな水抜き穴が多数開けられた箱型の仕掛けだ。
「ここに水槽を置いて……開けるわよ。噛むやつが入ってるかもしれないから気をつけて」「よっし」

中に入っていたのは……無貌のイールめいた細長い生物!それも二匹や三匹ではなく十数匹が絡み合っている!
「アイエエエ!暗黒イール真実ナンデ!?」原初的恐怖光景にA・Kが恐慌!突然の混乱に思わずM・Hも足を滑らせ転倒、怪我は避けられたものの……「しまった!!」そう、仕掛けの蓋は開いていたのだ。その結果何が起こったか……イールは幸か不幸か……転倒した彼女の上半身の上に落ちた。

「逃げるから捕まえるの手伝って!後で数えないと」
「ワッツ!?触っても大丈夫か?」
「ヌルヌルが凄いけど大丈夫……一匹そっちいった!」
そう言いながらM・Hは体の上を這いまわるイールを手づかみで仕掛けに戻していく。一見手馴れているがただでさえ滑る上に大量の粘液を分泌するので面倒だ。シチュエーションも青少年のなんかが危ない。
「これ、服につくとなかなか落ちないのよね……」
「クソーッ!粘液!」
ちなみにエルフの王子は高みの見物を決め込んでいるが、二人は目の前のことで手一杯なので抗議する者がいない。

「ウェー……こっちはこれで最後」
「こっちもあと一匹……あっ服の隙間に」
そう言いながらもM・Hは仕掛けに戻したイールを水槽に放り込み、最後の一匹を胸元から引っ張り出した。A・Kが捕まえて水槽に入れた分と合わせてこれで全部だ。

「10、11、12、13……14匹ね」
「結局何なんだ?イールみたいだが、凄く不気味だ」
A・Kが水槽に蠢く生物を指差すと(粘液まみれの)M・Hが解説する。
「これはヌタウナギよ。無脊椎動物と魚類をつなぐ生物で……わかりやすく言うと、魚の先祖がずっと姿を変えずに生き残ってる感じね」
「そんな凄いやつなのか」
「具体的に言うと、コノドントといって似たような生物の歯の化石が5億年以上前から残ってるわ」
「……ワオ……」
壮大なスケールの話にA・Kが驚嘆する……が、M・Hが話している間ずっと顔や胸元でヌタウナギ粘液が糸を引いていたので彼は気持ちが複雑になった。


――――――――――――


再び場所は砂浜に戻る……しかし、パラソルの下チェアに座るはA・Kのみ。「M・Hのやつ、『CORONA冷えてるから好きなだけ飲んでていいわよ』とか言ってどこ行ったんだ?もう日が沈むぜ……」
彼はクーラーボックスから新しい瓶とライムを掴み取り、ボウイナイフでライムを真っ二つに切断する。

「愛想を尽かされたかい、A・K」エルフの王子だ。軽口のつもりだろうがあまり気持ちの良いものではない。
「そんなことはないし、そういう関係でもないぞ!」
既に酔いが回り始めているが、まだ飲むようだ。
その時……「ごめんね、遅くなっちゃった!!」M・Hが大きなクーラーボックスを抱えて戻って来た!

「シーフード採ってきた」「どれどれ」「興味深いね」
エルフの王子も交えた三人で同時にクーラーボックスの蓋を開ける。
「魚がたくさんだ!エビもいるぞ」
「これはシンプルに塩で焼いて食べましょう」
「……む、どうやら大物を持ってきたようだな」
王子がエルフ感覚で大物の存在に真っ先に感付いた。中を覗き込んで確かめたA・Kが目を見張る。
「これって正鯛(訳注:マダイ)じゃん!?故郷の市場で見た」
「日本では相当珍重されると聞いたが」エルフの王子も思わず真顔になる。
「A・Kの誕生日だからね。これ釣るので遅くなっちゃったけど」
M・Hが事もなげに笑顔で答えた。


――――――――――――


日が沈み、空はもうすっかり暗くなってしまった。M・Hが用意した2つの焚き火が辺りを照らす。

「王子ー、そっちの火見ててー」
「お任せあれレディ!」
M・Hは片方の焚き火を王子に任せ、魚介を焼く準備に取り掛かる。
「魚の下ごしらえは終わってるから後は塩振って焼くだけね……この大きいエビは二つに割ったほうがいいかしら」
「M・H、包丁持ってきたのか?」
「いいえ、でも問題ないわ」
A・Kのもっともな疑問に彼女は即答すると、潜水作業用ナイフで大型エビを左右に両断!甲殻に覆われていた艶やかな身があらわになる。
「凄い、身がぎっしりだ」
「これなら凝った料理も出来そうだけど、調味料が少ないから」

