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世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 4-4 スズの思い出とルコ④

「ただいまー」

 俺たちはスーパーで買い物を済ませ無事家へと帰宅した。
 だが、ルコの様子は相変わらずだ。

「タカシちゃぁん、おかえりなさぁい。今日のご飯は何ぃ? 何ぃ?」

 玄関を開けるなり、ツキに出迎えられた。
 俺を待っていたというよりかは、明らかに買い物袋の中身を気にしている。

「今日はカレーですよ。」

「やったぁ!」

 そう答えるとツキは年甲斐もなく子供のように飛び跳ねてはしゃぎ出す。

「かれーってなんですの?」

「名前からして辛そうだ。」

「辛い……にがて……」

 どうやら3人はカレーを知らないようだ。
 俺としてはそんな事より次のステップとやらの情報を早く聞きたいのだが、皆は夕飯に興味津々だ。
 3人は猫だけどカレー食って大丈夫なのかと思ったが、ここ数日は俺と同じものを食って体調を崩していない。
 猫といっても妖怪なので大丈夫なのだろう、と思う。

「大丈夫だよ。ちゃんと中辛と甘口を鍋を分けて作る予定だからな。」

 スズを迎えに行く時間も近いため、俺はキッチンへと急ぎ向かった。
 ただし、夕飯のカレーでひと騒動あったのだが、それはまた別の話。

ーーー

 スズは宿題と明日も朝練が早いとのことで足早に自室へと戻っていった。
 以前と比べると明らかに早い時間帯に自室へ戻っていることから、おそらく宿題と朝練は理由付けだろう。
 スズは俺たちへまだ心を許してはいないようだ。

 帰宅後、スズを迎えに行き、夕飯を終え、風呂にも入った。
 結構な時間が経つというのに、ツキは次のステップについてなかなか話さない。
 今はリビングでツキと3人とでテレビを見ている。
 ツキに対してイラ立ちがつのり、とうとう俺から切り出した。

「ツキさん。いったいいつになったら次のステップとやらについて話してくれるんですか?」

「そうだったわねぇ。忘れるところだったわぁ。あ! でも今いいところなの! あははは!」

 ツキはソファーの上でテレビに映る今流行りの芸人を指差して笑い転げている。
 俺はその姿を見て大きくため息を吐いた。
 こんなことでスズを取り戻せるのだろうかと不安がよぎる。
 ため息と同時にテレビの番組が終わり、ようやくツキがソファーから立ち上がった。

「それじゃタカシちゃん、始めましょうかぁ。」

 唐突に始めると言われるとそれはそれで緊張が走る。
 ツキは3人へ視線を向けて、何か自分の娘を品定めするかのように顎に手をやって頷いている。

「今日は、ルコちゃんにしましょうかねぇ。」

 何を基準に選んだのかは不明であるが、ルコが選ばれたようだ。

「わ、わたしですの? よくわからないのですが、何をしたら良いですの?」

 そう言うルコの目には期待なのか不安なのかわからない色が映っている。

「うふっ。簡単なことよぉ。タカシちゃんと今夜一緒に寝てちょうだぁい」

「えっ!?」

 寝るってどう言うことだろう。
 言葉どおり、そのまま一緒に寝ると受け取ったら良いのだろうか。
 それとも……。
 それを考えると、自分の心臓がバクバクと鼓動しているのが服の上からでもわかりそうだ。
 思わずその真意をツキに確かめる。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。どういうことですか?」

「あらぁ? だから次のステップに進むのよ? タカシちゃんの中にあるスズちゃんの思い出をルコちゃんに共有してあげるのぉ。そのためには2人でタカシちゃんの思い出の中へ入る必要があるのだけれど、肉体では入れないから2人が夢として思い出の中へ入るのよぉ。」

 次のステップとは、もうスズの思い出の共有のことだったのか。
 だが、共有する前にルコをデレさせる必要があったのではなかったのか。
 俺が戸惑っていると、ツキが頭の中で囁いてきた。