火の上には既に即席の網焼き台が設置されている。
「火加減がいい感じになってきたから、しっかり塩を振って焼くわ」
M・Hは既に食材の串打ちと塩振りを完了している。あとは焼くだけだ。
「ところで貝の砂抜きもう大丈夫だよな?」
「大丈夫よ、全部同時に焼き始められるようにやってるから」
それを聞いて塩水容器からハマグリなどの二枚貝を引き上げるA・K。
「そうそう、こういう貝の焼き方にはコツがあってね……」
その時エルフの王子がM・Hに声をかけた。
「レディ、火が消えそうだけれどどうするかね」
「ちょっと仕込みたいものがあるから一度崩して熾火にしちゃって」
そう言うとM・Hは大きな葉で何か包んだものを取り出した。


――――――――――――


「「「乾杯ー!!!!」」」

三人が車座になってよく冷えたCORONAを開けた。網の上では既に魚介が美味しそうな音と匂いをたてて焼け始めている。
「やっぱり直火で焼くと美味しいよね……これはそろそろ食べごろかしら」
「うお、うまい……!そう言えば正鯛はどうなったんだ?」
「うふふ、それは後のお楽しみ」
「もったいつけんなよ」
魚介をつまみにCORONAを飲みながら軽口を叩き合うA・KとM・Hだったが、王子の一言で一気に緊張感が走った。
「二人とも、貝の口が開き始めたぞ」
見ると、火が通り始めたハマグリの貝殻がわずかに開きつつある。M・Hの目つきが厳しくなった。
「タイミングを見てひっくり返すわよ」
「ワッザ!?ひっくり返したら貝のだしが流れるんじゃ」
「その逆、今ならまだ塩水しか流れないけど放っておくと殻が勢いよく開いてせっかく出ただしが流れるの」
そう言うと彼女は開き始めたものから貝を裏返していく。
「貝の事に詳しいのだな」
「というより、M・Hは海のもののことにはだいたい詳しい」
感心しているエルフの王子にA・Kが補足的に説明する。そうこうしている間に汁がこぼれる事なく無事に貝が焼き上がった。一番大きな二つ割のエビも食べごろだ。
「ほら、こんな風にね」
「マジだ、美味しいじゃん!!」
「素晴らしいお手並みだ」


――――――――――――


食材が新鮮なので皆自然に食と酒が進み、あれほどあった魚介も気付けばもうほとんど食べ終わってしまった。
「……そろそろね」
M・Hが弱々しく燃える隣の焚き火に移動すると、不可解な行動をとり始めた……焚き火を破壊し、その下を掘り返している。
それを見たA・Kは訝った。「ワッザヘウ?」
一方エルフの王子は理由を知っているが、あえて黙っている。彼はA・Kのイマジナリ存在だが、自我が独立しているのだ。

戻って来たM・Hが何かを持っている……端的に言えば、大きな葉で何か包んだものだ。彼女はそれをA・Kのそばの大きな石の上に置いた。
「開けてみて……熱いから気をつけてね!」
「どれどれ……アッ正鯛の蒸し焼き!香りが良い!!」
野外でも調理できるように大きな葉で包み、砂利に埋めて焚き火で蒸し焼きにしたものだ。彼女はこれをエルフの王子と協力しA・Kに見つからないよう調理していたのだ!
「風味づけに酒とオリーブ油を少々、後ライムのスライスね。それ以外は塩とか使ってない」
「すげえな」
「まぁ刺身で食べるのが一番なんだけど、この大きさのをさばける包丁ないし」
「とにかく美味そうだ、食べていいかな?」
「勿論よ。A・Kの誕生日のために作ったんだから」


――――――――――――


楽しい食事の時間があっという間に終わり、焼き網が撤去された。
M・Hは皆が食べ終わった料理の後片付け(木串や蒸し焼きの葉を焚き火で燃やしたり骨や殻を地面に埋めているだけだが)をしている。
「ふーっ、美味しかったぜ」
「頑張って作った甲斐があったわ」
「最高の誕生日プレゼントだったぜ」
「まだあるわ」
焚き火を眺めながら呟くA・Kに悪戯っぽく微笑むM・H。
「カメラ回収してたらちょっと面白いのが映っててね……わたしもまだ最初の方しか見てないし、一緒に見ない?」
「……面白いのって?」
「まあ見てみて」彼女は動画データを大きめの端末画面に表示する。
しばらくすると、岩陰からタコが姿を現した。餌を探しているようだ。その数十秒後に反対側の岩陰からウツボが現れ、タコに牙をむき襲い掛かる!
タコも8本の足で締め上げて反撃、両者互角!「……ワオ」
「これどっちが勝つと思う?わたしはタコかな。器用だし力も強い、何より賢いし」
「いやいやウツボだろ。あの牙の並んだ口に噛みつかれたら終わりだぞ、それにあいつはイールだ」
「そのイールへの謎の拘りナンデ……あっ、タコが押さえ込んでる!」
「じゃあどっちが勝つかCORONA一本賭けようぜ!」
「その賭け乗ったわ……負けたらバー・メキシコで奢りね!」

なお、決着がつく前に動画記録が途切れた模様。


――――――――――――


雲一つない夜空に月が輝き、星が瞬いている。

「綺麗な夜空……」
「空はどこまでも繋がっている、僕の故郷とも」
「また柄にもない事を言うものだ」「ちょっとやめなさい」
A・Kの言葉に横槍を入れたエルフの王子を注意するM・H。やがて波打ち際に向かって歩き出してゆく。
その後ろ姿は月明かりに照らされ、どこか神秘的だ。
「……全ての生命は、海から生まれた」
そして彼女は語り始めた……海と、生命について。

「あの月を見て」
「……月……」
「月……特に満月の光には強い魔力があると言うが」
エルフの王子の言葉に答えるように、M・Hが口を開く。
「多くの海の生物は、満月か新月の夜に卵を産むわ」
「そりゃまたなんでだ」A・Kの疑問。
「大潮よ。ひと月で一番潮の満ち引きが大きくなるから、卵を遠くまでばらまけるの……これは月の引力の影響なんだけど」
「月の引力」王子がよく分からないというような顔をしている。
「人間の体は、6割以上が水分……これが月の引力の影響を受けるとしたら……あなたは信じるかしら?」
M・Hは振り返らずにいつもより妖しげな口調で語る。手にはいつの間に取り出したかホロスコープ天体盤。

「……M・H……君はいったい何者……?」
A・Kの問いに、彼女は視線を空から海面に落としつつはぐらかす。
「それは秘密よ……だって」
「『女は秘密が多い方が魅力的』って言われたしね……さて、最後に一つ」


――――――――――――


ソウルアバター「カルティマリナ」コクピット内。

「もうちょっと後ろに下がって……射程OK、射角5度補整、これでよし……A・Kさん!パラソルのとこまで下がってて!」
「何が始まるんだ!?」共同帯域通信からA・Kの声。
「もう隠す必要もないわね、祝砲よ!」

海面からは純白アシカ機体の半身が天を衝くように顔を出している。
ノーズ部分が光り輝き、青白い光球が発生!球回し芸めいて回転しながらその出力を増す!

「ルリャーッ!!」

コクピット内でM・Hがシャウトを上げると共に、光球が垂直射出される!ジャイロ回転を伴って打ち上げられたそれは高空で花火めいて炸裂し、光の波紋と雫めいたパーティクルが満天の星空を幻想的に照らした。
「……Oh……」A・Kはただ息を吞むばかりだ。


「A・Kさん、誕生日おめでとう!!」


――――――――――――


「なんだかんだ言って楽しかったよな」
「そうね、でもそろそろ帰らないと」
「そもそも助けてもらうつもりだったんだ、でどうやって戻るよ?」
「A・Kがグラディエーターに乗ってわたしがカルティマリナで牽引。のんびり夜の海楽しんでね」
「最後まで至れり尽くせりじゃん。バー・メキシコにいい土産話ができた」

この後二人は特にトラブルに巻き込まれる事もなく翌朝にはバー・メキシコに帰還したという……。
だが、何か重要な事を忘れてはいないだろうか?


――――――――――――


そう、何故A・Kがバー・メキシコからあの無人島に移動したかという最大の謎の答えを読者諸氏においては知っていただく必要がある。

端的に言えば、M・Hが黒幕であり、実行犯だ。
CORONAの飲み過ぎで意識を失ったA・Kをカルティマリナに積み、高速遊泳形態であの島まで運ぶとタイミングを見計らって偶然を装い救助を装って合流……という手口である。

では、動機は?
無論、サプライズパーティーである……だがなぜこのようなたちが悪く手の込んだ手段を用いたのか、それを知るのはM・Hだけである。


彼女は、秘密が多いことが魅力なのだから。


【グラディエーター・ウィズ・アイランド】完

スキするとお姉さんの秘密や海の神秘のメッセージが聞けたりするわよ。