『タカシちゃん、心配しなくても準備は整っているわよぉ。』

『ど、どういうことですか?』

 それはつまりルコが俺へ?
 そんな、まだ出会って間もないというのに俺はルコに何をしたのだろうか。
 俺が煮詰まっていると、更に頭の中にツキの声が響いた。

『ルコちゃんのタカシちゃんへの好感度が3人の中でも高くなってきたわぁ。それに思い出にもスズちゃんのデレ度があるようで、この好感度なら同じようなデレ度の思い出があるんじゃないかと思ってねぇ。』

『ル、ルコの俺への好感度……。と、とりあえずわかりました。でも、俺はどの思い出がちょうど良いのかわからないのですけど。』

『大丈夫よぉ、ちょうど良い思い出があれば思い出の方から糸を2人へ近づけてくるはずよ。あとはタカシちゃんがその思い出の糸をたぐりよせられればオーケーよぉ。』

『思い出の方から俺たちに近づいてくれるんですか。で、その思い出を俺が思い出すってことですね。細かくはわかりませんがとにかくやってみます。』

『タカシちゃん! その意気よぉ。」

 しばらく頭の中でツキと話していたので、ルコには俺が困っているように見えたのだろう。

「タカシさん、どうしたのですか? 私が一緒ですと困ることでも?」

「い、いやそんな事はないけど……」

 ルコは動揺もせず堂々としている。
 一緒に寝ることに抵抗がないのだろうか。
 俺はこんなにも動揺して汗でびっしょりになっているというのに。
 せっかく風呂に入ったのに、寝る前にもう一度シャワーで汗を流したほうがよさそうだ。
 ルコと一緒に寝るのだから臭いと思われてしまう事は避けたい。
 でも、スズには「お兄ちゃんの汗の匂い好き」とか言われたことがあるのでルコにも通用するのでは。
 いや、俺は何を考えているんだ、どんなプレイだよ。

「タカシさん!」

「は! はひっ!」

「さっきから何をぼーっとしているのです?」

 俯いて汗だくになっている俺をルコが下から覗き込んだ。
 久しぶりにルコと目が合った気がする。
 先ほどまでのルコとは打って変わって、その目は力強かった。
 ルコは目的を果たすために、この一緒に寝るという行為に真面目に向き合っているのだ。
 よこしまな考えをしていたのは俺だけだったことに気づき、恥ずかしくなる。

「お母様、それじゃ私はタカシさんの部屋に布団を運びますね。」

「あらぁ? 一緒の布団で寝るって意味だったんだけどぉ。」

 それを聞いたルコは、それはもう石のように微動だにせず固まった。
 しかも、耳まで真っ赤な顔のおまけ付きだ。
 どうやら、一緒にに寝るの意味を一緒の部屋で寝ると勘違いしていたようだ。
 普通に考えると一緒に寝るとはそういうことだと思うが、ルコを人間の普通で考えないほうがいいのだろう。

「お、お、お、お、お母様!? 一緒の布団で寝るって、そうしないといけない理由がありまして?」

 もう明らかに俺より動揺している。
 それを見ると逆に俺が冷静になっていく。 

「一緒の布団でというよりかは、寝てる時に2人の距離が物理的に近くないと2人に同じ夢を見せる事ができないのよぉ。だから必然的に一緒の布団でってことになるわねぇ。」

 それを聞いたルコはうずくまって頭を抱えてしまった。
 わなわなと震えている。
 それを見ると、さすがに俺も悪い気がしてしまう。

「ツキさん、ルコの都合もあると思うので。それに俺と寝るのも嫌かもしれないし、ちょっと今日のところは……」

「タ、タカシさん! 大丈夫ですわ!」

 言いかけたところでルコはすくっと立ち上がって真っ赤な顔面を俺に向けた。

「わたくし、タカシさんと一緒にに寝るのが嫌なわけじゃないですの!」

「お、おう。」

 そんな直球に言われてしまうと照れてしまう。

「ただ、心の準備ができていないだけですわ。先に電気を消して布団に入っていてもらえますかしら?」

 電気を消すとは、やっぱり恥ずかしいのだろう。
 でも、逆に待っている側としては暗いと雰囲気が出てしまい、むちゃくちゃ緊張してしまいそうだが。

「わ、わかったよ。」

 俺はそう言って自室へと向かって歩き出した。

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